魔法の使い方が意味不明過ぎ
ケルトは自分が知らぬまに砂糖を食べていたことを知って大混乱していたが、僕は無視して焼きあがったハンバーグを食べる。
一口サイズにしてあるから、子供のケルトでも食べやすいだろう。
「このお肉美味しいですね。なんのお肉ですか?」
マーヤもハンバーグを食べて幸せそうな顔をして言う。
肉のこと言っていいのだろうか?
まあいいか。
「この肉はスモールドラゴンだ」
「へ? ドラゴン?」
「ドラゴン種の中でも一番弱いやつだよ」
「この森にドラゴンがいるんですか……」
「森から出てこないのが救いだね。この森の中心には古代文明を滅ぼしたドラゴンがいるとも言われてるから」
「そんな危険な森の近くに国があって、しかも学園もあるんですか!?」
「森に入らなければ問題ない」
「先生入りましたよね? しかもドラゴン狩りましたよね?」
「大丈夫だよ。強いものが弱いものを狩るのは当たり前だから」
「そうじゃなくて、ドラゴンに怒られませんか?」
「ドラゴンは基本怒らないよ。昔、別のところの龍の巣に行って全力で攻撃したけど、笑って許してくれた」
「……ドラゴンと知り合いなんですか?」
「最古のゴールドドラゴンとは仲良いかな」
そのゴールドドラゴンの鱗を使って怪盗衣装を作ったんだ。
でもまさか色を染めないで、そのまま衣装にするとは考えもしなかった。
ディゼオに全てを任せた結果、あの金ぴかが出来上がったわけだが。
「先生って顔が広いんですね」
「なにせ天才だからな。天才な僕と皆、知り合っておきたいのさ」
「最古のドラゴンってどれくらい強いんですか?」
「……わからない。僕が全力だしてもビクともしなかったとは言っておくけど」
あんなのに勝てたら、いや傷をつけられただけでも、そいつ人間じゃないと思う。
それだけゴールドドラゴンは強い。
ゴールドドラゴン本体はヤバイけど、彼の眷属はそれほどでもないのが救いか。
なぜかは知らないが、ドラゴンは僕を見た瞬間凄く嬉しそうにしながら、もっと沢山眷属を殺していいよって言っていたし、それはほかのドラゴンたちも同じだろうとも言っていた。
それ生き物としてどうなんだろうかとは思ったけど。
ほかにも古代文明を滅ぼした彼らが、人間に対してとてもフレンドリーなところも引っかかるんだよな。
「強くて仲良くなれるなら、ドラゴンと会ってみたいですね」
マーヤが満面の笑みを浮かべていう。
ドラゴンと聞いたら普通は怯えるのに、マーヤは会いたいとかいうのか。
やっばり変な奴だな。
どんな怖いもの知らずだって、ドラゴンに会いたいとは言わないぞ。
ドラゴンに会いに行った僕が言えたことではないが。
「マーヤ様には神のご加護がありますので、ドラゴンと会っても問題ないですよ」
マジナーサが肉を頬張りながら言う。
マジナーサは本気で神を信じているし、マーヤが本当に神の使徒なのかという疑問も聞いてみるか。
「マーヤは神の使徒であってるのか?」
「あっていますよ。マーヤ様は神が我々人間に与えてくださった最後の希望。そのマーヤ様に認められたのが今のところ、エリック殿下とスティナです」
聖女が認めてしまった。
マジでマーヤは神の使徒なのか。
「あとヴィオランにお願いしたいことがあります。スティナのことなのですが、治癒魔法の使い手としては優秀。しかし……」
話を続けるのを躊躇するようにマジナーサは口を開けては閉じる。
「なんだよ? 僕の気が変わらないうちに早く言ってくれ」
「……スティナは宗教を信仰することが苦痛なようでして、ヴィオランのようなことを言うのです。私には神を信じられないなど理解でいませんが、ヴィオランなら理解してあげられるのでは?」
「そうかもね。それで?」
「その……私には宗教を交えてでないと魔法を教えることが出来ませんので、ヴィオランに手伝って欲しいのです」
やはりマジナーサは優れた人物だな。
自分の価値観を押し付けないとは。
僕は押し付けまくってる気がするし、そういうところは見習うべきなのかもしれない。
