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最終確認と冒険者組合

 ヒロマインツ王国のウタールという街の真ん中に引かれた大通りは、朝から客引きの声と人の行き来でごちゃごちゃとしたとても活気がある通りであり、王都にも引きけをとらない賑やかさに溢れている。

 そんな大通りの脇道に入って行くと賑やかさは突如として消え去り暗く薄汚い貧民街が広がっていた。

 特に貧困が激しく犯罪も日常茶飯事に行わているこの地区には、犯罪者や闇ギルドの者がよく現れ、貧しい人々を攫い売りさばいていると噂されているのだ。

 そんな場所のど真ん中に今にも崩れそうな小さな家がひとつ。

 そこが僕の隠れ家である。

 こんなところに転移の魔法道具やら防犯装置やらと物凄い魔法技術の塊があるなんて誰も思わないだろう。

 まあ僕も犯罪者だし、犯罪だらけのこの場所はとても都合がいいんだけど。

 とりあえずネックレス型の認識阻害の魔法道具を起動させる。

 これで影が薄くなり、例え僕の顔を見てもその人は僕がどんな顔をしていたのか思い出せないのだ。

 同じものをディゼオにも渡してあるからアルファード王国の有名な学園の学園長とバレることはないだろう。


「じゃあ予告状を届けてくる」


 ディゼオが手紙を親指と人差し指で挟みひらひらと揺らしながら言っている。

 普段は一週間前くらいに予告状を届けるんだけど、今回は冒険者組合からの挑戦だ。

 盗む当日でもまあいいんじゃない?

 相手は準備万端だろうし。


「ニファンは美術館周辺の土地勘をある程度身につけておけよ」


「りょーかい」


 一応何度か美術館周辺は探索したし、ある程度道は覚えたけど、まあ再確認ってことで。

 この前来た時にはなかったものがあったり、あったものがなかったりするかもしれない。

 逃走経路は何個用意してあっても困ることはないし。


「空が赤くなるころに美術館近くの噴水広場に集合だ」


「それまで適当に過ごしとくよ」


「警備が強化されてる。油断はするな」


「わかってるって」


 ディゼオと別れ、海の破片が展示される美術館がある隣の街まで相乗りの馬車に乗って行く。

 本当はもっと乗り心地のいい馬車に乗りたいが、それだと目立つので我慢だ。

 馬車で行けばすぐだし、数時間我慢すればいい。



〜〜〜〜



 安い相乗りの馬車は、最悪の乗り心地だった。

 椅子が硬いのに大きく揺れるから尻が痛いし、その揺れで気分が悪くなるし……。

 魔法を使えばなんとかなるが魔力を消耗したくはない。

 使っても時間が経てば回復はするけど、ここは美術館の側。

 怪盗サーチを警戒しているのに安易に魔力を使って逃げれないとか嫌だし。

 もしかしたら今バレるかもしれないのだから、すぐに逃げれるようにしておくのは当然だ。

 まあ僕の魔法道具は素晴らしいからそう簡単にはバレはしないけど、念のためな。


 体調がある程度回復すると、観光がてらこのメダンラムの街の美術館の周りをうろうろする。

 普段は貴族の馬車がよく止まっているはずの美術館は、人相の悪い冒険者たちで溢れていた。

 彼らは冒険者組合怪盗サーチ対策部隊所属の冒険者たちだろう。

 普段とは違う美術館の様子を面白がっている野次馬もいたり、怪盗サーチファンだとかいう人が警備の人と言い争っていたりと美術館の周りは騒がしい。

 というかファンは大丈夫か?

 下手したら捕まらないか?

