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金ぴか怪盗衣装はただの衣装ではない

 今日の魔法陣の改良も授業も学園での仕事もとりあえず終えることが出来たので、僕はまた自分の研究室にやってきていた。

 あとやることは裏仕事関係のみ。

 魔法道具で厳重にドアと窓に鍵をかけて、僕は机の下に潜り込む。

 床に見せかけていた板の魔法道具を、呪文を唱えることで鍵を解除し取り外す。

 現れたのは底の見えない深い穴。

 その先に怪盗サーチの秘密基地がある。

 仮に生徒がこの穴を見つけたとしても、高度な魔法が扱えなければ普通に落下死するほどの高さがある。

 まあ僕は天才魔法使いだから全くもって問題ない。

 落下速度低減の魔法をかけてから躊躇なく穴へ飛び降りた。

 飛び降りる途中でも防犯対策の魔法道具が何個かあるので、呪文を呟いて道具の機能を一時的に停止させていく。

 その魔法道具たちも優秀で、一分もすれば自動的に動き出すように設定してある。

 この場所で怪盗だとバレる危険性はほぼ無いだろう。


 飛び降りた先は勝手に作った地下室。

 僕が来たので部屋の明かりが自動で点いた。

 棚が隙間なく並べられていて、今まで盗んで来た魔宝石がずらりと置かれてある姿が目に映る。

 これら全て、僕の欲する魔宝石ではないのが残念だ。

 でも魔法道具の部品の核として使えるから怪盗衣装の一部になることもある。

 僕の魔力はほぼ一般人並みの量しかないから、怪盗をやっている間も魔宝石の魔力で動く魔法道具が手放せない。

 本当は異空間収納も魔法道具としてではなく、自らの魔力を使って発動することが出来る魔法のはずなんだけど、僕の魔力の量では使うことが出来なかった。

 魔力の消費を抑えるために改造してもなお、使えなかった。

 ……だから魔法道具に頼るほかない。


 怪盗衣装に身を包むマネキンからシルクハットを取り上げる。

 まずは怪盗衣装その一、金ぴかシルクハットから点検を始めるか。

 この帽子にも異空間収納の魔法陣が描かれているから沢山のものを詰め込める。

 でも特別なのが怪盗衣装の全ての異空間収納と僕が着ている白衣の異空間収納と異空間がリンクしている点だろう。

 これは今のところ僕だけが使っている便利なもので、白衣のポケットに入れた道具を怪盗衣装の帽子やポケットからも出すことが出来るというものだ。

 防犯対策もばっちりで、僕の魔力の波長でなければ異空間に繋がることはない。

 この異空間収納と防犯対策を魔法学の論文として発表すれば、きっと僕は称えられるだろう。

 でもそれだけ。

 世界一の魔法使いの魔法王にはなれない。


 ……おっと。思考が脱線してしまった。

 怪盗衣装の点検をしなければ。

 この帽子の機能は異空間収納だけではない。

 激しい動きをしても頭からはずれないようになっているから、風で飛ばされるという無様なことにもならないんだ。

 これも魔力の波長が関係していて――――。

 ……危ない。また思考が脱線しかけた。

 魔法陣が薄れていないか、機能が壊れたり劣化していないか、素材自体は傷んでいないかを確認した。

 そのあとに帽子に巻いてあるリボンの結び目に飾られた赤色の魔宝石を見る。

 ……魔力が少し減っている。

 このまま魔力がなくなると魔宝石はただの石ころとなるので、僕の貴重な魔力を注入しておく。

 この作業を素人にさせたら、石を爆発させるのでとても危険だ。

 まあ僕は天才だから魔力注入の加減も完璧だけど。

 点検が終わったのでマネキンの頭に帽子を戻し、今度は金ぴかスーツに取り掛かる。

 まずはジャケット。

 内ポケットの異空間収納と身体強化の魔法陣の確認。

 素材の傷み具合、魔宝石の魔力残量の確認。

 特に問題なし。

 素材については相当なことが起こらない限り傷むことはほとんどないんだけどね。

 ドラゴン製だし。

 他にも赤いシャツ、青のネクタイ、黒のベルト、金のズボンと靴。

 あまり使わず異空間収納に放り込まれている黒いファーのついた金のマント。

 そして金縁の黒いドミノマスク。

 全て確認していく。

 怪盗衣装は全て魔法道具に改造してあるんだ。

 僕が気に入っているのはドミノマスクだね。

 暗視とスコープの機能がついている。

 魔法道具の核である魔宝石は平べったいものを使用して眼鏡のレンズのようにしている。

