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空を飛ぶのは難しい

 昼になったら食堂で飯を食ってから、研究室で魔法の研究。

 授業の時間五分前になったら、教室へ向かった。

 今日は魔法陣作成技術についてだ。

 前回までは一通り初級の魔法書の種類などの紹介となってしまったが、今日からは自分の好きな魔法の分析や実際に写してみる授業にする予定だ。

 魔法書を使う魔法使いは非常に多いので、魔法書を作る職に就きたい、もしくは自分専用の魔法書で冒険者などをしたいという人がこの授業を受けに来る。

 そのため大人数で行うことになるので、基本的には個人が自分の力で試行錯誤していかないと、オリジナルの魔法を作れるようにはならないだろう。

 そのことは最初の授業で言ったので、まあ大丈夫だと思う。

 あとは人数が本当に多いので、サポート役の教師が二人ついてくる。

 突然の時間変更で迷惑がかかってしまっただろう。

 僕は五の魔法使いだから、たまーにそういうことはある。

 だから問題はないかな。


 チャイムが鳴る前に教室に入って、授業の準備を始める。

 教師二人も来ていて、僕が来ると挨拶してきた。


「今日の朝の会議はこれていたのに、突然時間変更になって驚きましたよ、ニファン先生」


 実技の授業を主に担当している男性教師のマカロフ先生がメガネのレンズを拭きながら言っている。


「僕も時間を変更する予定ではなかったんだけどね。まあ仕方ないよ」


 適当なことを言っておき、僕は椅子に座って一息つくと、ポケットから生徒たちの手本となる魔法書を取り出していく。

 もう一人の主に古代魔法についての授業をしている女性教師のクレール先生が、相変わらずぶかぶかなロープを身に纏い、顔が見えないほど深くフードを被った姿のまま、僕が取り出した魔法書を一つひとつ確認していく。


「流石、ニファン先生。これ、まだ白紙のある書き途中の魔法書。それを惜しげもなく人目に晒すだなんて、やはりあなたは変人」


 クレール先生が感情の籠らない声で魔法書を開きながら言った。


「別にそれが最先端ってわけじゃないからな。それに未完成のショボい魔法を使っても意味ない」


「……どの魔法が未完成?」


「描いてあるなかの最後の魔法陣」


「これが? 十分高性能な分身術」


「ディゼオへのプレゼントなんだ。だからもっと長時間の活動を可能にしなければならない。ディゼオにはもっと働いてもらうからさ」


「鬼畜」


「クレール先生には言われたくない」


「二人とも、もうすぐ授業ですので、早く準備をしてください」


 マカロフ先生に注意されてしまった。

 生徒たちはほぼ全員教室にやってきているので、そろそろしっかりと教師をやっておくか。

 いつもしっかりと教師はやれていない気がするが。


 チャイムがなったので、号令して授業を始める。


「今日は授業時間を変更してしまい申し訳ない。今後もこういうことがあるかもしれないが、出来るだけ学園の仕事を優先するつもりだ。では、今日の授業だが――」



〜〜〜〜



 授業が終わり伸びをする。

 生徒たちは今も僕の魔法書のなかで気に入った魔法を書き写しているから帰るわけにもいかない。

 魔法書を盗んむ生徒はいないので、安心して貸している。

 盗んでも僕ならすぐわかるし、仮に盗まれたことに気がつかなくても、この魔法書たちは僕の家の場所を記憶しているので、時間が経つと空を飛んで帰ってくるようにしてあるから問題ない。

 なかなか苦労した魔法だから空を飛ばせる魔法はディゼオ以外の誰にも教えていないが。


 さて。魔法書が返ってくるまで、魔法道具を作っておくか。

 その前にユリアがしっかりケルトを子守してるかの確認が先か。

 僕の家のおもちゃ版のような魔法道具を取り出してみる。

 僕の魔力を認証させ、起動すると庭に置いてあった人形のうち二つが動きだした。

 片方は小さいので、ケルトのことを指しているとわかる。

 人形二つは家の中に入っていった。

 さて、今日僕とディゼオが仕事に出かけてから外出した人の数はいくつだろうか?

