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聖女の住居の前で騒ぐ冒険者とお茶を

 やっと胸ぐらを離してくれたリエーナは、酒場の仕事を部下に任せて、酒場の二階のリエーナの住処で話をしたいと言い出した。

 まあいいんだけどさ。

 

「で、あんた何しに来た?」


「探し物だよ」


「探し物? ここを出たときに忘れ物でもしたか?」


「いいや、マジナーサのお願いだよ」


「聖女マジナーサ様か? ニファンなんかに何をお願いするんだ」


「それは秘密」


「守秘義務ってやつか? それなら仕方ない」


 別に秘密しろなんて言われてない。

 でもリエーナには僕が魔力を奪われてることは知られたくないから、そういう存在の情報も遮断した。

 一応リエーナもこの国の民。

 この国に君臨する法王のように、僕を嘘つき呼ばわりするかもしれない。


 魔力を奪われた? 生まれ持っての才能がないからといって、現実を見ないのはいけません。神の御前ですよ。


 当時神父だった法王が教会に縋りついた僕に言い放った言葉が蘇った。

 神父は何度言っても信じてくれず、それでも神ならなんとかしてくれると信じて祈り、魔力を返してくださいと願ったのに。

 けれど妄想癖のある可哀想な子供だと笑われ、教会にいた信者には神もあんな子供には罰を与えるだろうとヒソヒソと陰口を囁かれた。

 そして神は何もしてくれず、僕を蔑んだ者に天罰がくだることはなく、神父には神が何もしないのは、それがあなたに与えられた試練だからと言われた。

 そのころは僕も古代魔法の禁忌で魔力を奪われているとは知らなかったから、どうすればいいかわからず助けを求めていたのに、誰も僕の言葉に耳を貸さない。

 本当に絶望した。

 だからこそ、魔法を極めると強く誓った瞬間でもあったが。


 そういうことがあったから、僕は神を信じないし、宗教は大嫌いになった。

 一応今もミアナッシーク教の信者ってことになってるけどな……。


「ニファン? 聞いてる?」


 リエーナの声が聞こえてハッとする。

 完全に思考が脱線していた。


「ごめん。聞いてなかった」


「まーた魔法についてだろう? 魔法学校を勧めたのは間違いだったな」


「そんなことない。僕を見ろよ。素晴らしい魔法使いになっている。これからもっと凄い魔法使いとなるだろうさ」


「凄い自信だ。尊敬はするけど、憧れはしないな」


「そりゃリエーナは酒場を営業することに熱心だからな。魔法を熱心に研究することに憧れはしないだろう」


「そういうことじゃあない」


「ん?」


 何か違ったかな?


「全く、良いのは外見だけだね」


「それリエーナには言われたくない」


「あ? なんか言った?」


「いえ、なにも」


 リエーナは怖いな。

 僕にとって姉みたいな存在ではあるから、こういう関係もいいんだけどさ。

 もちろん信用は出来ない。

 リエーナはミアナッシーク教の熱心な信者だし、僕と考えを共有することは不可能だ。

 面倒見のいい人だけど、本当に大切なことは話せないし、話したくもない。

 もう信じたものに裏切られるのはゴメンだ。


「そろそろ行くよ。夕方頃には転移するために帰ってくる」


 リエーナにそう言ってから僕は椅子から立ち上がった。


「そう。探し物見つかるといいね」


「ああ」



〜〜〜〜



 リエーナと別れて、ケルトの魔力が奪われた場所であるこの国の王都アミリーリマシリラへ向かうために馬車に乗る。

 今回はちょっぴり高級な馬車だ。

 揺れも少なく、尻もふかふかなクッションで守られていて、しかも相乗りではなく一人。

 気楽でとてもいい。

 そういえば海の破片が展示されていたヒロマインツ王国は、この国の隣であるんだったか?

