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協力者

 食事を終え、ユリアを連れて酒場を出る。

 ユリアが逃げてもすぐ捕まえられるように探索の魔法を発動し、白衣に描いた身体強化の魔法陣がいつでも発動出来るように意識しておく。


「……ねぇ、なんの魔法使ってるの?」


「さぁて、なんでしょうね?」


「逃げたりしないわよ?」


「信用出来ない」


「まあ、そうでしょうけど」


「仲間とかいたりする?」


「いないわ。誰にも魔宝石を渡したくないもの」


「いつから泥棒してるのかな?」


「昔から。私は親に捨てられて盗賊団の人たちに拾われたのよ」


「盗賊団は仲間じゃないのか?」


「今はライバル。学園に通うためにアジトを出たとき、盗賊団の魔宝石を全部盗んだから」


「全部盗んだの? それはそれは、面白いことをするね」


「何よ。バカにしてるの?」


「バカにしてるわけじゃない。でも魔宝石を集めてどうするつもり?」


「別にどうもしないわ。ただ眺めているだけ。それだけで満足よ」


「ふーん。確かに綺麗だけど普通の宝石でもよくない?」


「魔宝石は大きなものが多いし、魔力のお陰でさらに煌びやかで綺麗だから集めたくなるのよ」


「へぇ」


「わかってもらわなくてもいいわ。理解されなくても私は魔宝石を盗んむことをやめられないもの」


 本当に面白い人だな。

 そんな理由で盗むのか。

 僕には理解できない思考だ。

 盗賊団で育った彼女にとっては、普通なのかもしれないけど。


「ここが私の泊まってる宿屋よ」


「お邪魔しまーす」


「警戒しないのね」


「してるよ。すぐに逃げられるよう準備してるし」


「あら、そうなの。見えないわ」


「僕は天才だからな」


 彼女が泊まっている宿屋の部屋まで来た。

 椅子に座って寛いでいると、ユリアは汚らしい小さな麻袋を持って向かいの椅子に座った。

 ……その麻袋、魔法道具か。

 その中に精霊の反応があるし、魔宝石もその中に入っているのだろう。

 ただ反応の数が見た感じの麻袋に入らないほどなので、異空間収納の陣が描かれている筈だ。


「で、なんのお話をするの? 魔宝石を見せて欲しいのなら今すぐ見せるわ」


「じゃあ見せてくれ」


「……お話は?」


「見ながらでも出来るだろう」


「……わかったわ」


 ユリアがテーブルの上で麻袋を逆さにすると、ガラガラと音を立てて魔宝石が出てくる。

 テーブルの上に山盛りになってもガラガラと出てくる。

 なくなる気配がない。

 あー、これ全部を確認するなら徹夜するしかないな。

 よし、徹夜しよう。

 テーブルから溢れた魔宝石が床にまた山を作る。

 何個あるのかもうわからないな。

 千は超えてる。

 二千も超えてる、か?

 とりあえず多すぎだろ。


 全部出切った時には宝石の山が五つ出来上がっていた。


「これで全部よ。だいたい五千くらいあるわ」


 一山が千個?

 やばいな。

 盗んだ数はユリアのほうが圧倒的に多そうだ。

 一つの魔宝石を手に取ってみる。

 これ確認作業、今夜中に終わるか?

 ……よし。ディゼオに相談しよう。


「ちょっと待っててくれないか? あ、逃げたりするなよ?」


「何? 役所に突き出す気?」


「違う。ちょっと仕事仲間に相談しに行くだけ」


「……兵士を連れてきたらすぐ逃げるからね」


「わかってるよ」


 逃げないことを願いながら、急いでディゼオに会いに行く。

 まだ僕の家にいるだろうか。

 転移して魔法でディゼオの居場所を探す。

 ディゼオはどうやらリビングにいるらしい。

 ずっと魔法を使っているからそろそろ魔力切れになりそうだな。


 リビングに行くとディゼオとケルトがご飯を食べていた。

 ケルトってどうすればいいんだろう。

 この時間までマジナーサが迎えに来ないってことは、まさか魔宝石を見つけ出すまでケルトを預からなければならないのか?

