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職員会議

 ディゼオとケルトが起きてきたので、ケルトにユリアを紹介しておく。

 といっても本当のことは話さず、ただの友達ってことにしておいた。

 さて、ここで問題なのがケルトをどうするか。

 ケルトの保護者的な存在であるマジナーサはケルトの魔宝石を探しに行ったっきり帰ってこないので、神聖ミアナッシーク王国に向かってしまったと思われる。

 マーヤと、マーヤについていったスティナ、エリックも同じようにミアナッシーク王国に向かってるだろう。

 子守するなら僕かディゼオだろうが、僕たちにも仕事がある。

 ユリアはダメだな。人身売買を行いそう。

 ディゼオとどうしようかと話していると、ユリアが手をあげた。


「私がケルトの面倒みるわ」


「駄目だ。ケルトに何かあったらお前、本気でやばいぞ。責任とれんの?」


「ニファンの親戚の子か弟子なんじゃないの?」


「違う。五の魔法使いのうちの三であるマジナーサ・グンブラ・トゥイーゼオの子分だ」


「……五の魔法使いってもしかして仲良いの? 子供預かるくらい?」


「魔法のこと抜きなら仲良いんじゃないか? 魔法のことになると喧嘩するから。あー、でも魔法王とだけは仲良くないかな。なんか胡散臭くて苦手なんだよ」


「そうなのね。もっといがみあってるもんかと思った。でもケルトのことは任せて頂戴」


「……ケルトこと任せるならこの家から出るな。それが条件だ」


「いいけど、警戒しすぎよ?」


「昔、とある盗賊団に捕まって奴隷として売られそうになったからなぁ。外は怖いもんなぁ」


 元盗賊団、今も泥棒してるお前は信用ならない。

 僕が売られそうになったのは四歳の頃だしあんまり覚えてないけど、ケルトが売られそうになったなんてことになって、それをマジナーサに知られたら恐ろしい。


「……わかったわ。この家から出ない」


「家から出たら僕の魔法道具でわかるからな。絶対出るんじゃないぞ。まあ、庭までならいいが、塀から外は出るな。客が来たら門は開けず、学園に僕がいることを伝えるか、無視してくれ」


「はいはい。信頼されるよう頑張るわよ。せっかく良い人を見つけたんだから」



〜〜〜〜



 ケルトのことをユリアに任せたので、僕とディゼオは仕事に向かう。

 今日の始めの授業は十一時から十二時で魔法陣作成技術についてだ。

 まだ六時だけどディゼオが来いっていうからついてきたが、授業の時間まで何しようか?

 普通に魔法関連の研究、開発をしようか?

 いや、たまにはほかの授業の見学なんてのも面白いかも知れないな。

 いつもは放棄している報告書の作成もやってみるのもいいかも。

 学校にいる間ずっと付きまとってくるマーヤがいないため、いろんなことがやれるぞ。

 でもはやくマーヤで実験したいから、そばにいてほしい気はするが。


「ニファン。久しぶりに職員会議に出てみないか? もうそろそろ戦術祭だろ」


 戦術祭。今まで学んだ魔法や作った魔法道具を使って戦い、強さを競う祭りだ。

 国王も毎年楽しみにしてるほど人気がある。

 僕は基本、見ているだけなので僕が出席する意味はないと思う。

 でも見るだけでも魔法が沢山溢れる祭りなので結構楽しいが。

 せっかくの戦術祭だし、たまにはお手伝いするかな。


「わかった。出よう」


「最近やることが多すぎる気がするが、大丈夫そうか?」


「ケルトの魔宝石探しはたぶん、すぐ終わるだろう。マーヤたちとダンジョン行くにしても、僕は学園で仕事をしているから夏にとる予定の長期休暇の間に行くことになる。戦術祭は夏休み前だから問題ない」


「そうか。あとダンジョンについてだが、プーナのダンジョンに行って欲しい」


「なんで?」


「そこに魔宝石を運び込んでいるやつがいてな。目的がなんなのかわからないが、そこにニファンの魔宝石があるかも知れない。ついでに目的についても調べて欲しい」


「……神の使徒と王子サマと女子生徒を連れてか?」


「ああ、そうだ。マーヤちゃんについては心配いらないぞ」


「マーヤのことなんか知ってんの?」


「国王から直々に聞いた。これはニファンには伝えられないが、いずれわかるだろう。今は知らなくても夜の仕事の邪魔にはならないと思うから問題ない」


 なんか気にくわないけど、ディゼオがそう決めたのなら仕方ない。


「で、そのダンジョンってどこにあるわけ?」


「カンナムグラ王国の外れ。プーナの森の奥にある」


「……ん?」


 それってもしかしてユリアが行きたいって言ってたダンジョンじゃなかったか?