 馬車でいけばすぐにあの美術館に着くだろうし、冒険者組合の様子も確認しに行った方がいいだろうか。

 いや、もうこの国に戻ってきているかもな。

 冒険者組合の本部はこの国にあるし、次の予告に備えて準備していそうだ。

 そんなことを考えながら、一応探索の魔法を使ってケルトの魔法を探す。

 魔宝石は沢山あるけど、ケルトの魔力が宿る石はないな。

 やはり王都まで行って情報をコツコツ集めていこう。



 王都の大通りのなかでも特に大きな建物、聖女マジナーサの住居でもある教会の前に降り立った僕は、教会の前で騒ぐ冒険者を見て呆気にとられていた。


「ここに五の魔法使いであるマジナーサ様がいるんっすよね? 会わせてくださいって!」


 僕は教会に用はないし、こんな冒険者はしらない。

 でも彼らはちょうど僕が馬車から降りた時に言ったのだ。

 冒険者組合怪盗サーチ対策部隊だと。

 いや、この国にいるかもとは思ってたけど、なんでマジナーサに会いにきてんの?

 意味わかんないんだが。

 これは聞いてみたほうがいいかもしれない。

 最悪、マジナーサに僕の正体を勘付かれそうだからな。


「そこの冒険者の皆さん。少しお時間いいかな?」


 僕はにっこり笑って冒険者三人のうちのリーダーっぽい人の肩を掴んで言った。


「今忙しいので後にしてくれ」


 そうか。仕方ないなぁ。

 名乗らせていただこうか。


「僕は五の魔法使いのうちの五である、ニファン・ヴィオラン・アスタールだ。聖女マジナーサは現在、アルフォート王国に行ってるから、教会にはいないよ」


「へ、は? ニファン・ヴィオラン・アスタール!?」


 なぜか冒険者たちは僕の名前を聞いて物凄い焦り出した。

 本当にどうしたんだ?

 いつも怪盗サーチに向かって勇ましく挑んでくるのに……。


「に、ニファンさん。俺、いや僕は冒険者組合怪盗サーチ対策部隊のショーンっつうもんっすが、その、あの、それで、えーっとあの、そのっ!」


 リーダーっぽい人はテンパっていて話にならなさそうだ。

 落ち着いてもらうために、近くにあったカフェでお茶をしようと誘った。

 彼らも僕と話したかったようで、一緒にカフェに入る。

 冒険者の皆さんは、普段カフェに入らないせいか、居心地悪そうだが。


「好きなものを頼んでくれていい。金は僕が払うから」


「マジっすか!?」


「待てよショーン! ちょっとしたことで交渉に失敗したらどうする気だ!」


「え?」


「え? じゃねーよ! こうなったらニファンさんを説得するのは俺たちだろ!」


「そっか。って責任重大じゃんか!」


「だからもっと慎重になれよ!」


 よくわからないが、言い争いをしているな。

 こちらは情報が欲しいので、情報料として何が食べてくれなくちゃ困るんだが……。

 勝手に頼んでしまうか。


「すみません。チョコレートケーキ四つ。コーヒーも四つください」


 店員さんを呼び止めて注文しておいた。

 しばらくしてチョコレートケーキとコーヒーが僕と冒険者たちの前に並べられる。

 店員さんに金を渡してから、美味しいそうなチョコレートケーキにフォークを突き刺した。


「ちょっ、ニファンさん!? なんすかこれ」


「さっさと食べてくれ。僕も聞きたいことがあるんだから、これは情報料だ。しっかり喋ってくれよ」


 そういってから僕はケーキをパクリと食べる。

 チョコレートが濃厚で甘くて美味しい。

 コーヒーとも相性抜群だ。

 冒険者たちも遠慮しがちに一口食べたら、その美味しさに目を丸くしてがっつき始めたし。

 普段お菓子とか食べないんだろう。


「すっげえ美味かったぜ、これ!」


 冒険者たちの緊張はほぐれたようで、美味しかったと笑顔になってくれた。

 甘いものはやはりいいね。

 三人のうち唯一の女性の冒険者がキラキラした目でメニューを開き、次の瞬間青ざめてしまったが。

 さぁて、どうしたのでしょう?