 まあいいや。

 とりあえずディゼオと相談しよう。


「ディゼオ、相談したいことがある」


「なんだ?」


 ここで話すわけにはいかないよな。


「……ケルト、お留守番できる?」


「できるですよ」


「少し時間かかるかも知れないから先に寝てていいよ」


「わかったです!」


「ディゼオ、急いでいくぞ」


「お、おう」


 ディゼオは戸惑っていたが僕はさっさとディゼオと一緒に転移し、ユリアのところに戻ってきた。


「あらお帰りなさい。その人がお仲間?」


「そうだ」


 相変わらず大量の魔宝石が散らばっている。

 ディゼオはぽかんと口をあけて、魔宝石に見入っているが。


「ディゼオ、ユリアは盗賊で、これは盗んだ魔宝石らしい」


「あー、なんとなく事情はわかったが……。この数ヤバイな」


「今夜中に確認作業は終わらないと思う」


「お前が裏社会の人間ってことは話したか?」


「話してない」


「オーケー、いい子だ。よく話さなかった!」


 バシバシと背中を叩かれる。

 同業者だからってディゼオ抜きで勝手に話すわけないじゃないか。


「裏社会の人間? 五の魔法使いのニファン・ヴィオラン・アスタールが?」


 ユリアが凄く困惑している。

 魔法使いにとって五の魔法使いは憧れの存在なのに、汚いことしてたら幻滅するよね。

 僕も神父様が信じてくれなかったときや、両親に魔力を奪われたときなんか、幻滅を通り越して絶望したし。


「ニファン、話していいか? これほどの魔宝石を持つ彼女の収集力は魅力的だ。仲間とまではいかなくても、協力関係にはなりたい」


「その辺はディゼオに任せるよ」


「わかった。あと、予備の衣装って持ってるか?」


「持ってるけど?」


「着替えてくれ」


「えー、面倒くさいんだけど」


「着替えてくれ」


「……はーい」


 ポケットの中からカーテンを取り出して空中に固定させる。

 着替えるために開発した魔法道具で、これを使えば町の中で着替えても恥ずかしくない。

 更に周囲の風景と同化できる魔法陣も積んでいるので、気づかれることもない。

 この魔法陣の欠点として、動くと同化が上手くできないことだろう。

 透明人間みたいなことは出来ないというわけだ。

 今回は風景とは同化せず、カーテンの中で着替えていく。

 着替えながらもディゼオがどこまで話すのかしっかりと聞いているが。


「俺たちはとある魔宝石を見つけるために盗人をしているんだ」


「へぇ。五の魔法使いと魔法学園の学園長がねぇ」


「その魔宝石を見つけるために協力してくれないか? 報酬は出す」


「どうしようかなぁ。私、綺麗な魔宝石が沢山欲しいのだけど、あなたたちも魔宝石が欲しいんでしょう? ライバルってことになるんじゃないかしら?」


「いや、俺たちが狙う魔宝石は世界でただ一つだ。それ以外のものはいらない。だから盗んで俺たちの求める魔宝石じゃなかった場合はお前にあげてもいい」


「……その狙う魔宝石って何よ?」


「ニファンが契約した精霊の宿る魔宝石だ。どんな形でどのくらいの大きさかはわからない。だから手当たり次第に盗んで探してるんだ」


「なるほどね。で、今までどんな魔宝石を盗んで来たの? レベルの高い魔宝石じゃないと手を組まないわよ?」


「そうだな。……ニファン。着替え終わったか?」


「ああ、着替え終わったよ」


「出てきてくれ」


 あーあ、先に言ってくれないのかよ。

 僕が怪盗サーチだって。


 シャッとカーテンを開ける。

 ユリアと目が合った。

 ユリアは目を大きく見開いて驚いてくれてる。

 同じ泥棒だし、サプライズ的な感じで喜んでくれるかね?


