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いざヒロマインツ王国へ

 部屋に案内してお茶と菓子を食べながら話をする。


「とりあえず聞くがヒロマインツ王国に転移の魔法道具は置いてあるか?」


 ディゼオが確認するように聞いてきた。


「僕を誰だと思っている? 置いてあるに決まってるだろう」


「それなら今回は使おう。……あんまり使いたくないが」


 ディゼオは転移するときのぐるぐるする感じが嫌いなんだ。

 場所が近くなら女神の瞳を取った時みたいに馬車で行くけど、今回は少し遠くの国だから仕方ない。


「あと魔宝石を軽く調べた。名前は海の破片。青く美しい海の一部のような魔宝石だから海の破片と命名されている。とある貴族の代々受け継がれた家宝らしいから、恐らくお前の魔宝石じゃないだろう」


「そうか。でも可能性はゼロではないんだろう?」


「その貴族が本当に代々受け継いできたのか。途中で売ったり、それを取り戻すような変な真似をしていないならゼロだが、その辺は調べる」


「望みが薄いなら行きたくないなぁ」


「そういうわけにはいかない。冒険者組合がまた偽物の魔宝石を用意してくれるかもしれないだろう? 偽物の魔宝石がお前の求める魔宝石という可能性を捨てきれない」


「わかってるけどさ」


「それにお前の目的を敵に知らせるわけにはいかない。お前の両親に入れ知恵したやついたとしたら? そいつがサーチの目的を知ってしまえば、サーチの正体がお前だとバレる危険性が高まるぞ」


「あのクソ野郎どもに入れ知恵する意味がわからない。どんなに調べても全く尻尾も掴めないしなんなの? 本当にそんなやついるわけ?」


「……いないと楽観視しても良いことはないぞ」


「そうだけどさ」


「お前の気持ちもわからなくはない」


 本当にいるかわからないものを警戒するのは結構疲れるものだ。

 本当に入れ知恵したやつがいるなら、そいつに僕の力を証明して僕に関わったことを心の底から後悔させてから、僕の天才的な魔法の力で絶望感を与え殺してやりたい。

 ついでにあのクソ野郎どもも一緒に。


「だが敵の尻尾は掴めたかもしれん」


「マジ?」


「我が学園の生徒が、強制的に精霊と人間を契約させる魔法にかかりかけた。魔法を使ったのはとある貴族の生徒だ。その生徒は魔法組織デジメーションとやらに(そそのか)されたらしい」


「……つまりその魔法組織デジメーションが僕の大切なものを奪ったのか?」


「可能性はある。まだそれだけしかわからないからなんともいないが。ニファンが打ち明けてくれてからずっと探し続けてやっと手に入れた情報だな」


「ずっと探しているのにこれだけか……」


「それだけ闇の深い組織ということだ」


 そうなんだろうな。

 どのくらいの規模の組織で、何が目的なのか。

 組織の存在を掴めたのは大きいが、何年も探してそれだけしかわからないというのは悲しい。

 喜びは大きいけど、やっとか、という思いのほうが大きい。

 深くため息をついてしまう。

 ちらりとディゼオをみると、少し俯き加減でちらちらと僕を見ながらなにか話したそうにしていた。

 僕はディゼオに話を促すように見つめていると、ディゼオはおずおずと話を始める。


「ニファン、今ならまだ引き返せるぞ。魔宝石も魔法王の座も復讐も諦めて、今の教師の仕事と五の魔法使いという地位で満足し、魔法の研究に没頭すればいい。怪盗サーチのことなんて忘れて、今の生活で満足してしまえ。変な組織はまだサーチを、お前を敵視してないんだ」


 あー。そういうこと。


「絶対嫌だね。僕は世界一の魔法使いだし、全ての人にそうだと認めさせたい。僕はどこの誰よりも魔法を知っているし、魔法を使えるし、愛している。それだけは譲れない」


「……全く、魔法使いとしては素晴らしいが、人としてはあまり褒められたものではないな」


 苦笑いして菓子をポリポリ食べるディゼオ。

 そんな言い草でもディゼオが心配してくれるのはわかる。

 僕は人の道を踏み外しているのだろう。

 それなら僕は、人の道ではなく僕の手で僕の道を切り開くまでなのだが。


「ディゼオこそ、僕の手伝いなんてしなくていいんだぞ? 僕は一人でも問題ない」


「歳は離れていてもお前は友だ。友が辛く苦しい道を行くなら、俺は助けになりたい。それにお前には劣っていたがお前の教師でもあったんだ。教え子は助けたくなるものなんだよ。それが例え、間違った助け方だとしてもな」


