焼いた果物は甘くて美味しい
「あの、そろそろ休憩にしましょう。ニファン先生」
スティナが赤髪の少女ケルトを庇うように抱きしめていった。
確かに朝からずっと質問攻めだ。
魔力を奪われてから一ヶ月以上たっているから、探すのは苦労しそうだが、僕の魔宝石よりかは見つけられやすいだろう。
といっても、急いで探し始めてもそれはそれで空回りしそうだから、余裕を持ってやっていきたい。
でもとりあえず休憩だな。
ケルトが疲れてしまう。
そろそろ昼だしご飯でも食べるか。
魔法も恋しくなってもきたし、魔法使ってなんか作ろう。
「皆は休んでてくれ。昼食を作ってくる」
「待て、ニファン!」
席を立ったところで珍しく大声を出したディゼオに止められた。
いったいどうしたんだ?
「お前が作ったら全てのものが甘ったるくなる」
「そりゃあ僕は甘いのが好きだし」
「だからといって朝も昼も甘々はやめてくれ」
「そんなこと言われてもこの家には甘いものを作る以外の食材はないぞ」
「じゃあ外食をしよう」
外食だと魔法が使いづらいから嫌だ。
家で料理するなら魔法バシバシ使えるのに……。
どうにか出来ないものか。
……あっ、そうだ!
良いこと思いついた!
「外食しよう! そのほうが楽しそうだ!」
「お前が突然上機嫌になると怖いんだが」
ディゼオがいうが甘い食事でもなく、しかも魔法も使え、更には外食をするのであればあそこに行くしかない!
「気分転換にもなるだろうしさっさと出かけよう!」
僕用に甘いものもポケットに詰め込んでおくか。
あとは調味料。
簡単な塩コショウと果物で作ったソースなどなど。
もしもの時のポーションとその他の魔法道具。
大きな布も持って行こう。
こんなものかな。
「何してるんですか?」
マーヤが凄く不思議にしているだが、言ったら絶対ディゼオに反対されるので言わない。
だから口元で人差し指を立てて、にっこり笑ってみせることで返事をしてみせた。
内緒だと伝わるだろう。
「おい、ニファン! マーヤちゃんを口説いてないだろうな!」
エリックが何かを勘違いして僕とマーヤの間に滑り込んでくる。
エリックなら僕が口説くのは魔法関係のことしかないとわかりそうなものだが。
恋は盲目、ということかな?
「変なこと言ってないで外へ食事に行こう。ついてきてくれ」
僕はエリックたちにそういって歩き出すが、ケルトが目に入った。
ケルトは十歳くらいの子供だし、流石に危ないかもしれない。 防御の結界を自動で張るネックレス型の魔法道具をつけてあげとこう。
「ふぇ?」
ケルトがびっくりしたように大きな魔宝石のついたネックレスに触れてから僕を見上げてきた。
「お守りだよ」
怖がりなケルトに優しく微笑んで見せる。
朝からの質問攻めで僕に向ける印象は最悪だと思う。
まあそれはいいんだけど、ご飯の時まで怖がられても困るし、出来るだけ愛想よくしておいたほうがいいだろうから。
「あ、ありがとうです」
少し頬を赤らめて恥ずかしそうにしながらネックレスを握りしめているケルト。
なかなか可愛らしいところもあるようだ。
家を出てしばらく歩いてきた。
そして街の門から外に出ようとしたところでケルト以外の人たちに止められてしまう。
「おい、ニファン。何故街の外に出ようしてるんだ?」
「そうだ。子供もいるのに」
「どこに行く気なんですか先生!?」
「ニファン先生、流石に目的地くらいは教えていただきたいのですが……」
「ヴィオラン。話してください」
順にディゼオ、エリック、マーヤ、スティナ、マジナーサが僕に言った。
えー。魔物をその場で狩って食べるバーベキューだよ?
