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海の破片

「ハアッ!」


 ダイザム団長は駆ける勢いをそのままに、剣先を僕のほうに突き出してきた。

 狙いは……脚かな。

 避けられるので避けておく。

 僕を殺したら盗まれた魔宝石の在り処がわからなくなるのだから、脚を傷つけて逃亡を妨げるのはいい手段だ。

 本当は魔法道具の結界に頼りたいんだけど、嫌な予感がするんだよね。

 僕の服に搭載された自動発動結界は全方向を守れる球体型。

 マーヤみたいな規格外を除けばある程度は守れる。

 ただ自動発動の弱点として早すぎる攻撃は防げないことがある。

 そういう場合は手動のほうがいい。

 ほかに弱点といえば、魔法妨害の陣があると発動出来ないのと、規格外過ぎる攻撃。あとは自分の周りしか結界を張れないというだけだろう。


 ダイザム団長の攻撃を避けながら考える。

 警戒し過ぎてるだけ、だろうか?

 ……実験してみよう。


「マジックシールド」


 僕の中の少ない魔力を使って、ダイザム団長と僕の間に魔力の盾を作り出す。

 一般的な魔法だ。

 僕がちょっと改造して防御力がかなり高くなってはいるから簡単には破れないけど。

 さあ、どうだ?


「こんなもの無意味だ!」


 ダイザム団長がマジックシールドを縦に切り裂いた。

 その瞬間、見た。

 見逃してしまいそうな短い時間だった。

 魔法か何かで隠蔽されていた刀身に描かれる古代の魔法文字。

 その付け根にあった大きく美しい青い魔宝石を。

 声を出して笑いそうになる。

 こんな剣、見たことない。

 魔法を切る?

 しかも魔法陣と魔宝石を隠す魔法文字も一緒に剣に刻んで?

 魔法を切るときに隠蔽は解けるけど、それでもあの狭い刀身のなかにこんな高度な陣を描けるなんて!

 なんて書いてあるかまではわからなかった。

 古代魔法文字も一応暗記してあるけど、まだ解読出来ていない文字もあるし、あの一瞬では幾ら何でも読めない。

 それにあの刀身の付け根にあった魔宝石。

 海の一部のように青かった。

 展示されてある青い魔宝石にそっくりだ。

 もしかして、展示されている魔宝石はフェイクで、剣に搭載されているほうが海の破片じゃないか?

 身内にも偽物を使うとは話してなかったとかそういう感じ?

 ありえなくはない。

 でも確証もない。

 ……鎌をかけるか。


「なるほど。海の破片はそこにありましたか」


 そう言ってみるとダイザム団長は明らかに顔を強張らせた。


「なんのことだ?」


「ダイザム団長は良いものをお持ちで。古代の魔法文字が素敵でしたよ」


「……今の一瞬で見たのか?」


 僕が頷いてみせるとダイザム団長は苦い顔をして剣の柄を強く握り直す。


「欲しいので頂戴いたしますね」


 正直、剣に搭載されてる魔宝石は、僕の魔宝石である可能性はほとんどないので、宝石自体はいらない。

 むしろ古代文字の描かれた剣のほうが欲しい。


「クソッ! 皆のもの、本物の海の破片はこの剣だ! 全力で守りきれ!」


 ダイザム団長が剣の隠蔽を解除して、剣先を天井へ向ける。

 やはり本物の海の破片は剣のほうか。

 ならば僕の魔宝石である可能性の高い、偽物の魔宝石を最優先で盗む。

 出来れば剣も研究素材として欲しいが、魔法を切る剣と魔法では相性が悪い。

 どういう理屈で魔法を切ったのか。

 剣聖の如く魔力の通路みたいなのを切ってやった! とか普通は剣で出来ないことをやったわけではないと思う。

 そんなの剣聖にしかできない。

 ならば魔法妨害の陣のようなものか?

 でもあれはここの床のように魔法陣が複雑で、刀身に描けるほど小型化はかなりの難易度だ。

 古代魔法が使われていた時代なら可能だったのだろうか?

 他にも床の魔法妨害の陣が発動しているのに使えたというのも不思議だ。

 調べたい。

 もの凄く調べたい!

 偽物を盗んで余裕があれば、ぜひとも剣も欲しい。

 剣に注目がいってる隙にさっさと偽物盗んで剣に集中しよう。

 床を思いっきり蹴り、剣を狙っていると見せかけて、ダイザム団長の後方にある偽物の魔宝石のところまで走る。

 魔宝石の入っているケースを壊すために体内にある魔力を操作し、手のひらの上に魔法陣を展開した。

 青白く輝く陣が空中に素早く描かれる。

 今回は確実に魔法を使いたいので、失敗の危険性がある無詠唱はやらない。

 でも急いではいるので短縮はする。

 魔法陣に描かれた魔法発動の呪文を僕は口にした。


「ショックウェーブ!」


 手のひらの魔法陣から衝撃波が放たれる。

 ケースが割れる程度の威力しかないから、人は転ぶくらいだ。

 ケースの破片を気にせずに僕は魔宝石へ手を伸ばす。

 よし、掴んだ!