 まあそうなったら自業自得だな。

 僕には関係ない。

 のろのろ歩いていたけど、美術館の周りをうろつきすぎても変なので、別の場所へ向かう。

 冒険者っぽく組合のメダンラム支部に立ち寄ってみよう。

 運が良かったら何か情報を聞けるかもしれないし。


 冒険者組合の支部。

 そこは四階建てでこの辺ではなかなか高い建築物だ。

 立派ではあるが所々破壊されていたり、落書きをされていたりしている。

 開け放たれた扉……というより壊された扉の間を潜り建物の中に入る。


 ガハハハという下品な笑い声と冒険者同士の醜い怒鳴り声。

 自慢げに魔物の角を見せびらかす者。

 馬鹿デカいいびきをかいている者。

 建物の中はうるさいを通り越して騒音の溢れる世界が広がっていた。

 外からは何も聞こえなかったのに、これは酷いな。

 この建物には騒音を外に漏らさず遮断する質のよい魔法道具が使われているようだ。

 なかなか興味深い。


「見ない顔だな。新人か?」


 のしのしとオーガのような恐ろしい顔をした筋肉の塊が僕の前にやってきた。

 オーガのようなそのおっさんは不気味な笑みを浮かべて僕を見下している。

 僕も背が高いほうではあるけど、この冒険者は僕よりさらに頭二つ分くらい背が高い。

 夜の森にいたら本当に魔物と間違えてしまいそうなほどだ。

 巨人の血でも引いてるのだろうか?


「おい! バーソン! 新人を怖がらせてどうする!」


 細身の赤髪の男がオーガみたいなおっさんに負けず劣らず恐ろしい顔で怒っていた。

 どっちもどっちな気がするが……。


「こ、怖くねーからな? 見知らぬ兄ちゃん」


 バーソンと呼ばれていたおっさんが引き攣った笑みを浮かべ俺に手を振っている。

 とりあえず振り返してやった。

 すると嬉しそ……獲物を見つけた獣みたいな殺気立った笑みを浮かべて高速で僕に手を振り返すおっさん。

 僕の感性が正しければ、彼は嬉しいのだと思う。

 見た目は恐ろしいが中身は優しい人なのだろう。

 ふむ。少し暇つぶしでもしようか。


「おっさんたち恐ろしい顔してるね。で、なんか用?」


 のほほんと思ったことを口にしてみると、二人の強面はぽかんと口を開けて僕を見つめる。

 彼らの恐ろしい顔もそれじゃあただの変顔だ。

 おっさんさんはハッとしたように首を横に振ったあと、恐る恐るという感じで僕に声をかけてくる。


「もしかして兄ちゃんは熟練の冒険者だったりするか?」


「さーて、どうでしょう?」


 冒険者組合に名前を登録してあるし、冒険者と名乗ってもいい。

 しかし組合からの指名依頼を突っぱねたり無視したりしてるので冒険者としては気が向いたとき以外働いていない。

 指名依頼を出されるから熟練と言ってもいいけど、ほとんど冒険者として動いてないからそう名乗っていいものか……。

 飽くまで僕は魔法使いだし。


「殆どの人は俺たちを見ると、その、怖がるんだが……」


 おっさんが指と指を突き合わせてもじもじと恥じらうようにいう。


「まあおっさんは魔物みたいな顔してるよね」


「ま、魔物……?」


「ああ、オーガにそっくりだ」


「そ、そこまではっきり言われたのは初めてだ……」


 しばらく話しているとおっさんと赤髪の男が夕飯をご馳走してくれると言った。

 暴言を吐いた自覚があるんだけど、その暴言をおっさんたちは気に入ってしまったらしい。

 変な人たちである。

 どうせ今日だけの付き合いだ。

 そして運が良いことにおっさんたちは怪盗サーチ対策部隊の一員らしい。

 情報を引き出せるかもしれない。

 でもサーチ関連の仕事があるせいでまだ空の色も変わってないのに夕飯とか大変だなぁ。

 僕も夜は忙しいし好都合ではあるんだが。


「兄ちゃんは怪盗サーチファンか何かなのか?」


 組合の建物の受付の横で営業している酒場で、おっさんと赤髪の男と一緒に硬いステーキを食べている。

 もぐもぐと口を動かしながらおっさんの問いにどう答えようか迷っていると、おっさんが何故か慌てたように口を開く。


「別にファンだからどうこうとかじゃないんだ! 確かに俺たちはサーチを捕まえるために働いてるが、別に嫌っているわけじゃない。むしろ好いている。サーチは人を殺さずに宝石だけを盗んでいくから命の危険はない仕事だしな!」