でも反対されそう。
ここは子供を味方につけよう。
ケルトの前でしゃがみこみ、目線を合わせる。
「ケルト。バーベキューって知ってるか?」
「えっと、お外でお肉とお野菜を焼いて食べるやつです!」
「やったことってある?」
「な、ないです」
「えー、楽しいのに。じゃあ今からやろうか?」
「え! やれるですか!?」
「やれるよ。……でも残念ながら皆はやりたくなさそうなんだよねぇ。バーベキューしようって一緒に説得しようか?」
「説得するです!」
チョロいな。
よしよしとケルトの頭を撫でてやる。
そして皆のほうに振り向いてケルトからは見えないようにしながらにやりと笑ってみせた。
「学園長たるディゼオが、まーさか自分が嫌だという理由で子供の願いを踏みにじるなんてことはしませんよねぇ?」
「こ、こいつ子供を人質に!」
人質とは人聞きの悪い。
僕は仲間を増やしただけだぞ。
「ヴィオランならば知っているでしょう。子供にとって街の外は危険すぎます。目を離した隙に何かあったらどうするつもりです」
マジナーサが冷静に指摘してくるがそう来ると思っていたので僕は体内の魔力を使い、体の前で魔法陣を描く。
といっても即席で作った魔法なので精度はお察しではあるけど。
魔法陣からはウサギを模した炎が現れた。
攻撃魔法なので触ったら普通に燃える。
それをケルトに向かわせた。
「ひゃあ、かわいいです!」
ケルトが喜んでウサギのほうへ手を伸ばす。
マジナーサはさっと顔色を変えて防御の魔法を唱えようとしたが、それより先にウサギがケルトに飛びついた。
まあ、ネックレスがあるので自動で結界を張り防御したが。
「あれ? 触れないです……」
「ほら、ケルト。このウサギは炎で出来てるから触るのは危ないよ」
僕はケルトを抱っこしてウサギから遠ざける。
ウサギはぴょんぴょんと逃げ去ったようにみせてから魔力を霧散させ消しといた。
「そのネックレス……なるほど。準備は万全ですか。ヴィオランは悪知恵が働きますね」
呆れたようにマジナーサが言う。
褒め言葉として受け取っておこうか。
「ですが攻撃魔法を子供に向けて放つなど、正気ですか?」
「魔法は使ったが攻撃はしてないだろう? 可愛いウサギちゃんが寄ってきただけ」
「あなたは人の道から逸れ過ぎていますね。今すぐ神の御前にて懺悔して頂きたい」
「はいはい。神サマと法王サマが僕に許しを乞うてきたらしてやるよ」
「なんと、傲慢な……。ああ、神よ! 迷える子羊のヴィオランをどうかお救いください」
マジナーサは芝居じみた仕草で天を仰いで膝をつき、祈り始める。
僕のことは僕が救うから神も宗教も出張ってきてほしくないんだけど。
教会での嫌なことを思い出してしまったので、忘れるためにさっさと楽しいバーベキューをするとしよう。
門の外に出るとそこは、風と共に草が流れる大運河のような野原が広がっていた。
野原までは初級の冒険者たちがパーティーを組んで魔物を狩り、今日の仕事に勤しんでいる。
その野原の向こうには巨大な森が広がっていて、中央にはドラゴンが住んでいるらしい。
樹竜の巣なんて大層な名前が付いているくらい危険な森だ。
それらを横目にバーベキューの準備を始める。
網と鉄板、鍋、あと食器類と果物。
肉とかキノコとかはそのへんで調達しよう。
「エリック、果物を焼いておいてくれ。僕は肉を取ってくる」
「……昔から思うけど、お前、魔法使いのくせにワイルドだよな」
エリックがいうが、金がなかった時代はワイルドにならないと食えなかったんだ。
あの頃はあの頃で楽しかったから、たまにこうやって現地調達して食べるんだけどさ。
焼くのは皆に任せて、ディゼオと一緒に野原を歩く。
野原の獲物はウサギやネズミになるが、それは初級冒険者たちに任せていい。
僕たちの行き先は森の中。
そこで適当に食材を取っていく。
その最中に昨日の怪盗の仕事についてディゼオに話しておいた。
魔法を切る剣のこと、今回の冒険者組合の作戦、僕がやったこと、魔宝石のこと。
「なるほどな。剣についてる魔宝石がお前の魔宝石の可能性は限りなく低いのはわかる」
「古代文字が描かれている剣ってことは古代の道具だ。現代では構造が完璧にわかっていないのに、魔宝石を取ってもう一度つけるというのは難しい」
「でも不可能ではないんだろう?」
「まあね。でもわざわざそんなことする理由がわからない。売るなら魔宝石のついた剣ごとのほうが高く売れる」
「魔宝石だけ売ったということはなさそうだな。それなら剣のやつは、お前の魔宝石ではないか」
「そうだと思うよ」
「それでも可能性があるのなら確認はしておきたい。五の魔法使いとして組合に接触するがいいよな?」
「いいけど、今後もサーチ捕獲に協力するとかそういうのは嫌だからね」
「わかってる。組合には俺を通してからニファンに、という形にしておく」
倒した魔物の血を瓶にしまい、瓶と魔物の肉をポケットにいれていく。
キノコも結構取れたな。
他にも野草とかも手に入れたし、こんなものでいいだろう。
皆の元へ帰ってくるといい感じで果物が焼けていた。
「この世界の人は果物をパーベキューで焼くの? バナナとリンゴはまだ許せるけど、オレンジとかメロンとかも焼く?」
「いや俺も普通は違うと思うよ? でも焼かないとニファンがうるさいんだ」
血抜きした小さめの魔物をポケットから出してエリックの頭に乗せておく。
「焼いた果物は甘くなって美味しいんだぞ」
例外でイチゴは生が好きだが。
ほかの果物も生で食うけど、たまに焼きたくなるものなのだ。
せっかくのバーベキューなんだから、焼けるものは焼いておきたい。
「うわっ、やめろよニファン! それ肉だろ!」
エリックがいうので魔物を乗せるのはやめてあげる。
さて、これどうしよう?