 ユリアの話ではダンジョンがまだ起動しており、古代人がいるかもって感じだったか。

 ダンジョンは古代の人々が作った建造物で、危険なドラゴンを捕まえるための罠として活用されていたらしい。

 詳しいことはわからないが、ドラゴンが好むようなキラキラとした宝がダンジョンに設置されている。

 宝は時間が経つと、また宝箱の中に出現する謎の技術によって永久的に出現するので、冒険者たちが一攫千金を求めてダンジョンに入っていくが、またもや謎技術によって生み出された人口の魔物によって亡くなってしまうこともある。

 起動中のダンジョンというのは宝箱や魔物以外に、ダンジョン内の迷路のゴールまでの道が毎日違かったり、空がある場所では天気が変わったり、魔物の種類が突然変わったりなど、様々なことが起こり得る。

 起動中のダンジョンは古代人か古代人から知識を受け継いだ末裔だと言われているが、何故か隠れ住んでいるんだ。

 会えたら是非とも魔法談議をしたいんだがなぁ。


 おっと、思考が脱線した。


「学園長。せっかくだし、そのダンジョンに行ってみるよ」


「おう。じゃあそろそろ会議室に行くぞ」



〜〜〜〜



 久しぶりに来た会議室には、もう教師陣が揃っていた。

 さて、椅子が一箇所しか空いてないのだが、僕はどこに座ればいいのだろうか。

 ディゼオに目で訴えると、仕方なさそうにディゼオが椅子を取ってきてくれた。

 流石ディゼオだ。

 その椅子に座り、ディゼオも隣の空いている椅子に座る。


「さて、職員会議を始める」


 僕に視線が集まっているが、ほとんど会議に出席しないから珍しいのだろう。

 しばらくそれぞれの担当しているクラスについての報告をしていく教師たち。

 僕はクラスを持ってないので特になにも言うことはない。

 そして暇でつまらなくてポケットから魔法道具を取り出し改良を始めてみたら、怖い目で笑っているディゼオの拳骨を思いっきり頭に落とされた。

 

「いってええ!」


「話に集中しろ。それから魔法な」


「ひでえ。この僕から魔法を取るなんて!」


「いいからそれを片付けろ」


「……はーい」


「すまんな。報告を続けてくれ」


 名残惜しく思いながら魔法道具をしまい、教師たちの話を聞く。

 面白い話もなく、会議に出席したことを後悔し始めたころ、やっと報告が終わった。


「では約一ヶ月後に控える戦術祭についての話に移ろう」


 ああ、やっと祭りの話か。


「戦術祭はチーム戦と個人戦でわける形でいいとして、何か新しいことを取り入れたい者はいるか?」


 何人かが手を挙げて意見を述べるけど、魔法研究の成果の発表というかプレゼンテーションや便利魔法のお披露目など、それは魔法使いからみれば面白いだろう。


「ニファンはつまらなそうに口を尖らせているが、なにを求めてる?」


「派手さ。確かに便利魔法とか魔法研究って素晴らしいよ? 僕も開発してるし、魅力的ではある。でも違うじゃん。戦術祭なんだ。戦ったりして派手なことしようよ」


「一理ある。戦術祭を見に来る一般客に魔法研究の成果とか言ってもよくわからないだろうし、便利魔法も凄いっちゃ凄いけど、それを見に来たわけでもないしな。個人的に面白そうではあるが」