それはそれとして、手伝うのはタダじゃやれないかな。
「スティナに魔法を教えるのはいいが、報酬をくれ。無償は無理」
「……何が欲しいんですか?」
「魔宝石。僕の魔宝石である可能性のある宝石が欲しい」
「そういうことですか。私が集められる魔宝石も限りがありますので、詳しいことは後日ということで良いですか?」
「わかった」
楽しくバーベキューをしながら話をした。
五の魔法使いの称号を持つ者が二人と魔法学園の関係者がいるので、だんだんと魔法関係の話が多くなってくる。
特に僕とマジナーサは称号通りの世界でも五本の指に入る実力者なので、意見交換を激しく行っていた。
いや、ただの言い争いに近いけども。
「なぜわからないのですか! 神に祈ることで神からの意思が伝わってきますでしょう!」
「伝わってこねぇし!」
「神の意思に添うように魔力を注げば、思い描いた魔法陣が神の意思により作られるのです!」
「神の意志なんて関係ない!」
「いいですか? 全ては神への信仰の心で決まるという当たり前のことを知りなさい!」
「だーかーらー、そんなの意味不明だろうが! 魔法陣ってのは魔力の通り道! だから道をしっかりと繋げて、道のくねり具合、つまり魔法文字の形で意味を付け加えれば魔法は発動するんだよ!」
「はあ?」
「それと魔物の血なら魔力も豊富だし、その血を道にすべきだってわかんねぇかな!?」
「わかりませんね! 魔力は神からの授かりもの。神に似せて作られた我々人間の血が魔法陣に最も適しているんです!」
「最も適してるのは全ての生物の中でもトップクラスの魔力を持つドラゴンの血だっつーの!」
あーもう!
魔法の使い方が意味不明過ぎてイライラするなぁ!
「まあまあ、お二人さん。お前たちが理解し合うなんて無理だから魔法について話すのはやめだ。いいな?」
ディゼオが苦笑いしながら僕とマジナーサの間に入ってきた。
ディゼオがいうなら仕方ない。
「今日のところはこれでいいですが、いつか必ず理解させますからね、ヴィオラン。」
「ハッ。それはこっちのセリフだ、マジナーサ」
キッとマジナーサを睨みつける。
マジナーサはフンとそっぽを向いた。
全く、何が神の意志だ。
魔法のことなら理解したいと思ってるが、マジナーサのいうことはどれもちんぷんかんぷんで困った。
マジナーサがやる魔法の使い方では、基礎の基礎さえ意味不明だ。
「本当にマジナーサ様と分かり合えないんだな」
エリックが呆れたように僕にいう。
……まあ、信念が違うから仕方ないのかもな。
昼食を食べ終えたあと、また僕の家に戻ることになった。
そしてリビングで午前中と同じようにケルトに話を聞く。
といっても午前中にほとんど聞くことは聞いたので、僕の質問したいことはすぐになくなった。
あとはケルトの奪われた魔宝石を探すだけだ。
「先生、どうやって探すつもりですか?」
マーヤが心配そうに聞いてくる。
魔力を奪われたのは大体一ヶ月前だ。
五の魔法使いに聞いて回ったのなら、もっと時間が経っているかと思ったけど、相当急いだようだな。
奪われた場所は神聖ミアナッシーク王国のとある貴族の家らしい。
犯人はその家で働いていた執事であるが、そいつは行方不明。
その時マジナーサたちは精霊との強制契約とか知らなかったから犯人は放置して、最優先でケルトの魔力を取り戻そうとした。
その執事も探しているが今のところ見つからず、宝石をどうしたのかも検討がつかないと。
僕じゃなければ泣き寝入りだね。
「とりあえず準備する」
僕はそう言ってポケットの中を探りながら、空き部屋へ向かう。
とりあえずこの家を中心に探してみることにしよう。
見つからないだろうが、練習として。
ケルトが魔法を使えるようになったら、神聖ミアナッシーク王国のどこかを中心に探そう。
魔宝石を探す魔法は僕のために沢山作ったので、それを今回使ってみようかと思う。
でも術者はケルトになるはずだから、僕専用に作ったこの魔法たちをケルトに合わせなければならない。