ついででエリックに聞くか。
「肉どうする? 網か? 鉄板か?」
「あー、鉄板で」
「りょーかい」
僕は魔物を鱗と皮と骨、肉、内臓にわけ、内臓はそのへんの魔物に与える。
わけることが出来たら、ポケットから鍋型の魔法道具を取り出して、その中に肉を入れて蓋をした。
あとは呪文を唱えて魔法道具を起動させたら少し待つ。
一分もかからずに魔法道具の一部が点滅し始めたので蓋を開けると、肉はミンチになっていた。
そこに塩コショウをしてもう一度蓋をし呪文を唱える。
さっきより早く魔法道具は点滅した。
蓋を開けて味付けされた肉を魔法で作り出した水で綺麗にした手に乗せて丸める。
そのあと潰して平たくした。
それを鉄板の上に乗せる。
それを繰り返す。
「先生、それってハンバーグですか?」
マーヤが聞くので頷く。
普段は作りたくないけど、バーベキューとか食事会とかなら作る気になれる。
皆でワイワイするのはやっぱり楽しいし。
生徒とバーベキューしたときはなぜかハンバーグの作り方が変わってると言われたなぁ。
高級である魔法道具で肉をミンチにするなんてあまり見ないのかも?
肉を薄く切って焼くのが一般的だし。
「あ、網で焼肉したかったら自分で肉切ってね」
ハンバーグを作りながらマーヤに言っておく。
「私、解体って苦手なんですよ」
「僕も好きではないけど、たまに魔石を見つけられるから楽しみはあるぞ?」
「魔石?」
「魔力が体内で結晶化したものだ。人間の体にもたまに出来て、健康を害す。取り除けば問題ないけどね」
「ほえー」
「マーヤみたいに膨大な魔力を溜め込んでるとなりやすい病気とも言われてる」
「えっ!?」
「魔力を操作出来るようになれば、結晶化なんて起こらないけど」
最悪、命も奪われる病気だ。
魔力をコントロール出来ずに脳みそにある魔力が結晶化とか悲惨だ。
他にも心臓に魔石が出来るとかもあるし。
コントロール出来なくても、魔力を外に放出すれば病気になることも少ないが。
マーヤには定期的に魔法書で魔法を使って貰うか、魔法石なしの魔法道具を沢山使って欲しい。
一番いいのは僕の実験体となることなんだがなぁ。
ハンバーグを人数分作り終わって、手を洗ってから僕も食事を始める。
果物が甘くて美味しい。
粉末のシナモンをかけると更に美味しい。
「おいしいです、ヴィオランお兄ちゃん!」
僕の隣で焼きリンゴを食べながらニッコニコしてるケルト。
いつのまにか好かれてしまったようだ。
「その茶色い粉なんです?」
「シナモンだよ」
「美味しいです?」
「好みによるんじゃないの? 僕は好きだけど」
「た、食べてみたいです」
「かけ過ぎないようにね」
粉末のシナモンが入った小さな瓶を渡しておく。
ケルトは焼きリンゴに粉をふりかけたあと、パクリと口に入れる。
すると目をきらきらさせてシナモンをふりかけては食べを繰り返し始めた。
あまり食べすぎるのもよくないんだけど……。
「あまり食べすぎないでくれよ?」
ちょっと心配になってそう言ってみる。
「はっ! ごめんです。美味しくてたくさんかけちゃったです」
「そのくらいなら別にいいんだよ。ただどの食べものにも当てはまるけど、食べすぎはよくないんだ」
「そうですね。これ返すです」
シナモンを受けとる。
シナモンって嫌いな人が多い気がするのに、この子は平気なんだな。
好きなものが同じだとちょっと嬉しい。
「ヴィオラン。そのシナモンって甘いのですか?」
僕たちの会話が気になったのか、焼いていないバナナを食べながら聞いてくるマジナーサ。
「甘くしてあるけど?」
「あなた恐ろしいですね……。シナモンは甘い香りはしますが、味はあまり甘くないのですよ?」
「そりゃ砂糖が入ってるし」
「んむ!?」
ケルトが今度は焼きメロンを口に含みながら目を見開いて僕を見つめてくる。
もぐもぐごっくんと喉を鳴らして飲み込んでから、僕の白衣を掴んできた。
「さ、さささ砂糖入ってたですか!?」
「僕は甘いものが好きなんだ。入ってて当然だろう」
「ひぇっ、そんな高価なものを……ごめんなさいです」
「何を謝る? 金の心配ならいらないぞ。これでも僕は金持ちなんだ」
頑張って使っても全然減らずにむしろ増えていく。
仕事をしなければいいんだけど魔法道具作りは趣味だし、教師もディゼオがやれっていうからやめるわけにもいかない。
他にも新しい魔法作ったり、僕の書いた素晴らしい魔法書を見せびらかしたくて売ったりと、なんか色々してるからど金はどんどん入ってくるわけで。
結構高い買い物はしてるのになぁ。
次話は4月4日投稿予定です




