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閑話 とある魔法使いとその弟子

◆~~~~◆



 怪盗サーチが逃げたあと、スリープの魔法が解けてすぐのこと。

 冒険者組合ヒロマインツ王国メダンラム支部の最上階にて、怪盗サーチ対策部隊設立当初からいる、もしくは部隊のなかでも優秀な冒険者たちが集まっていた。


「諸君、よく集まってくれた。怪盗サーチを今回も逃してしまったが、魔宝石を盗まれずに済んだ。過去最大の成果といえる。ひとまずは喜ぼう!」


 この部隊のなかでも怪盗サーチを熱心に追いかける人物、ティルカムナス王国国王直属国宝奪還騎士団団長のダイザムは、立ったまま机に両手をついて意図的に明るい声を出して言った。

 だが、集まった冒険者たちは皆悔しそうに唇を噛み、それでも笑みを浮かべようとして失敗し、歪な表情をする。

 彼らの気持ちがわかるダイザムは無理矢理浮かべていた笑みを崩してから、深い深いため息を吐いた。


「とは言っても喜べないよな。サーチは一瞬で我々を眠らせ逃げ去った。むしろ何故魔宝石を盗まなかったのか」


「サーチにとって何か不測の事態が起きたと考えるのが妥当、でしょうか」


 水色の髪を後ろで纏めた男性騎士、副団長のノーランがメガネをクイッと押し上げながら答える。

 ダイザムは力なく椅子に腰掛けてからノーランの言葉に同意した。


「だが、不測の事態とはなんだ? あのサーチが本物も偽物も盗まず逃げるなど初めてだぞ」


「サーチは偽物の魔宝石を盗もうとしたとき、呪文のようなものを唱えていた! 盗まなかった理由はそれに関係してる!」


 鬼を連想させる恐ろしい顔の巨漢が前屈みになるほど強く言った。

 だがダイザムは呪文だけで盗まなかった理由を語るには不十分だと考え巨漢に聞く。


「馬鹿みたいな威力のスリープを詠唱していたんじゃないか?」


 だが巨漢はうざったらしく人差し指を左右に振りながらチッチッチと口を鳴らし、恐ろしい笑みを浮かべてから答える。


「皆に聞いたんだが俺以外逃げ回っていたはずのサーチの呪文は聞いていないって言っていたんだ。スリープの魔法は詠唱されずに発動したと見るべきだぜ」


「サーチならあり得るが……詠唱したその呪文はなんだ」


「それはわからないが、今回盗まなかった理由と関係してるんだって!」


「偽物を盗まなかった理由としてはわかるが、本物はどうだ?」


「魔法を切るので危険と判断した……とか?」


「あのサーチがそんな理由で諦めるか? むしろ我々が寝ている間に今後盗みの邪魔になりそうな魔法を切る剣は最優先で奪うと思うが」


「……そういやそうだな」


「だろう?」


 自信満々だった巨漢はあからさまに肩を落としてしょんぼりとしてしまう。

 それを隣にいた素行の悪そうな赤髪の男がそっと慰めているという、外見と行動の一致しない二人にダイザムは笑いそうになるが、なんとか気を引き締めて話を続ける。


「だがその呪文というのは気になるな。魔法部隊はこれかもしれないという呪文を探してみてくれ」


 魔法部隊隊長が代表して返事をし、部下が早速仕事に取り掛かろうと立ち上がる。

 仕事熱心な者が多いのがこの部隊であるので、毎回途中で出て行くのをダイザムは許している。

 だが今回ばかりは止めた。

 まだ、話すことがあるからだ。


「魔法使いのお前たちのうち、代表者四人にやってほしいことがある。必要だったり心細かったりするなら、ほかの冒険者も同行してよしとする」


「して、やってほしいとは一体?」


 魔法部隊の隊長の今にもぽっくり逝きそうなお爺さんが優しく笑みを浮かべて問う。

 ダイザムはついさっき、高価な通信の魔法道具で本国の王と会話したことを思い出した。

 許可はもらった。

 必ず、魔宝石を取り戻す。

 その誓いを胸に、部屋の皆の顔を見回してからゆっくりと答えた。


「既に協力関係である魔法王を除いた五の魔法使いに会いに行って、一日だけでもいいからサーチ確保のための協力を取り付けてきてほしい」


 ざわざわと冒険者たちが騒ぐ。

 特に魔法使いたちは誰が行くのか決めようと、魔法書を開き決闘を始めようとしていた。


「静粛にお願いします」


 副団長のノーランが静かな声音で言うと、冒険者たちは一斉に静まり返る。

 過去にノーランの言葉を無視し騒いだ者がいたが、それに怒ったノーランは悪魔のような出で立ちでその者を叱ったのだ。

 叱られた者はノーランを見るたびに酷く怯えた。

