表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/55

朝食にパンケーキはいかが?

 転移の陣に乗って家まで帰ってきた。

 ディゼオも一緒だ。

 さっさと服を着替えて怪盗衣装を隠してしまう。

 耐性の魔法の効果が切れかかってるのか、もう目が開かない。

 眠い。

 ディゼオの肩を借りながら、寝室に連れてってもらうことになった。

 ずっとうつらうつらして喋らない僕に痺れを切らしたのか、ディゼオが僕に話しかけてくる。


「一体どうしたんだ? そんなフラフラして」


 半分寝てた僕はハッとして目を擦りながら記憶を探る。


「んー。あれ。なんだっけ。………………っと危ない。意識がどっかいってた。えーっと、何があったか。そう、あれ。あれだあれ。魔石でスリープした」


「スリープか。そんな捕まりそうだったのか?」


「囲まれたらどうしようもないよね。僕に魔力ないし。魔力あったらなんとか出来るけど今ないし」


「魔法道具は?」


「魔法を切る剣があったからあんま使いたくなかったんだ。魔宝石の魔力の無駄遣いになる」


「なんだそりゃ」


「詳しくは明日にして。僕の素晴らしい魔法の効果で眠くてだめ」


「はいはい、わかった。とりあえず一番大切なことだけは聞くぞ。魔宝石はどうだった?」


「……偽物は確認したけど僕のじゃなかったね。本物の海の破片は魔法を切る剣に搭載されてたから確認は出来ていない」


「怪盗サーチで剣の魔宝石の確認は出来なそうだな。戦うとなると剣が邪魔になるんだろう?」


「もうなんでもいいよ。――取り戻せるなら」


「そうだな。ラッキーなことに明日はのんびり出来る休日だ。詳しく話しを聞きたいし俺はここに泊まってくからな」


「はーい」


 寝室に着いたので僕はごろりとベッドにダイブした。

 もうだめだ。動きたくない。

 僕の改造した魔法はやはり素晴らしい効果だ。

 耐性の魔法があってもこれ。

 最高の出来だね。

 仕事は失敗したけど、僕は良い心地でぐっすり眠った。



〜〜〜〜



 爽やかな目覚めの朝を迎え、僕は久しぶりに朝食を作っている。

 いつも朝ご飯は食べないんだけど、今日はディゼオがいるからな。

 それに僕の機嫌もいい。

 魔石はやはり使えることが実感できたし、あとはスリープやパラライズの魔法の効果を無効化出来るように怪盗衣装を改造すれば問題は解決するだろう。

 ただ状態異常系の魔法は防ぐのが難しい。

 普通、状態異常の魔法の効果はとても弱い。

 何度も失敗を重ねて、運が良ければ敵の体調を悪くすることが出来る、というのが一般的な状態異常魔法というものだ。

 本当に運良くかかればラッキー程度の代物。

 確実に一度の使用で状態異常を起こさせるには膨大な魔力にものを言わせるか、僕のように改造するかのどちらか。

 改造しても結構魔力を消費するから魔力が少ない僕では使えない。

 魔法道具にしてもいいけど、そうすると僕にも効果が及んでしまう。

 自分の体内にある魔力を使えばそんなことは起こらないんだけどねぇ。

 あ、そろそろいいかな?


「あらよっと」


 パンケーキをひっくり返し、綺麗な小麦色になっているのを確認してから再び思考を始める。

 僕の魔法は素晴らしいのだけど、自分も状態異常になるのは大問題だと思ってはいる。

 だが、耐性を上げてもスリープの効果は完璧には防げない。

 無効化の魔法はまだ成功出来ておらず実験中で、完成には程遠いだろう。

 だから今は使うとしたら使い捨てにするしかない。

 魔宝石で魔法道具を使えば何度でも使えるようになるだろうが、僕も一緒に状態異常になるのなら何度も使えば僕はろくに動けなくなる。

 それにスリープの魔法道具を作っても、その発生源であるものの側にはいられない。

 スリープの魔法の発生源の近くにいるとすぐ寝てしまうから、自分が寝ても問題ない状態でない限り、魔法の発生源は置いていくしかないのだ。

 それが今回の魔石という方法。

 魔石自体の魔力は少ないので石が壊れないギリギリまで魔力を込め、小さな石に魔法陣を刻む。

 魔法陣にはスリープなどの状態異常の陣の他に、石にヒビが入ったら魔石の魔力を全て使って魔法を発動するということも描き加えればいいだけだ。

 ただ石が小さいから描くのが大変。

 状態異常の無効化はどうすれば出来るようになるだろうか?

