大きくなる魔法石
ディゼオを転移の陣の部屋の外に出してから、僕とユリアはまた魔法陣の上に乗る。
そして学園の地下にある怪盗サーチの基地に転移してきた。
「持ち出さなければ好きなように過ごしてくれていいから」
「ホントに!? こんな大きくてキラキラな魔宝石、見たことないんだけど! 触っていいの?」
「いいよ」
「やったー!」
棚に並ぶ魔宝石の一つをユリアはそっと持ち上げて、恍惚とした表情で見つめている。
本当に魔宝石が好きなんだな。
僕は僕でやることやるか。
「ユリアの持つ魔宝石を出してくれないか?」
「この袋に入ってるから!」
麻袋を渡してくれた。
ユリアはすぐに棚の魔宝石の元へ向かってしまう。
まあ、勝手にやっとくか。
麻袋から全ての魔宝石を取り出し、一つずつ確認してから麻袋に戻していく。
これも違う。こっちも違う。
一度に全ての確認が出来ればいいんだけど、それも研究中だしなぁ。
一度だけ、二つの魔宝石を同時に確認できたことはあるけど、それ以降はできていないし。
あの時は精霊同士が仲良さそうだったから出来たのかもしれない。
まだ確証はない。
それに今まで精霊と話してきて、精霊は一対一で話したいっていうやつが多いって感じがするし。
いろいろ考えながらやっていると、珍しい精霊に出会った。
なんと、別の人間と契約しているというではないか。
ちょっと興味を持ったので少し話をしてみることにした。
「契約してる精霊がなんでこんなところに?」
僕の言葉に魔力を通して答えてくれる。
知らない人に売られたらしい。
「契約してる人ってどんな人?」
わからない?
わからないわけないだろう。
なに? 知らないうちに契約させられてた?
「……は?」
慌てて魔宝石を調べた。
すると、古代魔法の陣が描かれた魔力が精霊の魔力にへばりついている。
もっと調べると、精霊の魔力とは別の魔力が魔宝石の中に入っているのがわかった。
……これ、僕やケルトは別の人が僕のように魔力を奪われたんじゃないか?
ユリアはこの魔宝石をどこで手に入れたのだろう。
「ユリア、少しいいか?」
「ん? なにかしら?」
「この魔宝石ってどこで手に入れた?」
「あ、その魔宝石に目をつけるなんて流石怪盗サーチね。それはヒロマインツ王国で手に入れたわ。詳しいことは教えないわよ? あそこは私の狩場だもの」
「……良い度胸だな」
「な、何よ? 似たような魔宝石が欲しいってこと? 希少な魔宝石なんだから自分で見つけてよね。少しずつ大きくなる魔宝石なんて滅多にないんだから」
「これ、大きくなるのか?」
「ええ、知らずに聞いたの?」
これが大きくなる不思議な魔宝石なのか。
魔宝石の大きさが変わるのは宿る魔力の量が増えるときくらいじゃないか?
減るときはあまり変わらないし、魔力が尽きたら消失するからな。
大きくなるとしても普通なら百年とかしたらどんな魔宝石も魔力が増えているが、そういうことを言っているわけじゃなさそうだし。
目に見えて大きくなっているんだろう。
可能性として考えられるのは、精霊の急成長。
もしくは古代魔法で無理矢理契約させられた場合、魔力を奪われた人間の魔力が成長したことで、その分の魔力が精霊のほうに流れてるとしたら、魔力が増えるだろう。
そして魔力が増えた分が魔宝石として結晶化し、魔宝石はどんどん大きくなっていく。
僕は魔力を増やすために様々なことをやってきたから、もしかしたら想像以上に大きな魔宝石になっている可能性が……。
それならそれで、成長する巨大魔宝石って感じで有名になってるはずだが、そこは魔法組織デジメーションとやらが上手く誤魔化しているのかもしれない。
大きくなる魔宝石なんていままで見たことも聞いたこともなかったから、そんな魔宝石はないのかと思ってたよ。
可能性として考えてはいたが。
でも大きくなるらしい魔宝石の実物が手に入ったなら、そういう魔宝石を探せばいい。
っていっても、どのくらいの速度で大きくなるのかわからないし、僕が魔力の成長限界に達していたら魔宝石はもう成長するように大きくはなってないかもしれない。
まあ今は少しでも情報が手に入ったことを喜んでおこう。
でも今まで何年も探してきてずっと手に入らなかった情報が、こんな短期間で魔力を奪われた子供と、強制契約させられた精霊という大きな情報を手に入れるなんてどうなっているんだろう。
今まで影を潜めていた魔法組織デジメーションの活動が活発になって来ているということか?
そもそも魔法組織デジメーションの目的は一体なんなんだ?
