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明るい時間は学園で過ごします

 翌日、学園の魔法道具の授業が始まった。

 魔法道具は、その名の通り魔法を使った道具のことだ。

 それを作る技術を学ぶのは、魔法を作るのと同じくらい難しいと言われている。

 僕は魔法を作る技術を先に習得したので簡単だった。

 実際、売りに出してみて結構売れている。

 魔法道具作成、つまり道具を正常に作動させ売ることが出来るようになるには魔法陣を何個も書き込み、何度も試して、問題がないことを確認してからじゃないとダメらしい。

 それはそれで楽しいから僕にとっては魔法道具作成も天職なのだろう。


「ニファン先生。どうしても冷蔵機能が働きません」


 とある生徒がそう聞いている。

 どうやら持ってきた木の箱を冷蔵庫にしたいようだ。

 ちらりと見てみたが肝心なところが抜けているのが見えた。

 魔法道具に書かれた魔法陣の一つには魔法文字で『内部を魔宝石の魔力1%で温度を保ち続ける。』としか書かれていない。


「魔法属性が付与されていないからそうなる。冷蔵にしたいんだったら氷属性の魔法文字を魔法陣に組み込まなければ常温のままに決まってるだろう」


「あっ! 本当だ。先生、ありがとうございます!」


 生徒はそう言って自らの席に戻り、氷属性の魔法文字を辞典で調べ始めた。

 まだまだだけど、教え甲斐のある生徒たちではある。

 彼らは教師である僕が、世間を騒がす怪盗だとは知らないだろう。

 まあ知っていたら口を封じるが。

 椅子にもたれかかり、ヨレヨレの白衣のポケットに手を突っ込みながら彼らを見る。

 それぞれが好きな魔法道具を黙々と作っている。

 わからないところ、困ったことなどは僕に聞きに来るので、僕はここにいなければならない。

 本当なら寝ているか、怪盗衣装の点検をしたいところなのだけど、そういうわけにもいかないし。

 でも暇なので新しい魔法か魔法道具の研究の続きをしよう。

 そう思って魔法陣を描くための道具の準備を始めていると、さっきとは別の生徒がやってきて質問してくる。


「どうすれば木材にコンロのような役目を与えることが出来ますか?」


 なんともまあ、挑戦的な生徒で。

 ちょっと興味が出たので、生徒が作りかけているコンロを見る。

 木材に燃えた跡があるので何度も失敗しているのだろう。

 少し貸してもらいじっくり見てみる。

 んー。なるほど。……そうだな。


「方法はいくつかあるね。でも君のような挑戦的な生徒は答えが欲しいわけじゃないだろう。何個かヒントを与えよう。どの答えに辿り着くか、もしくは全く新しい答えに辿り着くか、少し興味がある」


「こ、光栄ですっ!」


「君のやり方は木材に火耐性を付与しているね」


「はい! ですが、それでも火がついてしまいまして」


「耐性は完璧ではない。長い時間、もしくは度を超えた力の前では無意味となる。成功出来る可能性としてあげられるのは火耐性の強化、もしくは水とか――」


 他にもいろいろなアドバイスをしていく。

 好奇心を刺激していけば、新たな発見を得られる可能性が広がるから、自ら挑戦して失敗を繰り返すのは大切だ。

 アドバイスを言い終えたので、魔法陣を描くための道具を出して机の上に配置する。

 白紙のある魔法書と筆と魔物の血液だ。

 さて。どんな魔法にしよう?

 広範囲探索魔法の改良でもしようか?

 未だに僕の大切な魔宝石は見つからないからもっと広範囲を探れるようにしたい。

 魔力に限りがあるし、出来るだけ消費を抑えなければならないのが痛いな。

 僕の魔力があったなら……。

 まあ、ないものは仕方ない。

 魔力の消費を抑え、かつ精密な探索が可能な魔法を頑張って作る。

 前に作った広範囲探索魔法は確か……。



 作業に没頭してしまっていた。

 肩を叩かれて我に返り、顔を上げるとまた冷蔵庫生徒がいた。


「先生、授業の終わりの号令を」


「ん?」


 チャイム鳴った?