 あとはポケットに入れて持ちされば――。

 そう思い手を魔宝石を手にそのまま腕を引こうとしたが、僕の手の上からがっしりと別の大きな手が乗せられた。


「怪盗サーチを捕まえた!」


 その手の持ち主を見上げてみる。

 ……オーガのような顔をした冒険者のおっさんだった。

 こんな時に邪魔するのか?

 もう仕方ない。

 先に確認を済ませてしまおう。

 そうすれば盗む必要もなくなるかもしれない。


「精霊よ、お前との契約を破棄しよう」


 僕の魔力を魔宝石へと流しながら出来るだけ声を控え早口で言った。

 魔宝石に宿る精霊の反応は、テメェ誰だ? 俺は誰とも契約してねぇぞゴラァ、みたいな感じか。

 僕の魔宝石じゃないのなら、この偽物はいらない。

 身体強化の魔法道具の威力を腕に集中させて、力の強いオーガ面のおっさんの手を振り払う。

 そして魔宝石に背を向け、僕に向かってくる沢山の冒険者たちから逃げながら、ダイザム団長の持っていた剣を探し始める。

 一瞬目を離した隙に、視界は冒険者たちで埋め尽くされていた。

 どこだ?

 いつも大声で怒鳴っていて、もの凄く目立つダイザム団長がどこにも見当たらない。

 外を警備していた冒険者たちも建物の中に入ってきているようで、部屋にはどんどん人が増えていく。

 ……偽物の魔宝石は僕のじゃなかったんだ。

 剣に取り付けてある魔宝石も僕の魔宝石である可能性は限りなくゼロに近い。

 確認はしておきたかったが、また後で盗みに来ることも可能だろう。

 こうなったら一旦引こう。

 盗めないのは痛いが、僕の魔宝石でないなら盗んでも盗まなくてもどちらでも同じ。

 剣のほうは気がかりだけど、こんなに人がいるんじゃあな。

 ポケットからあるものを取り出す。

 それは小さな緑の石。

 魔石と呼ばれる動物の体の中で魔力が結晶化したもので、魔宝石の劣化版と言われている。

 宿る魔力は精霊ではなく動物が生まれ持つものだが。

 魔石の使い道は基本的に魔宝石の代用だ。

 金のない人がこの安い魔石を使って道具を使うことが多い。

 僕の場合は別の目的で使っている。

 魔石に魔法を封じ込めて使うという方法だ。

 使い捨てで無差別に魔法が放たれるから緊急時しか使わない、というか使いたくない。

 でもこの人数相手に逃げるのはこの前の挑戦状のときみたいに人間ドミノ倒しが起こらないと無理だ。

 二度もそんなこと起こらないだろうけど。

 だからこの魔石を使わざるをえない。

 魔石を握りしめる。

 さて。準備をしよう。

 僕の体内にある魔力をありったけ使って僕自身に魔法をかける。

 耐性の魔法だ。

 耐性系の魔法は完璧ではないし、僕の少ない魔力を使ってるから気休め程度だけど、これで持ってほしい。

 僕は部屋の真ん中近くまで来ると魔石を更に強く握りしめる。

 ヒビが入ったのを確認してから魔石に込めておいた魔法を使った。


「スリープ!」


 魔石から白い魔力の煙が湧き出てきたので急いで床に投げ捨てる。

 煙にかかりすぎたのか瞼が重たくなってきた。

 スリープの魔法の耐性を上げて、更に服に搭載されてる魔法を弾く結界も張ってあるけど、スリープの魔法は空気に溶け込むから、空気を吸う生き物にとっては避けようのない魔法だ。

 空気を通す結界系の魔法も気休め程度。

 それに魔法だから物理は効かない。

 つまりハンカチで口と鼻を塞いでも意味ないから、魔法で耐性をあげるか、気力で持ち堪えるか、魔法道具に頼るかするのが一般的だ。

 まあ普通のスリープはこんな広範囲で強力なものではないんだけどさ。

 僕が改良したんだけど、そのせいで僕にも危害が及ぶ。

 あー、クッソ眠い。

 出来れば冒険者たちが寝てる間に魔宝石と剣を盗みたかったけど、これは探している間に僕も寝てしまうな。

 さっさとここから出よう。

 欠伸を噛み殺しながら身体強化の魔法道具の威力を強め、冒険者たちの追跡を振り切って転移の魔法道具があるボロい家まで全速力で向かった。

次話は2月28日投稿予定です

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