「わかる。便利魔法は簡単に使える割に作るのは難しいからな。生徒たちがどう考えて、どう作るのかとても興味がある。でも国王も見るんだ。そんな地味なの意味なくない?」


「ニファンにしては珍しく真っ当なこといってるな。で、派手なものってどんなものだ? 戦いは最初から生徒がやってくれるだろうし」


「んー……大魔法を打ち上げるとか、古代魔法を皆で発動してみるとか?」


 大魔法といっても古代魔法よりしょぼいし、古代魔法のほうがより派手か。


「お前はアホか! そんなことしたら会場が吹き飛ぶ!」


「え? そんなことないぞ。大魔法も古代魔法も危険でないものを使えばいい」


「危険でないもの?」


「例を挙げるとしたら、幻影魔法が一番かな。あとは火属性以外の一般的な属性魔法を工夫すればなんとか。火でも問題ないっちゃ問題ないかな?」


「どう演出するつもりだ?」


「演出? 幻影魔法なら自由自在だぞ。神話の戦いとか話を元に、会場全体を使った絵本でも作れば?」


「……魔法を使った劇みたいなものか。今まで以上に戦術祭の開催期間が長くなりそうだが、良い案だ。誰か幻影魔法を得意とする生徒はいるだろうか? 大規模になるはずだから、何人かいるといいな」


「学園長先生。お言葉ですが、広範囲に幻影魔法を展開し、更に鮮明で強力な幻影を見せられる使い手はほぼおりません。使える者でも相手が幻影に耐性があれば、幻影を見せることは出来ないので全ての人に楽しんでもらうことができません」


 メガネの奥にあるキリッとしたつり目、夏の木の葉を思い浮かべる緑の髪、そんな気の強そうな女教師が言っている。

 言っていることは間違いではない。

 強力な幻影魔法を使える者は少ないのは事実。


 普通の幻影を見せるだけなら簡単だ。

 相手の恐怖心などを刺激して、トラウマを呼び起こし、それを見せればいい。

 その場合、術者は相手が何を見ているかわからないが。


 そして今回の場合は術者が思った通りのものを相手に見せる必要がある。

 想像力、集中力、胆力、魔力量など様々なものが必要だ。

 でもそれらを全てを持つものは少ない。

 未熟なものがやると、幻影がぼやけたり、動きが変だったり、酷い時だと、色がごちゃまぜになって気持ち悪い色が世界を埋め尽くすからな。

 ディゼオは彼女の言葉に深く頷く。


「それはわかっているが、この学園には魔法道具を作る学科もある。だが一から作るのは難しいため、参考として幻影魔法の使い手がほしい。注意点などは魔法使いも魔法道具も似ていることが多いからな」


 おっ、ディゼオわかってるね。


「でも、そんな高度な魔法道具を作れますか?」


「問題ないだろう。ここにはニファンがいるんだからその指導のもと頑張ればいける」


「ニファン先生なら大丈夫でしょうが、生徒たちのことが心配です。噂ではニファン先生の授業で精霊を呼び出す大魔法を使ったとか、大魔法の開発を生徒の前で平気で行なっていたとか、魔法道具を作り始めて授業をほったらかしにしたとか、ニファン先生の授業態度に問題があるかと」


「ニファン、この噂は本当か?」


「んー、半分嘘、半分本当ってところ?」


「詳しく言え」


「精霊を呼び出したことはあるが、それは大魔法ではない。僕が話しかけて、たまたま精霊が心を開いてくれたからだ。次に大魔法の開発だが、それは魔法使いにとって一番の憧れだ。それをただの憧れにせず、これからは彼らが開発出来るように手本を見せたまでだ。それから授業をほったらかして魔法道具を作っているという話だが、そうではない。その時間は生徒たちも魔法道具を作ることに夢中になるのだから、やることがない教師だけが何もしないなんてそれこそ怠慢だ。生徒と同じことをし、助けが必要な場合は僕が生徒一人一人しっかりと対応する。さらにいうなら作っている姿をみせ、その技術を盗ませてもいるんだ。……これではダメか?」


「ニファン……お前、頑張ってるんだな。偉いぞ」


「そうだ。僕は偉い。もっと言ってくれていい」


「そういうところさえ直せば完璧だ」


「なに? 僕は今でも完璧だろう」


「……そういうところがダメなんだって何度も言ってるんだがなぁ」


「うっせえ」


 僕たちの様子を見ていた緑髪のメガネ教師を見てみると、彼女は唖然としているようだった。

 何を驚いているのか……。

 僕が見ている方向をみて、ディゼオは何か納得したように頷き、口を開く。


「マルネミック先生。ニファンには悪い噂が付きまとうが、それは魔力量が少ないのに五の魔法使いとなったニファンに納得がいかない者、悔しいさにニファンを貶めようとする者、本人の偉そうな性格のせいで不快な思いをしている者のせいだと思ってくれ」


