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転移が出来る魔法道具

 会話していると、転移の魔法道具を起動させることに成功したのか、空中に魔力が集まり文章が浮かび上がってきた。

 これは光の魔法の応用で、薄っすらと光る四角いガラスのようなこの画面で操作するんだ。

 まあ光なので実態はないし、魔力操作が出来ないと画面の操作も出来ないのだけど。


「なんですかそれ! 近未来的でカッコいいですね! 空中ディスプレイですか?」


「ディスプレイ? なにそれ? まさか僕より先にこの機能を作ったやつがいると?」


「あー。……なんでもないです。SFの物語の中の話ですから」


「……そうか?」


 えすえふとはなんぞや。

 マーヤの故郷の言葉だろうか……。

 首を傾げながらも空中に映し出される画面に触れて、転移先を設定していく。

 これをこうしてこうやって……これでよし!


「マーヤ。この真ん中の円の中に入ってくれ」


「はい」


 僕も一緒に真ん中の円の中に入る。

 では転移開始だ。

 画面の実行ボタンを押す。

 すると床に描かれた魔法陣が優しい黄色に光り出し、周りの風景が歪む。

 ぐにゃぐにゃぐるぐると物や色が混ざって見えるので、マーヤは目を回して倒れそうになった。

 僕はそれを支えながら、画面を見つめる。

 時間としては三秒くらいのはずだけどね。

 思った通りすぐに周りの歪みが収まり、さっきの部屋にはなかった石壁が目の前に現れた。

 魔法陣の輝きが収まったのを確認し、転移の魔法道具を停止させる。


「マーヤ、ついたよ」


「うえぇ。気持ち悪いぃいい!」


「でもすぐだっただろう?」


「そうですけど、フィギュアスケートの選手の凄いジャンプを不意打ちで数秒間体験した気分です!」


 ふぃぎゅあすけーと?

 マーヤの比喩の仕方がよくわからない。

 マーヤは不思議な人だな。

 常識は知らないのに、僕が知らない何かを知っている。

 遠くの国から来たのだろうか?