「ディゼオの判断は正しい。僕はいずれ魔法王となる男だ。その男の友ということを誇ればいい」


「ある意味では誇る。お前の一途さには誰も勝てはしない。……性格は誇れないがな」


「一言多いぞ」


「それでもついて行きたくなる魅力がお前にはあるんだ。ニファンは魔法関連のことになると本当に素晴らしいものがあるからな。お前の授業を受けた生徒からの評判もいい。学園一と言えるくらいに」


「決まってる。僕は誰よりも素晴らしい存在だ」


「そういう自惚れたような発言を自重すればもっと最高なんだが」


 自重してくれと言われても僕は僕だ。

 自由に生きるし、自由に振る舞うさ。


「まっ、とりあえず謎の組織と対立することになりそうだな。それ関連でも情報を集めることになるだろう」


 ディゼオが苦笑いしながらいう。


「僕も出来る限り探るけど、最優先は魔宝石だよ?」


「わかってる。たった二人で組織に挑むなんて馬鹿げている。だがお前の話が本当なら、お前の魔宝石を取り戻せばニファン一人でも問題なくなるだろう。最優先は魔宝石だ」


 雑談を挟みながら盗みについて話し合う。

 今回狙う魔宝石海の破片についても。

 まだ情報が集まっていないから引き続き調査が必要だろう。

 僕の魔宝石であることを祈りながらお茶を啜る。

 今回は望み薄だからあまり期待していないが。



〜〜〜〜



 ディゼオと手分けして情報を集め、表ではいつも通りに教師として振る舞う。


「先生、また明日!」


「ああ、また明日」


 日常の一部とかしたマーヤと別れ、家に帰ってくるとすぐに転移の魔法道具で学園地下の基地まで飛んだ。

 挑戦状に書かれた三日月の夜は今日だ。

 怪盗衣装を異空間収納の魔法道具に突っ込む。

 あとは服だ。

 いつもの白衣とブルーのシャツ、それと黒のズボンを脱いで普段は着ない種類の服を着て変装する。

 ボロい麻の服とズボンに皮鎧。籠手や肘当て膝当てなどを装備し、安物の剣を腰に差す。

 これで新米の冒険者、もしくは旅人に見えるだろう。

 あとは買っておいた冒険者っぽい持ち物を手にして転移の魔法陣の上に乗る。

 といってもまだヒロマインツ王国には行かない。

 ディゼオも一緒に行くからな。

 とりあえず家に転移してディゼオを待つ。

 庭に出て剣を持ち素振りしてみたりなどと冒険者になりきりながら時間を過ごす。

 そうしていると鈴の音が耳に届いた。

 ただの鈴の音ではない。

 昔からディゼオと決めている鈴の鳴らし方だ。

 僕は門まで行ってディゼオを招き入れる。


「うわー。ニファンのその格好似合わなっ」


「うるさい。似合う似合わないの問題じゃないだろう」


「でも似合わなすぎて目立ちそうだな」


「……それは困る」


「もっと小汚い感じになれないか? 貴族の箱入りお坊ちゃんが英雄に憧れて無謀にも冒険者やってるみたいに見えるぞ」


「そんな具体的に例えなくていい。こんななりでもある程度剣は扱えるんだぞ? 本職には負けるがクソ野郎どもが僕を魔法から引き離そうとして僕に剣を持たせたせいで少しは使えるようになっている」


 思い出しただけで苛立ってくる。

 もう何年も剣の稽古はしていないから鈍ってはいるだろうが、それでも身体強化の魔法を使えば様にはなる。

 魔法使いは後ろで頑張るものだってのに……。


「ムスッとした顔すんな。でもそんななりしてある程度戦えたらそれはそれで目立ちそうだな」


「……それも困るな」


「何日も風呂入ってないような汚さがほしい」


「無理。そんな不衛生な姿になりたくない。僕が美しくなくなるのはやだ」


「美しいっておい。……まあお前のことだしなんとかやるだろうが。頑張れ」


 魔法道具に頼れば全く問題ないだろう。

 ただ怪盗サーチ対策部隊にはサーチを捕まえるために魔法に長けた人物が結構いる。

 影を薄くする魔法道具を使っても見破られる可能性があるだろう。

 そのための変装でもあるんだが。


 ディゼオも服を着替えたあと、僕たちはヒロマインツ王国へ転移した。

次話は1月31日投稿予定です

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