 ただ魔宝石が赤いことが欠点だ。

 それももう僕の魔法技術で解決したから問題ない。

 結構頑張ったからね。思い入れがあるんだ。

 確認し終えると、今度は衣装ではなく道具の点検に入る。

 怪盗サーチという人物しか持っていないってことになっている魔法道具なんかもあるから。

 それらは金ぴか衣装を着ていないと使うことのない魔法道具たちだ。

 基本的に異空間収納に収まっている。

 それらを点検したり、改良したりしていった。


 裏仕事の道具点検は終わったので、身体強化の魔法を使って普通の人間では無理な壁を蹴って登るという方法で僕の研究室まで戻ってきた。

 勿論防犯装置用においている魔法道具があるので、一時停止させている。

 その防犯装置の点検はまた今度となるだろう。

 穴を板で隠し、ドアの鍵を開けて研究室から出ると、外側から閉めておく。

 防犯対策はバッチリだ。

 今日はここでやることないし、帰ろう。



 学園から徒歩十五分くらいの場所にある僕の家に着いた。

 僕一人で住むには大きすぎる豪邸で、やっぱり魔法の仕掛けが沢山ある。

 泥棒が忍び込むのは至難の技だろう。

 豪邸自体はこの国から支給されたものだから、この国に長くいてねという意味もあって、僕の気持ち的には微妙な家なんだけど。

 僕は魔法を極めたと言われる五の魔法使いのうちの一人だし、僕を欲しがるのは当然っちゃ当然だ。

 僕にはそれだけの価値がある。

 でも足りないんだよなぁ。

 僕は五の魔法使いのなかでも技術だけは飛び抜けている。

 そのことは誇りに思っているし、誰にも負けない。

 でも魔力がなければ、どれだけ工夫しても強い魔法を打ち出すことは出来ない。

 持っている魔力量が多い人は、どんな魔法を使っても強力な魔法として打ち出すことが出来るのだから。

 ……本当ならこの僕が五の魔法使いの頂点である魔法王になれたはずなんだ。

 でも、でもさ、あいつらの、あのクソ野郎どものせいでさぁ!

 ギリっという歯の音でハッとして舌打ちする。

 冷静さを取り戻そうと深呼吸するが、苛立ちは治るどころか膨れあがってきた。

 僕は感情に任せて乱暴に玄関のドアを開け、勢いよく閉める。

 それでもイライラしてしまい、頭を掻き毟った。

 こういう時は魔法の研究に没頭してるのが一番だ。

 いつも使っている自室へ行き、窓際にある机に白衣のポケットから魔法書を取り出す。

 そして魔法書をペラペラとめくる。

 今まで作った素晴らしい僕の魔法陣が描かれていた。

 クソ野郎どもが僕の邪魔をしようとも、魔法の天才である僕が立ち止まることは絶対にない。

 僕は諦めないし、何が何でも全ての魔法使いの頂点に君臨してみせるさ。

 その光景を想像していると、僕の怒りも少しづつ治まってきた。

 そう。奪えばいいじゃないか。

 僕は妬むのではなく、妬まれる側だ。

 それを突き通せばいい。

 冷静さを取り戻せたので魔法陣の作成をしていると、コンコンと窓が叩かれた。

 なんだ? と思いながら窓を開けると、そこには今日飛ばしたはずの運び鳥三号が手紙をくわえてそこにいた。

 んー?

 こんなに早く返信がくるなんて普通ではありえないから、なんらかのトラブルで国王に届けられなかったのか?

 とりあえず手紙を手に取る。

 ……国王からの返信じゃないか。

 こんなに早く返信を寄越すとは、余程少女に教育をしてほしいということ。

 少女は国王の子供か?

 でもマーヤ・レイザンガリフという王族の名前は聞いたことがない。

 隠し子か?

 とりあえず手紙を読んでみる。


 ……要約すると直接会って話したいから、王族の開くパーティーに参加しろって話。

 ふざけんなよ?

 王族貴族のパーティーなんて行きたくないに決まってる!

 国王も知ってんだろう!

 僕にとってパーティーはお見合いみたいなものだ。

 魔宝石を取り戻すまではそういう相手はいらないし、魔法の魅力がわからない貴族の令嬢なんて興味ない。

 断ろう。面倒くさい。

 パーティーに強制参加させるようなら僕はこの国から出て行くと手紙に書き殴っておく。

 手紙の作法なんかもガン無視で書いたから僕の苛立ちがよく伝わるはず。

 国王もさぞ慌てることだろう。

 また運び鳥三号に手紙を持って行ってもらった。

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