 おっさんは捲し立てるように言ったあと、冷たいお茶をぐいっと一気に飲み干した。

 命の危険はない仕事、か。

 それは買い被りだな。

 宝石がお前たちのせいで手に入らなかったら、俺は殺してでも奪うことになるだろう。

 お前たちが低脳だったお陰で、まだ殺してないってだけだ。

 好き好んで殺したいわけじゃないから一応気をつけてはいるけど、奪うことが難しいなら躊躇なく蹂躙すると決めている。


「だから俺たちを警戒してファンだって隠さなくても大丈夫なんだぜ」


 おっさんが不気味な笑顔を浮かべて言った。

 本人は優しく微笑んでいるつもりなんだと思う。

 こういう人は殺したくない。

 奪い奪われの今の関係が一番いいと思う。

 それはともかく、このおっさんの優しい言葉に甘えて怪盗サーチのファンってことにしておこうか。


「僕は怪盗サーチをこの目で見てみたくて隣の街からやってきたんだ」


 僕の言葉を聞いたおっさんは嬉しいそうに隣の赤髪の男の背中をバシバシ叩いた。

 赤髪の男は非常に迷惑そうに眉間に皺を寄せているが。


「やっぱりファンだったんだな! 対策部隊の俺からみてもサーチはスゲーんだぜ。裏で時期魔法王は彼なんじゃないかって言われてるほどでな!」


 おっさんは自分のことのように胸を張ってサーチのことを語る。

 なるほど。

 正体を隠していても、僕が時期魔法王だとわかる者にはわかってしまうのか。

 嬉しくて笑いそうになっていると、赤髪の男が苦笑いしながら諭すようにおっさんに話す。


「犯罪者が魔法王になれるわけねぇだろって」


 赤髪の男の言い分もわかる。

 素晴らしい魔法使いを決める大会に出なければならないから、正体を隠して出るのはなかなか難しいし。


「でも絨毯に書かれた描かれた巨大な魔法陣を一目で見破り、さらに一瞬で魔法陣の効果を描き変えたんだぞ! 普通の魔法使いには不可能だ!」


「その技術は五の魔法使いにも匹敵するんだっけか? だったら五の魔法使いになりゃあいいじゃねぇか」


「それが出来ないわけがあんだよ! ……多分」


 五の魔法使いが怪盗って発想は出来ないよね。

 五の魔法使いが依頼受ければそれだけで大金が手に入るし、怪盗なんてやる意味が見当たらないだろう。

 金があっても欲しいものが手に入らなかったから怪盗やってるんだけどさ。


「兄ちゃんはどう思う?」


 おっさんがいう。

 ここは素直になろう。


「怪盗サーチは魔法王になるだろう。それだけ凄い魔法使いだと確信している」


「だよな!」


 当然だ。

 僕は世界で一番素晴らしい魔法使いなのだから。

 しばらくサーチ関連の話をしていると悲しいことを耳にした。

 今日は海の破片の偽物は用意されていないという情報だ。

 一応海の破片が僕の魔宝石ではないと確認するために盗むけど、その可能性は限りなくゼロに近いという調べがついているから偽物に期待してたんだけどなぁ。

 やる気が失せる一方であるが、まあ頑張ろうか。

 盗んだ直後に僕の魔宝石かどうかの確認を済ませてから捨ててもいいし。

 そんな暇がなかったら持って帰るか。


 食事を終えておっさんと赤髪の男と別れる。

 なかなか有意義な時間だったな。

 丁度空の色が変わり始めたので、美術館近くの噴水広場に向かうことにした。

次話は2月7日投稿予定です

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