「あ、あの、ニファンさん……チョコレートケーキの金額がおかしいんですけど」


「おかしくないだろう。スイーツは普通にそのくらいはする。なに、僕は天才だから金には困ってないんだ。気にするな」


 僕は本当に気にしないけど、冒険者たちはそうもいくまい。

 その気持ちに付け込ませてもらおうか。


「それで、怪盗サーチ対策部隊がなんでマジナーサを訪ねてたわけ?」


 僕の問いに落ち着きを取り戻しはしたが、金額を見て顔面蒼白になっているリーダーが答えてくれた。


「五の魔法使いの方々に、サーチ確保のための協力を取り付けようと……。ニファンさんの家にも団長が向かっているはずっす」


「へえ、団長さんがねぇ」


 ヒロマインツ王国からアルファード王国まで馬車でも何日かかかるし、徒歩でも最低一ヶ月はかかるだろう。

 それまでにディゼオと相談しとかないと。


「で、サーチ確保の協力って具体的には何するの?」


「怪盗サーチが使う魔法の分析、できれば怪盗サーチと対面して確保とか出来たらなーって感じで……。もちろん無理にというわけではなくてですね!」


「ふーん。報酬は?」


「報酬は要相談で……何が希望があれば、言ってください」


「じゃあ魔宝石を沢山見たい」


「え?」


「くれなくていいから沢山見せてほしいんだ。魔法の源である魔力の宿った石だ。僕のようにとても美しく、キラキラ輝いている姿を見られて、さらに触れられば僕は満足だな」


「……えーっと」


 おい、リーダー頑張れ。

 僕の答えが予想外なのはわかるが、しっかり答えてくれよ。


「あー、魔宝石というのはどのくらい必要でしょうか? 大きさなどの指定はありますか?」


 ローブを着た魔法使いっぽい男が、固まってるリーダーの代わりに言う。

 そうだなぁ。


「出来れば僕が飽きるまで沢山の魔宝石を見せてほしい。大きさは問わない。魔宝石であればいい」


「……本部と相談してみます」


「うん、よろしくね。なんならお偉いさんと僕の家で話し合ってもいい」


「協力は前向きに考えてますか?」


「魔法の分析はしてもいいかな。怪盗サーチと直接対峙はしたくない。僕は研究者だから実践は避けたいね」


「そうですよね、わかりました」


 話がひと段落したので、残りのケーキを食べる。

 この国に来ることがあったら、またこの店に来ようかな。

 ゆっくり味わって食べてると、とっくに食べ終わっている冒険者たちが僕を見つめていた。

 ……見られてると食べづらいな。


「君たちはもっと食べなくていいの?」


 メニューが書かれたものを冒険者たちに渡しながら言ってみる。


「いや、俺たちはもう腹が膨れましたっすから!」


 リーダーがいっているが、とても腹が膨れているようには見えない。

 物凄く食べたそうに僕のほうを見ている。


「遠慮しなくていいのに」


 まあ無理して食べることはないけど。

 特に喋ることもなく、沈黙が流れる。


「えーっと、ニファンさんは貴族出身とかっすか?」


 唐突にリーダーが聞いてきた。

 沈黙が嫌なのだろうか?