「わ、わかりました。しかし意外ですね」


「何がだ?」


「……学園長先生とニファン先生って親子みたいです」


「はぁ!? 俺とニファンが親子だ!? ありえない。父親っぽいことなんて全くしてやれていないんだぞ」


 ディゼオはそういうが、ダメなことはダメと言ってくれるいい先生だ。

 親だったらどれだけ良かっただろうか。


「ディゼオパパー」


 ふざけて言ってみた。


「ニファンふざけるな。俺はまだ独り身……。ああ、そうだ、俺はまだ、独り身だった……」


 すまんな。俺にかかりきりで相手が見つからなかったんだろう。

 ……いや、会ったころはもう三十だった気がするし、ディゼオがモテないだけか。

 ディゼオが結婚したらいい夫になるだろう。

 そしていい父親にも。

 ……ディゼオに子供が出来たら嫉妬しそう。


「ディゼオが僕の父親だったら良かったのになぁ」


「ニファン、ふざけるのも大概にしろ。怒るぞ?」


「……本音なんだけど」


「……」


「いやだって僕の親のこと考えてよ。それに比べたらディゼオは教師だったってだけで、卒業後も僕の側にいてくれるし、やりたいことをやらせてくれる。最高じゃん」


「いや俺はニファン教えてもらったことが沢山あるし、お前が出世しただけで俺も出世してしまったから、この恩を返そうと……」


「それだけで金ぴかに関与はしないよ」


「……この話はやめだ! 照れるしその、アレだ! ダメだ!」


「えー? なんなら俺を養子にもらっても良いんだぞ? 老後も安心! 便利な魔法道具で不便もなし! 望むものはなんでも叶える贅沢な暮らしが出来るぞ」


「魅力的たが、やめておく。年老いた俺が動けないことをいいことに、魔法の実験をしそうだ」


「ちっ、よくわかったな。不死身の研究をしようかと思ってたんだが……」


「おいやめろマジで! 失敗してゾンビになったらどうするんだ!」


「ならないって」


 でも僕以外がやればゾンビになりそう。

 不死身の実験の失敗の成れの果てがゾンビ。

 ゾンビは人を喰らい腹を満たすと同時に、食べた人をゾンビとして生き返らせて増えていく魔物だ。

 ダンジョンにそういう書物があったので、ゾンビの正体がわかったのは良いことではあるが、そのせいで不死身の研究は危険とされ、あまり手をつけるものはいなくなった。

 僕も最近は研究してないけど、したい気持ちはある。

 仮に失敗してゾンビになっても、頭を潰してサヨナラすればいいし。


「ニファンだけは家族にしたくない。友人のままでいてくれ、マジで」


「僕も家族はあんまり欲しいとは思わないからどうでもいいや」


「おい、さっきの全て冗談なのか?」


「半分冗談かな」


「ああ、そうかい……」


 僕は親という存在があまり好きではないからな。

 ディゼオが父親だったから大好きになってたかもしれないが。


「あの、仲がよろしいのは良いのじゃが、会議に戻ってくださいまし」


 学園長の補佐をしているおじいちゃん先生が言った。

 この人は前学園長でもあるが。


「あー、すまん。ニファンがいるとどうも調子が狂うな」


 ディゼオは僕に甘いもんな。

 チラッと見たことあるけど、ほかの教職員や生徒にはなかなか厳しめだし。

 きっちりかっちりって感じなんだよ。

 僕の前では酒大好きで優しくて面倒見のいいおっさんなのになぁ。

 共通しているのは、ディゼオは責任感が強いってところだろう。

 ミスのないように完璧を求めるというか、そんな感じ。

 犯罪に関わるという重大なミスを犯しているが、それは生徒であった僕が犯罪を(おこな)ったせいで、しっかり教育できなかった責任を感じてのことだろう。

 余計なお世話だが、ディゼオが本気で心配していることも知っている。

 つまりディゼオは良い奴だ。

2019年5月4日 20時追記

サブタイトル「半分冗談」が気に入らなかったので、「半分本当」に変更しました。

2019年9月18日 追記

なんかサブタイトルが違うと思ったので「職員会議」に変更しました。

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