 転移の魔法道具のガラスのような画面と同じような画面を出して操作し調べる。

 うん。しっかりゼロのようだ。

 入った数もゼロ。

 問題なさそうだな。

 家の二階部分を取り外してみる。

 一階のリビングに人形たちはいた。

 なにやらハイタッチを繰り返す謎の遊びをしているようだ。

 二階部分を取り付け、人形たちを最初に寝かせていた庭に戻して、魔法道具を停止させる。

 停止すると人形も家もくっついて離れないようになっているので、なくしたりしなくて安心だ。

 家の魔法道具はしまって、別の魔法道具を作ることにする。

 といっても教室で作るのだから小さめのものを作るべきだろう。

 ただの暇つぶしだし、この間マーヤに教わった折り紙でもして遊ぶか。

 真四角に切った紙に下等の魔物の血で魔法陣を描いていく。

 風の属性を軸に、簡単な魔法文字を付け足していった。

 それから核となる魔宝石……いや今回は魔石だな。

 虫の蟻より小さい魔石を魔法陣の中心に置く。

 そして中心からズレないよう気をつけながら紙を折っていった。


「何してるんですか?」


 マカロフ先生が不思議そうに僕の手元を見ている。

 クレール先生も一度作業の手を止めて興味深そうに僕の手元を見つめ始めた。


「僕の教え子から教わった遊びを僕なりに工夫してるんだ」


 よし。鶴の完成だ。

 後は魔法発動のキーとなる呪文を唱えればいい。


「折り鶴よ、飛び立て」


 手に乗せていた鶴は魔石の魔力を使って魔法を発動させる。

 すると羽がパタパタと動きだし、ふわりと宙に浮いた。

 そのまま僕の頭上でくるくると回り出す。

 うん、成功だな。


「これが遊びですか?」


「そう。といっても魔石だから長くは飛べない」


「人間も飛ばせたりしますか?」


「それは無理。人間を飛ばすならもっと大規模な魔法を使うし、魔力の量ももっとないと。魔法道具にするにしても魔宝石を何個使うことになるかわからない。何個も使うとして、魔法陣だってその分大きくて細かく高度なものになるだろうし、発動に成功しても、魔宝石だって魔法陣を描いたものの重さもある。さらにその分も浮かせるとして、もっと魔宝石が必要になるだろう。仮に全ての魔宝石は質のいい膨大な魔力を抱えた魔宝石だとしたら重さは軽減されるだろうが、それを集めるのにどれだけの費用がかかることか……考えれば考えるほど気が遠くなるよなぁ」


「やっぱりそうですよね。一度ネズミ一匹を浮かせる実験をしたことがあるのですが、魔宝石は二つ三つ必要でしたし、魔法陣も複雑過ぎて何度書き直しても浮いてくれませんでした。九年ほどかけて改良を重ね、魔法属性の割合や文章の並び、単語の数をどうにか適切にして、やっと浮かせることに成功しましたし……」


「それ少し気になるな。どんな魔法陣になった?」


「この学園の卒業試験で論文と論文関連のプレゼンテーションを行ったので、それについての資料が残っている筈です。探せばぼくが描いた魔法陣も見れると思いますよ」


「わかった。暇なときに探してみよう」


「それとあの紙はどうやって飛ばしているのですか?」


「あー、あの紙は特殊で植物から作ったものだからとても軽いんだ。といっても僕は生徒からもらっただけでどこで売っているのか、どう作ってるのかは知らない。軽いなら弱い魔力でも少しの時間飛ばすことは可能だろ?」