だから最初はこの家を中心にして魔宝石を探す。
この家なら不具合があればすぐ改良できるからな。
空き部屋に到着した。
ポケットから床一面を覆うことの出来る大きな紙を取り出して、広げる。
それから魔物の血が入った瓶と筆を使って、紙に大きな魔法陣を描いていく。
「……すごい」
僕の描く魔法陣をみてスティナが言ってくれた。
やはり僕の研究成果は素晴らしいのだろう。
嬉しくてにやにやしてしまいそうになるのを抑え、魔法陣を真剣に描く。
それでも皆の話しが聞こえて来るので、そちらに注意を向けてしまうが。
「ヴィオランの魔法陣を描く姿、初めて見ました。神の文字を神の意思関係なく描くなんて、人間離れしています」
マジナーサに人間離れしてるって言われるのは結構嬉しい。
宗教的に人間離れというのが神に近い者、という意味で使われるからだ。
「神の文字って魔法文字のことか。ニファンは魔法が大好きすぎて全て暗記しているからな」
ディゼオが誇るように言っている。
「魔法文字って別の言語を覚えるみたいな感じで出来るんじゃないですか?」
マーヤが最もなことをいう。
でもそれなら僕みたいにサラサラっと魔法陣を描けるやつがもっといてもいい気がするんだけど、僕以外は見たことがない。
「暗記してるやつはいるんだ。特に魔法道具や魔法を作っている人はほとんど暗記している。でもニファンのようにすらすらと魔法陣を描ける者はいない」
「え?」
「魔法文字もまだ謎が多く研究中のところが多い。だから何度も魔法陣を描いて発動させ、失敗しないか確認していく作業が必要だ。ニファンはそこをすっ飛ばしても成功することのほうが多いんだよな……」
「ニファン先生! 魔法文字の謎がわかっているんですか?」
マーヤが質問してくるので、顔を上げて答える。
「僕にとって魔法文字の謎というのがよくわからないんだ。僕は魔法文字を見て素晴らしいと思ったし、それをどう繋げればいいか勉強したからわかる」
「わからないところを教えたりしないんですか?」
「教えたよ。でも皆はわかってくれなくて、僕としてもどう教えるべきか困ってる」
「沢山魔法陣を作っていけば、なんとなくでも魔法文字のルールみたいなのわかると思うんですけど」
そうだよな。
僕も最初はわからなかったが、だんだんわかるようになっていったし。
「確かにルールみたいなのはわかる」
ディゼオが険しい顔をして言い、「だが」と言葉を続けた。
「そのルールに当てはめても成功しないことが多々あるんだ。試行錯誤して文字を当てはめていくと、何故この文字がここで出てくるのかと疑問に思うことがある」
「そういうものなのでは?」
マーヤの言う通り、そういうものだと思う。
なぜこの単語が、とか言い出したら言語の成り立ちを調べなくちゃいけない。
僕も軽く調べたことあるけど、あまり興味はそそられなかった。
僕は古いものより新しいものの方が好きだから。
「そういうものだと思いたいが、属性文字を置き換えるだけで文字が増えたり減ったりするのがよくわからない」
んー?
ディゼオの言葉に疑問が浮かぶ。
なんで置き換える必要があるんだ?
横着しすぎでしょ。
一つひとつ丁寧に描いていかないと。
「今の魔法道具や魔法を作る者は、ほぼ勘で作っているというのが現状だ」
「属性文字の区別がついてないんじゃないの?」
僕の考えとディゼオの考えの違和感はそれくらいしかないと思う。
「属性文字って火や水、風、土や冷たい、熱いなどの魔法文字だろう?」
「……あってるのになんで違和感があるんだろうな?」
よくわからない。
とりあえずそれは後回しにして、今はやることやろう。
魔法陣の続きを描いていった。
次話は4月11日投稿予定です
一話3000文字に抑えようと思っていたら、いつのまにか4600文字になっている。
これの前は5000超えてたし……。
楽しくなると沢山書いちゃう(*´・ω・)(・ω・`*)ネー