 いろいろ考えてながらパンケーキを焼いていたらディゼオが起きてきた。


「朝からパンケーキか?」


「そうだけど?」


「……お前甘いもの好きだな」


「トッピングは何がいい? バター、ホイップクリーム、カスタードクリーム、チョコレート。あとは果物類とナッツがあるぞ」


「……バターだけでいい。あと果物を少しくれ。果物はパンケーキに乗せるなよ」


「はーい」


 ディゼオの分を皿に盛る。

 僕のはホイップクリームとチョコレートをたっぷりとかけ、その上に沢山の果物を乗せておく。

 うむ。美味しそうだ。

 外見の美しさに満足しているとチリンと鈴の音が聞こえてきた。

 誰か来たようだな。

 ディゼオは腕を組み首を傾げながら僕に目で誰かと予定があったのかと訴えかけてくる。

 休みなのに暇じゃないのかってことか?


「ひとつ言っておくと、僕に休みはない」



 家から出て庭を通り門の前まで来る。

 門の隙間から元気に手を振るマーヤが見えた。

 今日も魔法を教えを受けに来ると言っていたが、朝食を食べる前に来るとは……。

 それだけ魔法に興味を持っていてくれるということか。

 門を開けてマーヤを招き入れる。

 そして何故かこの国の王子サマもこそこそしながら門を潜ろうとする。


「おいエリック。何故お前がここにいる?」


「父様からは許可を頂いてるから問題ない」


「違う。そういうことじゃない」


 エリックはちらりとマーヤを見る。

 釣られて僕もマーヤを見ると僕の家の広い庭で、お花綺麗とか言っていた。

 呑気なもんだな。

 そんなマーヤを確認してからエリックはズカズカと近寄ってきて、怒りを滲ませた声で囁く。


「……休日にお前とマーヤ嬢が二人きりなど許してたまるか!」


「なるほど。まあ別に二人きりってわけじゃないんだけどな」


 ディゼオがいるし。



 家の中に戻ってきた。

 マーヤは珍しそうにキョロキョロしてて、エリックは一度部屋を見回したあと、ため息を吐いている。

 僕はそんな二人を無視して、キッチンからディゼオと自分の分の朝ご飯をテーブルにおいた。


「お前たちはとりあえず適当に座っといて。僕とディゼオは朝ご飯食べるから」


 僕はそう言ってから椅子に座りパンケーキを食べ始める。

 マーヤは僕の隣に座り、エリックはマーヤの隣に座ってた。


「ニファン、なんでエリック王子が来てるんだ?」


 ディゼオがイチゴを食べながらエリックをチラチラ見てる。


「それは僕に聞くな。マーヤが来るのは知ってたけど、エリックは勝手に来たんだ」


「こちらも聞きたいんだがニファンの家に何故ディゼオ先生がいる?」


 エリックが心底不思議そうにディゼオを見つめてる。


「昨日の夜から魔法談議をしてたんだ。ディゼオは学生時代からの友人だし」


「先生を友人って……」


 呆れたようにまたため息をついているエリック。

 マーヤを神の使徒とか言ってる頭可笑しいエリックにそんな態度とられてもなぁ。


「ディゼオ先生って確か学園長なんですよね?」


 マーヤが僕の手元から目を離さないまま聞いている。

 多分パンケーキが欲しいんだろう。

 そんな目をしてもこのパンケーキはあげないぞ?