「どうもこんばんは、お嬢さん。今宵は良い夜ですね」


 せっかくサプライズ的な感じになったので、怪盗サーチらしく気取ったセリフでユリアに近づいて、にっこり笑ってみせる。


「かかかか、怪盗サーチ!?」


「おや、私のことをご存知で?」


「ご存知も何も裏社会だけじゃなく表世界でも有名じゃない! でもそうよね。五の魔法使いに匹敵する魔法使いなんだから、すでに五の魔法使いであってもおかしくないわよね……。納得だわ」


「では私が盗んできた宝石の数々もご存知でしょうか?」


「知ってるわ。私では手出しできないような凄い魔宝石を盗んでるもの。……それをくれるっていうの?」


「私は私の魔宝石が見つかれば他はいりません。寧ろ捨ててしまいたい程です。でもその辺に捨てては私が怪盗サーチとバレる危険性もありますので、倉庫に放り込むしかないのですが」


「……本気で言ってる?」


「ええ。何個か魔法道具に組み込んではいますけどね」


「もしかして、女神の瞳っていう宝石もくれたりする? 私、欲しかったのよ」


「欲しいのなら差し上げます。そのかわり私の魔宝石を探し出してください」


「……どうやってあなたの魔宝石を見つければいいのかしら?」


「それっぽい魔宝石を持ってきてください」


「……え?」


「私の魔宝石だと確認するには、私が魔宝石に触れて精霊との契約を破棄する必要があります。破棄出来れば私の魔宝石。出来なければそれは違うということです」


「……それ、一つひとつやるのよね? 見つけるの不可能じゃない? いくら魔宝石が貴重でも、世界には数え切れないほど沢山あるのよ?」


「それでも見つけたい。不可能に近いのはわかっていますが、それでも諦められないんですよ。ご協力してくださいませんか?」


「そうね。……いいわよ。見つからないほど私に沢山の魔宝石が来るわけだし、協力するわ」


「ではそういうことで。……もし裏切ったら、永久に魔法が使えないように呪いをかけますので、そのことを覚えておいてください」


「わ、わかった」


 さて、そろそろ怪盗サーチじゃなくてニファンに戻っていいかな?