 まあ僕には関係ないことか。


「変なこと言ってないで、さっさとマーヤが帰ったって報告しよう」


「はーい。エリックさんのところに行けば、なんとかなると思います」


 エリックってどこにいるんだろう。

 とりあえず石壁の部屋から出て、その先の階段を登る。

 階段には防犯対策の魔法道具があるから、それを一つひとつ解除していった。

 階段の先にある頭上の石板を押し開けると、そこは地下牢の中に繋がっている。


「お? 久しぶりじゃねぇか。ニファン」


 出てきた先の牢屋のなかにいるのは国王から終身刑を言い渡された男、アサンジ。

 彼が手を挙げて笑っている。

 この隠し部屋へ繋がる通路を知っていながら、そこから脱出しようとは思わない彼は、通路の番人のような存在だ。

 そりゃ最初のころは通路に入ろうとしてたけど、一緒に入った犯罪者仲間が僕の魔法道具に倒されてしまい、それ以降は誰も通路に入らないように彼も頑張ってくれている。

 この通路に入る可能性があるのは、囚人か兵士くらいなものだが。


「やあ、アサンジ。調子はどう?」


「調子は最高にいいぜ。押しの犯罪者くんがまーた派手にやりやがって、新聞にデカデカと取り上げられててさぁ。……ってか後ろのお嬢ちゃんはなんだ?」


「教え子のマーヤ。国王に依頼されて魔法を教えてるんだ」


「ほー。お嬢ちゃんも怪盗サーチって知ってるか?」


 アサンジが余計なことを話し出す。

 こいつは怪盗サーチが大好きで、次はなにを盗むのかとドキドキワクワクしているおっさんだ。

 牢屋のなかで新聞などから情報を探り、怪盗サーチについて調べている。

 怪盗サーチの目的とか性格とかを兵士からもらった紙に記録するくらいのファンなんだ。

 怪盗本人である僕としては、そういうことをしてるおっさんとか気持ち悪いだけなのだが。


「知ってます! 本物の怪盗ですよね! 初めて怪盗サーチの記事を見たときは鳥肌ものでしたよ!」


「だよな! 金ぴかのスーツとシルクハット! 夜でも目につく派手な装いなのに、この五年の間、誰も彼の正体を掴めずにいる!」


「神出鬼没で世界各地に予告状を送り、警備が強化されたなかでも当然のように宝石を盗んでいくんですよね!」


「そうだ! しかもただの宝石じゃない。大きく美しい魔宝石だけを盗んでいるんだ!」


「そうなんですか!? それは知りませんでしたね……」


「怪盗サーチのことは俺が一番よく知ってる! 一目でいいから本物を見てみたいというのが俺の願いだ!」


「私も本物を見てみたいです! 出来れば、宝石をなにに使ってるのかとか聞きたいですね」


「それは俺もだ。昔の仲間も怪盗サーチが盗んだ魔宝石はどこの闇市でも売られていないと言っていた。魔法道具に使っているのか、ただ集めているだけなのか……」


 その答えは、盗んだけど目的の魔宝石じゃなかった。でも持ち主に返すのも面倒だし、基地兼倉庫の学園の地下に放り込んである、というものだ。

 何個か怪盗用の魔法道具の核として使っているが、盗んだもののほとんどは放置されている。

 正直、僕が怪盗と知られないのなら捨ててもいいし、売ってもいい。

 でもきっとバレるからなぁ。

 バレる可能性は出来る限り減らしておきたい。


「というかマーヤ。どっかの国のスパイだったこいつと意気投合してないで、さっさとエリック探しに行くぞ」


「す、スパイ!?」


 アサンジは情報を話す代わりに死刑にされずに済んだ男なんだ。

 まあ母国を簡単に裏切る男だから誰からも信用はされていないが。


「エリック王子のところ行くのか? 今なら多分、自室にいるはずだぞ」


 なぜアサンジがそれを知っている?

 さっきも昔の仲間がどうのと言っていたし、隠れてスパイ活動を続けているんじゃないか?

 僕には関係ないけど。

 ……いや、関係あるか。

 こいつは怪盗サーチのファンだし、僕の正体にたどり着く可能性がある。

 少し注意はしておくか。

 最悪バレても生きづらくなるだけだ。

 出来る限り隠しはするが。


「アサンジ。僕だから見逃すけどそういう発言はするもんじゃないよ」


「いいじゃねぇか。お前なんだし。お嬢ちゃんも俺のことは秘密にしてくれるだろ?」


「怪盗サーチのこと教えてくれるなら秘密にしますよ?」


「いいぜ。怪盗サーチファンが増えるのは歓迎だ」


 全くこいつは……。

 アサンジは隙だらけのように見えるが、下手に弱味を握られると色々とつけ込まれる。

 僕が秘密の通路から出てきたときも弱味を握ろうとしてきたし。

 まあ僕の場合は、どうぞ通路に入って下さい。この通路のことを言いふらして下さい。って感じで余裕ぶっこいたこと言ったからな。

 それで捕まった仲間と一緒に通路を調査しようとして、僕の魔法道具にやられまくったって感じ。

 そのおかげでアサンジは若干僕のことを恐れているし、僕に何かしようとしてはこないだろう。

 ……マーヤにはあとで忠告はしておこう。




 牢屋の鍵を合鍵で開けて牢屋から通路に出る。

 アサンジが逃げないように鍵を閉めなおし、地上への出口へ向かう。

 たまに囚人が話しかけてくるが、適当にあしらった。

 マーヤはこういう奴らに慣れていないのか、話しかけられるたびにビクッと体を跳ねらせている。


「マーヤ。そんなに怯えなくても大丈夫だ。ここの牢屋は頑丈だから」


「なんで先生はそんなに平然としてるんですか?」


「慣れてるからな。それに犯罪者といっても皆が皆、悪人ってわけじゃない。さっきの男、アサンジも母国のためにスパイをしていたし、他にも復讐のためとか、生きるためとか、目的のためとか、色々あるんだよ。たまに冤罪とかで捕まってしまった人とかもいるし」


「……」


「怖いのは日常の中に隠れている犯罪者だろう。隣を歩いていたやつが犯罪者だった、っていうのが一番怖くないか?」


「……まあ、確かに」


「捕まってるやつの中には本当の悪人もいるわけだから油断は出来ない。でも脱獄しない限り、とりあえずの安心は出来るだろう」


「先生ってなんか、大人って感じですね」


「そうでもないさ。犯罪を半分肯定しているだけだから」


「ふぇ!?」


「ハハハ。僕の考えは少し変わっているから驚くよね」


「変わってるというか、犯罪者的というか……」


「魔法が関わるなら犯罪にも手を出すっていうのが僕だから」


「昨日もそれ聞きましたよ……。もうグレーな感じのところまで手を出してるんでしょ? 教師がそれって大丈夫ですか?」


「学園では魔法しか教えていないし、まあいいんじゃないか?」


「えー」


 そうやって話しながら地下牢を出て、城の中を歩く。

 ある意味城へ不法侵入しているが、国王かエリックに会いに来たとか言えば皆も許してくれるだろう。

次話は1月17日投稿予定です




2019年4月2日追記

今更ですが、前回の「帰り道」と今回の「転移が出来る魔法道具」同じ日に投稿してました。

予約投稿のミスです。

今の今までまで、気が付かなかった……。

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