 それは尋常ならざる怯え方で、その様子をみた部隊の者は、ノーランだけは怒らせてはならないという暗黙の了解を作り出したのだ。


 不気味なほど静かな空間にダイザムの咳払いが響く。


「えーっと、協力を取り付けるのが一番いいが、それは些か難しいと思う。最低でもどのくらいの報酬であれば協力してくれるのかを聞いてきてほしい」


 無言で頷く冒険者たち。


「今回は出来るだけ戦力ではなく、魔法使いとしての知恵がほしい。もちろん戦力もあって悪いことはないのでその方向で協力してくれるのなら協力したい」


 ダイザムはちらりと魔法部隊のほうをみた。


「俺は五の魔法使いのなかでも幅広く魔法の研究をしているニファン・ヴィオラン・アスタール殿を伺う。ノーランは古代魔法の研究をしているルイセンコ・クレール・ハイム殿を伺うことになっている」


「では儂もダイザム団長に同行するとするかのう」


 魔法部隊の隊長であるお爺さんが五の魔法使いに会えることが嬉しくて「楽しみじゃのう」と隣の魔法使いに話しかける。

 そのあと誰が誰を訪問するのか決め、もう一度任務の内容を確認してから今回の会議はお開きとなった。



~~~~



 会議が終わってもなお部屋に残った者が四人。

 団長のダイザムと副団長のノーラン。

 それに魔法部隊隊長のお爺さんジョセフと訳も分からぬまま呼び止められた優秀な少年、トゥアーサ。

 トゥアーサはお偉い方々に囲まれ、緊張で冷や汗をダラダラと流していた。


「魔法部隊隊長。あなたはこれから伺うニファン殿を知っているらしいのでどんな人物なのか聞いておきたいのだが」


 ダイザムはトゥアーサの異変には気がつかずに話を進めた。


「そこまで詳しくはないのじゃが……」


 隊長ジョセフは少し困ったように頬をかいて笑う。


「でもあなたは()()()()()使()()。しかもそのうちの五であった。ニファン殿とも少しくらい話はしたんじゃないか?」


「まあのう。……とりあえず言っておかなければならないことは彼の性格じゃのう」


「性格?」


「誰もが彼に会った時、紳士的で礼儀正しい好青年に見えるんじゃがのう……。しばらく話しているとな、ちょっと、その、自信家というか……自惚れた発言をするんじゃよ」


 ダイザムはふむふむと頷き、ノーランはそれらをメモしていった。

 ノーランがメモし終わったことを確認してから、ダイザムはジョセフに考えを話しだす。


「自信家ってくらいなら、いいんじゃないか? 聞いたところによると、ほかの五の魔法使いはもっと酷いようであるし」


「五の魔法使いのなかでは比較的常識をわかっているのは認めるがのう」


 納得いかなそうなジョセフの様子を見てダイザムは、昔ニファンに負けたのでそれ関連を引きずっているのだと考え、別のことを聞くことにした。


「ほかに気をつけるべきことはあるか?」


「さぁてのう。少しくらい罵倒されても軽くあしらうほど懐が深い人物じゃから、基本良い人ではあるんじゃ」


「ふむ。協力はしてくれるだろうか?」


「わからぬ。じゃが魔法を教えてほしいと言ったら少しは教えてくれるのではないか? そのために儂の弟子の中でも優秀なトゥアーサ君を連れて行くのじゃし」


 ジョセフがニファンについて思っていたほど悪印象があるわけではないと知り、ダイザムは少し驚く。

 それと同時にそれだけ良い人なのかと考え、会ってからはしっかりと交渉しようと決心した。

 一方、黙って話を聞いていた、訳もわからずにこの部屋に呼び止められた少年トゥアーサは、突然出てきた自分の名前に驚き、隣ににいる隊長ジョセフに顔を勢いよく向け、どういうことかと目で訴えた。


「そんな顔をしなさんな。ニファン殿は教師もしているし、教え方は儂より上手いかも知れぬぞ?」


 ジョセフはいつもの優しげな表情でトゥアーサに語りかける。


「で、ですが師匠!」


「大丈夫じゃって。ニファン殿は儂より優しいかも知れんから」


「全部憶測じゃないですか!」


「学園での評判はなかなかよいぞい。ニファン殿には儂から報酬を渡しておくのじゃ。じゃからニファン殿、いや先生にはどんどん質問して良いのじゃよ」


「師匠ぉぉおお!」


 現役五の魔法使いという雲の上の人物に質問などおこがましい。

 胃が痛くなるような役目にトゥアーサは叫ぶが、ジョセフはそれがどうしたと言わんばかり「ふぉふぉふぉ」と楽しそうに笑って可愛い愛弟子を眺めているのだった。



◆~~~~◆

次話は3月21日投稿予定です


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