怪盗サーチの夜のお仕事2
予告時間となったので僕は堂々と美術館まで歩いていく。
いち早く僕に気がついたファンの皆が、黄色い悲鳴をあげて僕に手を振ってくるので、笑顔で手を振り返して答えてあげた。
ファンの皆のせいで当然の如く警備の冒険者たちに見つかるが。
でも警備の彼らは、にっこにこで優雅に手を振りながら歩く僕を二度見して混乱している。
怪盗サーチファンの仮装か何かと思ったのだろうか?
まあこんな堂々と人前に現れるなど予想外であるのだろう。
泥棒はコソコソするものだし。
でも僕は目立つのが大好きなものでね。
こうも注目されると派手な魔法を使ってもっと目立ちたくなるんだけど、今は怪盗サーチなのでそんなことできない。
怪盗サーチのキャラは優雅で紳士的だ。
それを崩してはならない。
でないと僕の癖が出てしまったり、僕の性格に繋がるようなことになってしまいそうだし。
いやこの堂々とした行動も僕の性格が出てしまっているからどうしようもない気がするけど。
「怪盗サーチ!」
冒険者が僕の前に立ちはだかり剣を向けてくる。
そんななまくらな剣、僕のドラゴン製のスーツ相手に意味ないと思うんだけど。
叩かれるのはまあまあ痛いから意味ないとまではいかないか。
それも魔法道具となっているシャツに描いた魔法陣の回復魔法で問題なく治るんだけど。
「どうもこんばんは。ご機嫌いかがですか?」
とりあえず紳士的に挨拶からしてみた。
冒険者は挨拶も返さず剣を振るってくる。
僕のネクタイとズボンのベルトに搭載されている魔法道具が自動で結界を張って僕への攻撃を防いだ。
スーツの前に結界をどうにかしないといけなかったね。
この冒険者は相手にしなくても問題ないだろう。
ジャケットの身体強化の魔法道具を発動させて冒険者をひょいと飛び越え美術館の入り口へ向かう。
さて。今回はどんな罠を仕掛けてくるのだろう?
前回みたいに魔法関連の罠であってほしいな。
前に挑戦状を受けたときは人の数でゴリ押しされて焦った。
盗めないかもと思って心に殺意が宿ったし、人を殺す寸前で冒険者組合側が大ポカやらかしたから、誰も殺さずに盗めたけどさ。
今回は沢山の人が警備員として導入されているという情報を手に入れている。
そのため人の数のゴリ押しのことが頭から離れない。
ゴリ押しといってもただ部屋に人間を敷き詰めてケースの上にも人が乗っていてって感じなんだけど。
それは僕にとっては絶望的だ。
一番やめてほしい布陣だと思う。
盗みだすのも苦労するし、捕まるリスクも高まるし、殺す場合は密集してるせいで犠牲者が増えるし、良いことなんて一つもない。
人の命より宝石が大切だっていうなら僕に盗ませないよう邪魔をしてもいいんだけど、きっとそうではないだろう。
まあ僕の目線で言えば僕の魔宝石は全ての生き物の命より大切なわけだが。
客観的にみれば、それは馬鹿らしいことなんだろう。
僕が興味ない剣や槍などを命懸けで頑張ってる人がいたら、なんでそんな頑張るわけ? と思うからね。
それでも僕には魔法しかないし、それを極めると自分に誓っているから魔宝石を取り戻したいんだ。
冒険者たちが僕に武器を向けて攻撃してくる。
魔法道具のお陰で傷一つ受けない。
でもついて来られると困るので出来るだけ動けないように気絶させる。
何度か魔法使いたちが遠くから攻撃してきた。
邪魔なので僕も攻撃を返しておいた。
魔力温存のためびしょ濡れになる程度の弱い魔法だけど。
やっとのことで魔宝石の展示された部屋にやって来れた。
広い部屋の中には、ここに来るまでの道中に遭遇した冒険者と同じくらいの人数が揃っている。
前のゴリ押し作戦の時より人数は少ないからやりやすそうだ。
「来たな! 怪盗サーチ!」
いつものいるダイザム団長が僕を待ち構えていた。
「ダイザム団長。ご機嫌よう」
適当に貴族の真似して胸に手を当て軽くお辞儀した。
本当は頭を下げるのは嫌なんだけど、サーチはこういうキャラだ。
魔法関係で天才な僕が今の今まで正体がバレていないのは僕に繋がるような性格や癖を出していないから。
昼間の僕ならこんなに下手に出ることはありえないし、僕を知っている人が僕とサーチの関連を疑うことはほとんどないだろう。
それくらいの態度はとっているし。
僕を知らない人なら僕とサーチの魔法と魔法道具の感じというか、使い方がなんとなく似てるとか言われそうだけど、サーチしか使わない魔法、僕しか使わない魔法とかもあるから同一人物だと決めつけるにはなかなか難しい。
それに五の魔法使いが罪を犯すというのはありえないという常識みたいなところもあるし、僕に疑いが向けられることは本当に少ない。
五の魔法使いは賢者と言われることもあるくらい凄い人だから悪いことをするはずがないと考えられている。
それほどまでに僕と怪盗サーチという存在は別物ということだ。
まあ僕が僕であることは何も変わらないけど。
「貴様が魔法陣を書き換えることが出来るというのは判明している!」
ん?