 全然聞こえなかった。


「あー。今日の魔法道具の授業はこれにて終了。まだ質問があったら僕の研究室に来てくれ」


 僕はそう言ってから道具を片付ける。

 続きは研究室でやろう。

 水の魔法で魔物の血液を乾燥させて、魔法陣の形が崩れないようにしておく。

 魔法陣は生き物の血液を使わないと魔力が通らない。

 だから倒すべきである魔物の血はとても重宝している。

 最高の血はやはりドラゴンだろうか。

 そう簡単に手には入らないが、古代魔法の研究などではやはり、ドラゴンの血液が必要不可欠だ。

 白衣のポケットに全ての道具を突っ込むと、僕は席を立ち研究室へ向かう。

 僕の白衣も怪盗の衣装も全てのポケットが異空間収納が可能となっている。

 だから分厚い魔法書も楽々入れることが出来るし、それ以上の大きさや重さのものでも山とか海とかでない限りは収納可能だ。

 僕は魔法の天才だからこの程度の機能なら簡単に取り付けられる。

 この後は午後まで暇なので研究に没頭出来るだろう。

 広範囲探索魔法の改良はどうしようかな。

 探すものは精霊と魔力に限定したのはいいとして、それでもこの国の領土ほどしか探索が出来ない。

 僕の魔宝石が国外に持ち出されていることを考えると、全世界を把握出来るくらいにはしたい。

 脳を強化する魔法にも改良が必要か。

 僕の魔力量を考えるとなかなか難しいが、やるしかないしな。

 僕の今の魔力量は一般人より少し多いくらいの量だ。

 増やそうと訓練しているけども、一向に増える気配はない。

 まあそうだろうさ。

 僕はある意味呪われているわけだし。


「ニファン」


 廊下の壁に寄りかかり腕を組んだ格好で声をかけて来たのは裏仕事の相棒でもあるディゼオ。

 そしてここの学園長をしている人物でもある。


「なんか用? 学園長」


「ちょっと面倒ごとを頼まれてくれないか?」


「嫌なんだけど」


「国からの要請なんだ。お前に指名依頼が入っている」


「はあ? 僕が嫌がることしたらこの国を出て行くって言ってるのに?」


「それでも指名を入れるくらい大切なことなんだろう」


 そんなに大切なこととは一体なんなんだろうか?

 近くの魔物を倒して来いとかなら自国の騎士か、腕のいい冒険者を雇えばいいだけだろう。

 少し警戒しながらも、ディゼオに指名依頼についての続きを促す。


「そう身構えるなって。とある少女に魔法を教えればいいだけだ」


 それなら教師としていつもどおりに教えればいいのか?

 でも魔法ならこの学園に入学すればいいだけの話。

 国からの推薦状があれば簡単に入れるだろう。

 それとも学園に入学出来ない理由でもあるのか?


「とりあえずこれが依頼書だ。目を通して受けるか受けないか決めればいい」


 ディゼオから紙を受け取り、依頼書に目を通す。

 依頼内容はマーヤ・レイザンガリフという少女の魔法教育。

 その報酬は国の極秘魔法文書か、魔法研究の材料の支給のどちらかを選べるのか。

 魔法文書がどのくらいまで秘密を読めるのかわからないし、材料もどれくらいまで支給されるのかもわからない。報酬がいつ支払われるのかにもよるな。

 これは一度城まで行って、国王にもっと説明を要求しないと。

 あとでごちゃごちゃするのも面倒だ。

 別に受けなくても困りはしないが、魔法研究の材料は欲しい。

 魔宝石が欲しいといったら集めてくれるかもしれないし。

 その中に僕の探している魔宝石があったりするかも。

 可能性は薄いが、なくはない。

 国が用意してくれるんだ。

 見つけられたらラッキーって程度。

 そのラッキーがあればそれでよし。

 なくても魔法道具の部品で核と呼ばれる魔宝石として使えばいいから無駄にはならない。

 なんならこの学園に寄付して授業で使うことも可能だろう。


「このあとも授業があるのか?」


 依頼書について考えていた僕に聞いてくるディゼオ。


「昼休みの後に魔法の基礎についての授業があるね」


「そうか。次の夜までにちゃんと金ぴか磨いとけよ」


「言われなくてもやるさ」


 今日の仕事が終わりさえすれば、金ぴか怪盗衣装の点検を行う予定だし。

 とりあえずこの国の王に手紙を書いて、そのあと魔法陣改良の続き。

 昼休みのあとは授業で、それが終われば裏仕事関係を行えば今日やるべきことはやれるか。

 依頼書をポケットにしまい、ディゼオと別れて僕に与えられた研究室に入る。

 沢山の本と魔法書が入っている本棚。それと魔物の血液の瓶が並ぶ棚と魔宝石が入っている鍵つきのタンス。

 それらが壁一面に、それと部屋の中央に二列となって並んでいる。

 その間を進んで行くと机があり、その後ろにはカーテンに隠された窓がある。

 カーテンを開けて部屋を明るくして、僕は机に向かって座った。

 国王への手紙を書いて、魔法で国王しかこの手紙を開けられないようにしておく。

 あとは僕が作った魔法道具の運び鳥三号に手紙を届けさせる。

 運び鳥三号は手紙を届けるためだけに作った魔法道具で、その名の通り鳥型だ。

 遠目から見ればカラスと間違えるほどの完成度だと自負している。

 近くで見れば木製だとわかり誰もが驚くことだろう。

 僕の魔法道具だから雨が降っても腐ることはないし、間違って撃ち殺されるなんてこともない。

 耐性と防御の魔法陣を仕込んでいるし、最悪攻撃も可能としているからな。

 といってもなにかを殺す力はないが。

 早く届けさせればそれだけ早く返事も来るだろう。

 さて。魔法陣の改良の続きをしようか。

 僕はポケットから道具を取り出しながら、どうすればより良い魔法陣となるかを考え始めた。

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