「ちょっと、急に黙んないでくれない?」
「あ、すまん」
つい考えこんでしまった。
「その魔宝石がそんなに気に入ったわけ?」
「んー、まあな。僕の魔宝石に似ている可能性があるかなって思っただけだ」
「あなたの求める魔宝石も大きくなるの?」
「さあね。可能性はあるけど、確実じゃない。もう大きくならないかもしれないね」
「その魔宝石はあなたのじゃないわよね?」
「違うよ」
「ならいいわ。それ気に入ってるからあげたくなかったの。でも似たようなのみつけたら、見せてあげる」
「そうしてくれ」
とりあえず、もしものことがないように、ほかの魔宝石も出来るだけ確認していこう。
〜〜〜〜
夢中で魔宝石を確認していると、とんとんと誰かに肩を叩かれた。
顔を上げるとユリアが心配そうに僕を見てる。
いったいどうしたんだろうか?
「なんか用か?」
「今何時かしら?」
時計を取り出してみる。
……あれ? 五時?
これ朝の五時だよな?
地下だから朝か夜かわかんなくなる。
ユリアも僕の時計を覗き込んできた。
「やっぱりもう朝よね。……寝なくていいの?」
「んー、もう寝なくていいよ。あ、ディゼオには徹夜したこと内緒ね?」
「……わかったわ。で、ここから出るにはどうしたらいいの?」
「そういえば、お前一人じゃ出られないな」
ユリアは転移の魔法陣が使えないし、天井の穴も登れないし、仮に登れたとしても防犯装置が解除出来ないだろう。
ユリア用の通路を作らないといけないか。
他にもユリア用に魔宝石が保管できる棚か何かをまた何個か作ったほうがいいのかな。
まだいいか。
ユリアが裏切らないとも限らないし。
「また魔宝石が見たくなったら僕に言ってくれ。ここに連れてくる」
「勝手に入れないの?」
「勝手に入れるならそれでもいいけど、僕の防犯用の魔法道具に殺されても知らないよ?」
「あ、うん」
「因みにこの場所は、魔法学園の僕の研究室から来れる地下室だ。転移を使わないなら、僕の研究室の机の下から入れるよ。防犯装置あるから危険だけど」
「やめとくわ。転移なんて大層な魔法作っちゃう人の防犯装置なんて怖くて無理よ」
そりゃ残念。
ユリアの泥棒としての腕を少し見てみたかったのに。
それに死ぬような仕掛けは落下以外にはほとんどないんだけどなぁ。
まあ、スリープの魔法や感電の魔法もあるから動けなくなって、余程頑丈でなければそのまま落下死するだろうし、やめて正解かもしれないが。
ユリアと一緒に転移の陣に乗って家に帰ってきた。
ディゼオがいないことを確認しながらリビングに入る。
特にすることもないので、椅子に座って魔法陣でも作ろうか。
「ねえニファン。私ってこれからどうすればいいの? 勝手に家を出て冒険者の仕事やったりしていいわけ?」
「あー、別にいいけど、僕が帰ってくるまではこの屋敷に入れないと思うぞ?」
「……防犯対策してるの?」
「してるよ。魔宝石の部屋よりかは低いレベルの防犯対策だけどね」
「死んだりしない?」
「死んだりしないように調整はしてるけど、事故で死ぬことはあるかもな。頭打ったとか」
「じゃあニファンが戻るまではなんとか忍び込んでみるわ」
「もし忍び込めたならどうやって入ったか教えてくれ」
「えー、どうしよっかなぁ」
「ユリアが盗んだ魔宝石、さっきの地下室に置いてきたんだよなぁ。もうユリアに魔宝石見せないことにしようかなぁ」
「……あなたが怪盗サーチってバラすわよ?」
「いいよ。ちょっと生きづらくなるだけだ。でもそれやってお前がどうなるかわかってて発言してる?」
「なによ?」
「憎い奴には復讐する。ただで死ねると思うなよ?」
「そんなひょろっちいのに人殺せるの?」
「やろうと思えばね」
「でも戦いで近寄ってしまえばこっちのものよ? 私、魔剣士だから」
へぇ。
珍しい人がいたもんだ。
魔法と剣を使って戦う器用な人のことを、魔剣士というんだ。
「僕も一応魔剣士でもいけるんだよ? 魔法使いのほうが魅力的だから、普段は魔法使いで通してるけど」
「……意外過ぎるわ。剣も出来るのね」
「本当はやりたくなかったんだけど、両親の方針が剣士だったんだ。魔法使いより剣士に向いてるとか言われて傷ついた」
「……ニファンって魔力少ないし、今まで魔法にかけた時間を剣に注いでいれば、五の魔法使いじゃなくて、五の戦士にもなれてたんじゃないかしら? 魔法より才能があったんでしょ?」
「いいや、魔法のほうが才能あったね! 剣はどうしても好きになれなかったし、剣で魔法切れとか言われた時はマジで意味不明だったから」
「なにそれ。誰に剣を習ってたのよ」
「今の五の武士のうちの一。剣聖と言われる理不尽な化け物だな」
「は? ニファンって一般の出よね? 王族とかじゃないわよね?」
「普通の市民だよ。両親が魔法使いとして知られてたけど、五の魔法使いってほどでもなかったし」
「……なんであなた剣聖の教え子になってるのよ」
「知らん」
両親と剣聖が仲良かったから、昔になんかあったんだろう。
あの気持ち悪い性格の剣聖と何があったのかは知らんし、興味ない。というか知りたくない。