だから何? とは思ったけどそれを言うってことは魔法陣を仕掛けてあるということだろうか?
女神の瞳を盗んだ時の罠を思い出して床を見る。
魔法妨害の陣。
前回と同じ罠かよ!
でもその魔法陣は前回と少しだけ違った。
簡単には書き換えられないように暗号化されているのだ。
「ダイザム団長! 魔法妨害の陣の発動に成功しました!」
……でも書き換えるなんて造作もないことだ。
この暗号は使い古されていて僕ならすぐ読み解ける。
魔法文字を鏡に映したように反対になっているだけだ。
僕は魔法文字を辞書なしで読み解けるし、どの方向からでも読めるように魔法文字を眺め続けていたからこんなの暗号にもならない。
ほとんどの魔法使いが魔法書を買って魔法を使うから魔法文字なんて読めないし、例え魔法文字を読めたとしても、辞書を暗記なんてほとんどの人がしないだろう。
だからこんな馬鹿な真似をする。
僕はポケットから筆を取り出す。
この筆も魔法道具で勝手に魔物の血液が染み込むようにしてあるんだ。
これならわざわざ血液に筆を浸さなくても、いつでも描けるという優れたものだ。
足元の魔法陣をダイザム団長の目の前で描き換えてあげた。
暗号云々を除いても、前回描き換えたときより難易度の高い描き換えをしてみた。
魔法陣に色を識別させ、服が金ぴかのやつだけ魔法を扱えるようにしたのだ。
魔法陣に目なんてないから、その機能を追加してやれば出来るけど、まあまあ難しい技術だろう。
「描き換えることが出来ると知っていながら、どうして魔法陣を使うのですか?」
ドヤ顔でそういってから、松明サイズの火の玉を手のひらの上に出現させる。
目の前で堂々と魔法陣描き換えを見せたので、ダイザム団長もほかの冒険者もすごく驚いてくれる。
ふふふ。僕の凄さはこんなものではない。
もっと見せてあげたいけど、それだと僕の正体がバレそうだからな。
我慢するしかない。
でも自慢するくらいならいいだろう。
僕は両手を広げ、僕を中心にぐるぐると火の玉を回し、ゆっくりと足を進めながらダイザム団長に微笑みかける。
「私に魔法は通用しない。貴方ならとっくに知っていたことでしょう?」
「この、化け物めっ!」
ダイザム団長が僕をキッと睨みつけて剣を構えた。
というか、人の才能と努力の成果を化け物呼ばわりって酷い。
それに魔法使い相手に剣ってかなり不利だよ?
相当な腕がなければ遠くから魔法で攻撃されて終わりだ。
僕は接近戦でもある程度戦えるから余計に意味ない。
その剣に魔法が付与されてるとか、何か特別な剣だとかなら別だが。
見た感じ魔法が付与されてる感じはない。
でも剣にしては多いくらいの魔力が宿ってるんだよなぁ。
なんだろう。
今までダイザム団長が持っていた剣は一般的な魔力しか宿っていなかったのに。
ダイザム団長が小さく口を動かした。
小さくて聞き取れないが声も聞こえる。
なんだ?
歩みを止めてじっくりと団長と剣を見つめる。
さっきよりダイザム団長の体内の魔力が減った、か?
じゃあ減った魔力はどこへ消えた?
魔法を使った……というにはその痕跡がなさすぎる。
「怪盗サーチ! 覚悟!」
ダイザム団長が声をあげ、僕に向かって駆けてくる。
もっと観察していたかったがそうもいかないか。
何があっても対処出来るように、身体強化の魔法道具は発動しておこう。
次話は2月21日投稿予定です