 食べてながら話を聞く。

 ディゼオがマーヤの問いに頷いて答えた。


「ニファンが学生のときは普通に教師をしていたが、先代の学園長に地位を譲ってもらえてな」


「凄いですね」


「そうでもない。学園の教師が手を焼いていたニファンの面倒を見ていただけだから。ニファンが五の魔法使いになったことが俺のお陰だとかなんとか。本当は何も教えられなかった。俺のほうがいろいろ教えられてたくらいだしな」


「ニファン先生の命は魔法っていっても過言ではないですもんね」


「俺は学生時代のニファンと何度か話して考えてみた。そして先生と生徒という関係を捨て、対等な友人として接したわけだ。そしたら仲良くなったんだよ」


「それはなんとなくわかります。私もニファンのこと最初は変態かと思いましたが、ただの魔法大好きな変質者だとわかりましたので」


 変質者とはなんだ。

 マーヤに見せた姿は変質者じゃなかったはずだ。

 確かに怪盗とかやってるしそういう見方も出来るが、それをしらないマーヤが何故?

 ちらりとエリックとディゼオの様子をみる。

 二人とも大きく頷いていた。


「待て。なんで二人とも頷いてる? 魔法大好きは認めるが変質者ってなんだ!」


「言葉通りです。ニファン先生は魔法が大好きすぎて犯罪やりそうな変質者です!」


 そんな元気良く言われても認めないぞ。

 いや犯罪やりそうってのはあってるかも知れないが。


「でも魔法の先生としては尊敬してますよ? びっくりするくらい生徒に好かれてますからね」


 マーヤの言葉を聞いて僕は嬉しくなる。


「当たり前だろう。僕のような天才魔法使いが授業をするんだ」


 そう言いながらも僕は手元のパンケーキを切り分けて、魔法でキッチンから皿とフォークを浮かせて持ってくる。

 その皿に切り分けたパンケーキを移してマーヤの前に差し出した。

 先生として尊敬してくれているらしいからサービスだ。


「くれるんですか?」


「欲しそうにしてたしな。いらないか?」


「いります!」


 マーヤは満面の笑みでフォークを持ちもぐもぐと食べ始める。


「美味しい! お城で出されたお菓子より美味しいですね!」


「当然だな。僕がこの手で調理したんだ」


「……え。先生が作ったんですか?」


「そうだが?」


「こんな可愛く飾ってあるのに?」


「僕の美的センスは素晴らしいだろう?」


「確かに素晴らしいです! 先生が料理とかお菓子を作れるのもびっくりですけど」


 昔、母と一緒に作ったからな。

 ある程度の料理は出来る。

 いろんなことを褒めてくれたから、僕はいろんなことに挑戦した。

 その中でも魔法はとっても魅力的で、いつの間にか魔法ばかりを考えるようになったんだ。

 昔のことを思い出していたら、両親がお前に魔法使いは向いてないと怒鳴られたことも思い出してしまった。

 その才能を奪ったのは父さんと母さんなのに。

 僕が天才過ぎたからこうなったんだよな。

 天才も苦労するよ。

 はあ、とため息を吐く。

 料理なんて出来ても別に珍しいことじゃないさ。


「簡単なものなら誰でも作れる。そうだろ」


「そうですけどこんなに美味しいんですもん。この世界でこのレベルはやばいです」


 この世界でこのレベルという言葉が少し引っかかるけど、無視して会話を続ける。


「じゃあ僕の育った国が料理に関して凄いんじゃないの?」


「そうなんですか?」


「いや知らないけど」


 いつも家の中か庭で母さんの手伝いしたり、魔法を使ってたりしてたから生まれた国の近所とか街とかはよく知らない。

 

「ニファンの生まれた国って確かスカイゲ帝国だったよな?」


 エリックが確認するように聞くので僕は頷いた。


「えっ! 先生ってあの飯マズ国の出身ですか!? どうしてこんな美味しいもの作れるんですか!」


 あの国の飯ってマズイの?

 じゃあ全くわからないな。

 母さんが頑張って美味しいもの食べさせてくれたってことなのかも。


「ニファンの料理は母親の手伝いで身についたんだよな。本人は両親を恨んでるから言いたくないみたいだが」


 ディゼオが代わりに答えてた。

 母のことを話さないで言いたかったのに。

 気分が悪くなったので口一杯にパンケーキを詰めこんだ。

 もうなんも喋らないから。


「先生って絶対ポーカーとか苦手ですよね」


 マーヤがうるさいけど、口の中のパンケーキのせいでなにも言い返せなかった。

次話は3月7日投稿予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