 素直に答えることにする。


「僕は貴族ではないよ」


「それにしては食べ方に品があります」


「あー、昔は普通にがっついたりしてたけど、エリック……アルファード王国の第一王子と友達になったせいで、マナーを徹底に叩き込まれたんだ」


 エリックと一緒に飯食うときは、マナーがなってないって毎回も怒られたからな。

 今では自然とマナーを守るようになってしまってる。

 貴族との食事でも恥ずかしくないようになってるから、エリックにはまあまあ感謝してるが。


「お、王子様が友達っすか……」


「僕は魔法の天才だから国に取り込んでしまいたかったんだろう。僕は自由がいいから断ったけど」


「なんか生きる世界が違うっすね」


「そうでもないんじゃないか? 僕が五の魔法使いになる前は、冒険者やってたし」


「え? 戦えるんすか!?」


「やろうと思えばね。でもやっぱり研究に没頭していたいよ。あの頃は金が欲しかったから仕方なくやっていた」


「それでもサーチとは戦えないっすか……」


「戦いたくないね。僕は一般人と同じだけの魔力しか持ってないから、すぐに魔力を使い果たしそう」


「そんな魔力が少なかったんすか」


「魔力が少なくても天才なら五の魔法使いになれるのさ」


 チョコケーキ食べ終わったけど、もう少し何か食べたいな。

 どうしよう?

 メニューを見ながら考える。

 そうだなぁ。


「チーズケーキください」


 店員さんにそう言う。


「ニファンさん!? そんな沢山頼んで大丈夫っすか?」


「大丈夫でしょ。今の所持金は手のひらサイズの魔宝石を何個買ってもあまりあるから、スイーツくらいどうってことない」


「マジっすか」


「というか、さっさと使わないとヤバイ。僕が作った道具とか見せびらかしたくてオークションに出しても何故か大金が手に入るんだよ。もっと安くていいから沢山買ってほしいのに、一度に大金が入りすぎるから怖くて売りに出せない」


 まだ売りに出してない魔法道具たちがポケットの中に眠っている。

 金をどうにか使ってからまた売りに出す予定だけど、依頼とか教師としての給料でどんどん溜まっていく一方だ。


「贅沢な悩みっすね」


「それはわかってる。でも本当に僕が作った素晴らしい魔法や道具を見てほしいんだよ。金が欲しいわけじゃない。いや、それだけ価値があるものってことだし、嬉しいんだけどさ」


「き、寄付とかはどうですか?」


「沢山したよ。寄付しすぎて学園長にもうやめろって言われたほど寄付したよ。たまに隠れて適当なところに寄付してるよ」


「ニファンさん、めっちゃいい人じゃないっすか」


「だろう?」


 犯罪してる分、表だけでも善人でないとね。

 そうだ。今は機嫌がいいからこいつらになんかあげようかな?


「君たち欲しい魔法道具とかない? 知りあった縁ってことであげるよ?」


「……例えばどんな?」


「んー。君たちの生活がどんなのか想像出来ないから、どんなものがいいのか……」


「んーと、基本的に怪盗サーチの行動や性格、魔法の分析。もしくは冒険者として依頼を受けてるっすね」


「……不便だと思ってることってない?」


「不便? ……あ、野宿するときは不便っすね。高位の冒険者なら魔法道具使って安全確保するんすけどね……」


「それあげようか?」


「……そんな簡単にくれて大丈夫っすか?」


「大丈夫だって。元はといえば、僕が外でぐっすり眠れるように開発した道具だし」


「ニファンさん、すげぇ」


「僕が凄いのは当たり前のことだ」


 僕は上機嫌にポケットからリボンのような形の魔法道具を取り出す。

 これも売る用の魔法道具だ。

 作ったはいいけど僕は使わない。

 道具は誰かに使ってもらったほうがいいし、この冒険者たちにあげてもいいだろう。


「このリボンを輪っかにして、その内側に入れば結界が自動で発動する。解除するにはリボンの端についてる魔宝石に触れればいい。簡単だろ?」


「注意点とかあるっすか?」


「特にない。強いて言うなら不具合が起きたら僕のところへ来てほしい。ほかの魔法道具の職人に見せるな」


「わかったっす」


 魔法道具を彼らのチームにあげたあと、チーズケーキがやってきたので、ゆっくり味わう。

 冒険者の皆も食欲に負けたようで、この店で一番安いケーキを頼んでた。

 そして店員さんから小さめのケーキを受け取った冒険者たちは、ちびちびと小さなかけらを口に運んで、美味しそうに食べ始める。

 ゆっくり味わって食べたいんだね。

 僕もゆっくり食べるの好きだよ。

次話は4月25日投稿予定です

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