 ディゼオがいるところでこれやるのって、結構恥ずかしいんだよね。


「ディゼオ、そういうことになったから」


「ぷくくっ……ああ、わかったっ」


「おい、笑うんじゃない」


「だってよぉ、ニファン。お前が、あのお前が口説くようなこと言ったり、腰低めに話をしてたりって、違和感しかなくて笑えるだろ! ふははっ!」


「うるせぇ! 怪盗サーチは僕に繋がらないような性格に見せるってことになってんじゃん! 言い出したのディゼオだし!」


「いやぁ、何度見ても笑ってしまうな!」


「誰よりも素晴らしい僕が、下手に出るなんて屈辱だ! でも魔宝石を取り戻したいから仕方なくやってんだぞ!」


「わかってる。だからこそ面白いんだよなぁ」


 ディゼオが酷い。

 まあ、魔宝石が見つかれば犯罪ともおさらばできるから、頑張って見つけよう。

 そうすれば笑われることもない。


「なんていうか、怪盗サーチの紳士な男性っていうイメージが崩壊したわ……」


 ユリアが言っている。

 僕の正体知ってるなら崩壊してくれていい。

 知らなかったら崩壊したら大変だけども。


「とりあえず、彼女にはアルファード王国に拠点を移動してもらおう」


 ディゼオが言うと、ユリアは素直に頷いて荷物をまとめ始めた。

 ついでにケルトの魔宝石についても聞いてみるか。


「ユリア、刻印の血涙という魔宝石を知ってるか?」


「何? 次の獲物なの?」


「ちょっと違うが、似たようなものだな」


「私は知らないわね。その魔宝石もくれる?」


「残念ながら先約がいる」


「あらそう。私以外にも協力者がいるってこと」


「いや、正式な協力者はお前しかいない。刻印の血涙については表の世界での依頼みたいなもんだ」


「そう言う方面でも魔宝石を探してるのね」


「そうだね」


 刻印の血涙はケルトの魔宝石だからちょっと違うわけだけど、そこまで教えなくてもいいだろう。


「ニファン、裏切ったら五の魔法使い相手でもタダじゃ済まないわよ?」


「裏切らないから大丈夫」


「その言葉が本当であることを祈りましょうか。早速私は、アルファード王国に向けて旅立つわ。またね」


 荷物をまとめ終わったユリアは、そのまま部屋を出ようとする。

 ちらりとディゼオを見た。

 ディゼオも僕を見つめる。

 僕は口パクで聞いた。

 転移の陣を使っていい? と。

 ディゼオは頷いてくれる。

 許可はもらった。


「待てよ。ユリア」


「何かしら? まだ話すことある?」


「アルファード王国まで送るよ」


「仕事はどうしたの? この国でやることがあるんじゃなくて?」


「とっておきの移動方法があってね。試してみない?」


「……危険はないの?」


「ないよ。僕が使うものだし」


「わかったわ。試してみましょう」


「着替えるから待って」


 予備の怪盗サーチの衣装からいつもの白衣に着替えて、宿屋を出る。

 そしてリエーナの酒場まで来た。


「なんで戻ってきたのよ」


 ユリアは不思議そうだ。

 気にせず従業員用の裏口から厨房に入っていく。


「ちょっとニファン!?」


 まだ忙しそうな従業員たちの隙間を縫って二階へ続く階段の前まできた。


「ニファン? 女を連れてそっち行くのか?」


 リエーナがキラキラした目をして近寄ってきた。

 なんか勘違いされてる気がする。


「仕事の関係で戻ることにした。朝食はいらない」


「本当に仕事かな?」


「そうだよ」


「……もう少し色を好んでもいいと思うんだけど」


「魔法以上の魅力がある女性が現れないのが悪い」


「あんたのことだし、本当にそうなんだろうね……。お姉ちゃん心配だよ」


「僕のことは僕が決めるからいいんだよ」


「はいはい。じゃあお仕事頑張って」


「リエーナも。じゃあまた来る」


「はいはい」


 会話が終わったので、階段を登っていく。

 魔法道具で閉ざされた部屋の鍵を解除。

 そして転移の陣の近くまでやってきた。


「こんなところに大きな魔法陣?」


 ユリアは不思議そうに魔法陣に見入ってる。


「魔法陣に乗ってくれ。すぐ終わる」


 魔法陣を操作してさっさと転移した。


 何も教えなかったのでユリアにギャーギャー騒がれてしまったが、ディゼオがしっかり説明してくれたので静かになってくれた。

 しかもなんかディゼオと仲良くなっている。


「五の魔法使いは格が違うわ……」


「だよな。俺も頑張ってるつもりだが、一生かかってもニファンに追いつけそうにない。一番驚いたのは最古のドラゴンの鱗を取ってきたときだな」


「……格が違いすぎて同じ人間か疑いたくなってくるわね」


「まあ人間ではあるだろう」


 二人が話している隙に転移の魔法陣の行き先を変更した。

 さて、怪盗サーチのアジトへ行って、ユリアに魔宝石を見せようか。

 その間に僕はユリアの持つ魔宝石の確認をすることになるだろう。


「ディゼオ、あとはよろしく」


「ああ。留守は任せろ。ただ、何度もいうが徹夜はするなよ?」


「……」


「なんだその沈黙は」


 いやだって徹夜する気満々だったんだよ?

 え? ダメなの?


「お前な。夢中になるのはいいが、健康にも気を使え。何度言ったらわかるんだ?」


「一日くらい寝なくても大丈夫だし」


「そうやってまた明日も寝ないとかしていくんだろ。またぶっ倒れるぞ」


「あー、もうわかったよ! 少しだけ魔宝石を確認したら寝るよ!」


「そうしてくれ。じゃあ俺はケルトちゃんのところに戻る」


「はーい」


 全く、ディゼオは心配性だなぁ。

元号が令和に変わってから初の投稿。

そして、今日を含めた5日間は毎日投稿をしますよ!

ゴールデンウィークが終わったあとは、週一投稿に戻る予定です。

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