「確かに重さでかなりの魔力を消費していたので……」


 丁度魔石の魔力が切れたのか、折り鶴が僕の頭の上に落下してきた。

 そのまま床に落ちそうになったので慌ててキャッチする。

 その鶴をマカロフ先生に持たせてみた。


「確かに羊皮紙より圧倒的に軽い。これは画期的ですね」


 本当にマーヤはなんでこんなものを持っていたんだか。

 紙もマーヤからもらったんだ。

 まだ何枚かあるから暇つぶしに持ってこいだろう。


「これ、解体したい」


 興味津々で僕たちの話を聞いていたクレール先生が、マカロフ先生から鶴を奪い取って僕に聞いてくる。


「破いたり燃やしたり、紙を傷つけるような真似をしないなら自由に使いなよ」


「ありがと」


 クレール先生が鶴を綺麗に解体して、僕が描いた魔法陣を食い入るように見つめ始めた。

 マカロフ先生も魔法陣をちらりとみた後、苦笑いして僕にまた話しかけてくる。


「サラサラっと描いた魔法陣があれですか」


「……もう少し長く飛べるように改良したいね。魔力の浪費が激しすぎる。もっと効率よく出来る筈だ。即席だからまあ仕方ないけどさぁ」


 改良したいな。


「ニファン先生、その即席で魔法の発動を成功させるということ自体が異常なんですよ?」


「わかってるよ。だからこそ僕は五の魔法使いになれたわけだ。他にも理由はあるけどね」


「なんというかニファン先生って感じですね。どこまでも、魔法を最高の形にしようと研究する姿はぼくも見習わなければいけませんよ」


「マカロフ先生も凄く頑張ってるってイメージがあるんだけど」


「ニファン先生には及びません」


「まあ僕は天才だからな。及ばないのは仕方ない」


「まさしくその通りですね。流石はニファン先生です」


 マカロフ先生は素直に僕を褒め称えてくれるから最高だ。

 僕が生徒だったころはほかの教師と同じように、僕のことを問題児扱いしてたし、僕が教師になりたての頃も不安がっていたけど、すぐに僕の力を認めてくれて、今では僕をべた褒めしてくれる。

 ……剣聖のべた褒めとは次元が違う、素晴らしい褒め方をマカロフ先生はするよな。


「ここ、火属性文字を使ってるのは何故?」


 クレール先生が折り紙に書かれた魔法陣を指差している。

 紙を覗き込んでどこのことを言っているか確認した。

 ここは浮くために必要な箇所だな。


「この紙は植物。しかも乾燥している。燃える」


「いや、この火属性の文字は熱を発するだけで、燃えるような魔法文字じゃない。水を沸騰させる時も、火がつくわけじゃないだろう?」


「……でも何故ここで使う?」


「昔、黄金を使った豪華な魔法道具を作ろうとしたとき、金箔っていう薄い金の存在を知ったんだ。それをなんとなく溶かしてみようと思って熱したフライパンの上に置こうとした。でも金箔飛んでっちゃってさ」


「……なんで溶かす?」


「薄いほうが溶かしやすそうだろ? トロトロの金とか見てみたくならない?」


「……ニファン先生は不思議。……それでなんで飛んでいった?」


「金箔が飛んでった理由か? んーと……どうやら熱は上にいく性質があるようだぞ? 金箔は薄いから小さな空気の流れに乗せられて飛んだんだと思う……たぶん。熱が上にいくというのなら、それを魔法に取り入れてみれば面白いに違いない。だから取り入れてみた」


「面白い」


「だろ?」


 他にも空を飛ぶための魔法について語り合っていると、いつのまにか生徒たちが熱心に僕たちの話を聞いていた。

 流石魔法学園の生徒。

 真面目だなぁ。

 生徒に貸していた魔法書は全て返ってきているようなので、それらをポケットにしまう。


「ニファン先生が生徒時代からその白衣を着ていますが、そのポケットどうなってるんですか?」


 マカロフ先生が聞いてくるので、異空間収納にしていることを話す。

 ついでに結界の魔法陣も積んでいるというと、もっと驚いてくれた。


「どんなものも魔法道具」


 クレール先生が少し呆れたようにいう。


「僕がよく使うもののほとんどは魔法道具に改造してあるに決まっているだろう」


「流石ニファン先生ですね! 日常的に魔法に触れていたいという心の表れです!」


 マカロフ先生が絶賛してくれた。

 ふふふ。やはりマカロフ先生は僕の素晴らしさをわかっているな。

 クレール先生は特に反応もなく、僕の白衣のポケットに手を突っ込んだり、白衣の内側の魔法陣を興味深そうに見つめたりと、忙しそうにしていた。


「魔力をどれだけ流し込んでも反応しない。どうやっている?」


「鍵をかけてる」


「どうやって?」


「それはまだ試作段階だから秘密」


「……いつもは試作段階でも教えてくれる」


「そうだな。でも個人的に力を入れてる研究でね。もう少し改良を重ねてみたいんだ。それに、まだまだ隠している研究課題も沢山あるんだよ。最高の形で世に出て欲しいから」


「……ニファン先生は魔法に愛を注ぎ過ぎ」


「いいじゃないか。そのほうが魔法も答えてくれる」


 そろそろ帰ってケルトの魔宝石探しをしようか。


「そろそろ行くわ。マカロフ先生、クレール先生、またね。生徒諸君も次の授業でまた会おう」


 そう言ってから僕は教室を出た。

次話は5月16日投稿予定です


前回予告した16日じゃなくて、なんか9日に投稿出来ちゃうという……。

一週間投稿も出来なくなるかもと思いながらも何故か出来ているので、私にはきっと、週一で投稿せざる終えないという呪いでもかかっているのでしょう笑



5月22日追記

授業内容を少しだけ変えました

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