先生をダンジョンに誘う
パンケーキをもぐもぐ噛んでゆっくり飲み込みながら皆の話を聞いていると、僕の話か学園の話ばかりされていた。
三人の共通の話題がそれくらいなのだろうな。
僕が天才と認めてくれてるようでとても嬉しい。
「そういえば昨日、怪盗サーチが宝石を盗むの失敗したって冒険者組合のお偉いさんに聞きました」
城の牢屋にいた男アサンジのせいで立派な怪盗サーチファンになってしまったマーヤが、悲しそうに視線をテーブルに向けて言う。
そりゃあ残念だったね。
僕も盗めなくて悲しいよ。
剣は僕のものである可能性は非常に低いけど、研究素材としてはとても欲しかったのに。
最優先は僕の魔宝石なので、なくても困りはしないんだけどさ。
「そんな犯罪者はさっと捕まえてしまえばいいのに」
エリックが頬杖をついてむすっとした顔でマーヤの言葉に返すが、マーヤは彼の物言いに食ってかかっる。
「それが出来ないから怪盗サーチは怪盗って呼ばれてるの! エリックさんはわかってない!」
両手を握りしめて力強く語るので、エリックは圧倒されたように体を後ろに倒した。
でもすぐに苦笑いを浮かべ指摘する。
「マーヤちゃんなら頑張れば捕まえられるんじゃ?」
「あ、う、それは、そうかもしれない、けど……」
ん?
マーヤはまだ魔法を全然使えないのに、頑張れば僕を捕まえられる可能性があるのか?
魔法以外の別の方面で優秀だったりするのだろうか?
二人の会話に疑問を抱きながらも黙って耳を傾けてると、マーヤは「でも」と話を続けた。
「五の魔法使いが全員ダメだったら、怪盗サーチを捕まえて引き込むつもり、とは言っておこうかな」
「そっか。じゃあ犯罪者を引き込むことにならないようニファンに期待かな。ニファン、マーヤの誘いを断るなよ?」
はてさてなんの話か。
いや、マジでなんの話してんの?
眉を顰めてしまう。
パンケーキをごくりと飲み込んでから聞いてみる。
「誘いってどういうことだ?」
「マーヤが神の使徒ってことに関係あることだよ」
エリックが大真面目な顔で言うが、とても胡散臭い。
マーヤが神の使徒とか似合わなすぎて笑えてくるぞ。
でもエリックは本当に本当のことを本気で言っているようなのだ。
もう十数年の付き合いだからなんとなくわかってしまう。
「神とかどうでもいいけど、引き込むとかそういう面倒くさいことは断るからな」
神とか宗教絡みは本当に面倒くさいから首を突っ込みたくない。
一度助けを求めて教会まで行ったことがあるけど、そこは僕には合わないものだと悟った。
信者たちの言葉は意味不明すぎて話にならなかった。
僕が何かを信じるということは、恐ろしく難しいのだとその時に知ったかな。
信頼してやまなかった両親に裏切られれば、仕方のないことなのかも知れないが。
だからディゼオを信じられていることは、奇跡と言っていいのだろう。
そんなことを考えていると、マーヤが難しい顔をしながら僕を見て呟く。
「確かに先生は凄い魔法使いなのですが、戦いには向かなそうですよね」
なぜ戦いの話になるのかわからなかったが、その言葉にイラっとした。
戦いに向かないって、僕の魔力が少ないから戦場では役立たずってことだろう?
「僕は戦いでも素晴らしい実力を持っているんだからな!」
「あ、それは想像がつきます」
マーヤが僕の実力を認めてくれているようなので、イライラした感情はすっと消えたが、かわりに困惑してしまう。
認めているのになんで戦いに向かないんだ?
納得がいかないのが顔に出ていたのか、マーヤは詳しく話してくれる。
「先生って『僕天才! 僕イケメン! 僕最強!』って感じで仲間を巻き込むような魔法を使いそうですから」
うっ。僕をよく見ているじゃないか。
昨日のスリープの魔法を思い出しながら思う。
自分さえ巻き込む魔法を放つのが僕なんだ。
「……確かに集団で戦うのは、向かないかも知れない」
「やっぱりそうですよね」
「でも僕は天才だからな! 頑張れば集団の中でも戦えるさ」
「自称天才の先生なら必ずそういうと思ってました。今度先生と皆でダンジョンにでも潜りに行きましょう」
「はあ?」
さっきから話題の切り替えが早い。
なんでマーヤとダンジョンに行かないとならないんだ?
確かにダンジョンには研究に使える素材が沢山あるから、魔法の研究に使えるんだけど……。
「いいんじゃないか? ダンジョンのなかでも特別なダンジョンもあると言うし」
ディゼオも言っている。
特別か。
ドラゴンが住んでたり、何か条件を満たさないと入れなかったりってことかな。
どちらもなかなかいい素材が取れるが、その分危険も多いから行きたくない。
でもディゼオが言ってるしなぁ。
「行くにしても、予定を調整する必要があるんだけど」
「調整しといてください!」
マーヤがダンジョン楽しみ! とエリックに話して勝手に盛り上がってる。
僕は行くとは言ってないんだけど。
二人のやりとりを見ていたけど、文句を言わなければ行くことになってしまうとハッとして口を開きかけた。
でも声にする前に、鈴の音が鳴り響く。
それは訪問者が来たという合図。
「まだここに来る奴がいるのか? 昨日の話の続きをしたかったんだが」
ディゼオが呆れたように言っている。
「いや、今日はマーヤしか来ないはずなんだけど……」
ほかの人とは約束していない。
なにか飛び込みの依頼だろうか?
それとも僕が怪盗ってバレたのか?
……とりあえず出てみるしかないか。
次話は3月14日投稿予定です。
今回の話で一応、第一章「海の破片」は完結です!
冒険者組合視点の話を挟んでから、第二章「刻印の血涙」に続きます。
今後も「怪盗サーチ」を読んでくださると嬉しいです!




