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帰り道

 研究室に戻りマーヤの魔力操作の練習に付き合っていたら、いつのまにか夕方になってしまった。

 帰る準備をしながら窓の外のオレンジ色を見て目を細める。

 マーヤはまだまだ魔力を操作するための手がかりさえも見つけられていないけど、これが普通だから全く問題はない。

 のんびり練習していけばいい。


「先生、本当にこれで魔力を操れるようになるんですかー?」


 手ぶらのマーヤがのんびりとした口調で聞いてくる。

 こいつは本当に魔力操作を習得する気があるのか?

 まあ焦り過ぎても問題だし、このくらいの余裕があったほうがいいのかも知れないけど。


「この練習を続ければ必ず魔力を操れるようになるさ。そう信じて十年以上練習する気でやれば、あるとき自分の意思通りに魔力が動く。と言っても自由自在ではなく、凄く重たいものを全力で持ち上げようとしている感じらしいが。そこからさらに練習していくと魔力操作という技術を習得できるってわけ」


「あー。これは心が折れる魔法使いが続出しますね」


 僕は幼いころに習得したからその苦労はよくわからない。

 でも苦しんでいる生徒たちをこの五年、見続けてきた。

 学生のうちに魔力を動かすことが出来た者は少数だ。

 魔力操作の習得に成功した者はもっと少ない。

 学園を卒業後も練習し続ければ誰でも習得出来るんだけどなぁ。

 それが何よりも難しいんだけど。


「そうだ。明日の先生の授業は何時からですか?」


 マーヤが机に肘をつきながらニコニコの笑顔で聞いてくる。

 僕の授業が相当気に入ったようだ。

 僕は天才だし、人が聞き入ってしまうような授業をしていたのだろう。

 なにせ天才なのだから。

 人を魅了し続けるなんて僕は罪な男だなぁ。


「明日は九時から魔法道具の授業、午後は昼休みの後に魔法の基礎についての授業が入ってるね」


「へえ。じゃあ九時前に先生の家の前に行きますね」


「わかった」


 マーヤは学園の生徒ではないから毎日来なくてもいいのに、明日も来る気なのか。

 勉強熱心なことで。

 魔法は楽しいから色々知りたくなるんだろう。

 僕もそうだっからわかる。

 でも今日はおしまいだ。


「帰ろうか、マーヤ」


「はい!」


 研究室の防犯装置を起動させ、鍵をかけ、校舎を出る。

 マーヤは歩きながら今日の授業や魔力操作についてうるさいくらいに話して来た。

 そんなに魔法に興味があるのに、何故今まで魔法を教わらなかったのか?

 それがとても不思議に思えるくらいだ。


「先生が初めて使った魔法って何ですか?」


 唐突にそう聞いてくるマーヤ。

 そうだな。


「魔法書を使った魔法のときはあまり覚えていないけど、魔法書を使わずに魔力操作で使った魔法はよく覚えている。といっても身体強化魔法なんだけどさ」


「どんな感じでした?」


「びっくりするほど体が軽くなるんだ。魔法を成功させたときは喜びよりも焦りが先に来た」


「ふふふ。そうだったんですね」


「でも嬉しかったよ」


 そう。嬉しかった。

 父さんも母さんも凄いって褒めてくれて、才能があるって、天才だって言ってくれた。

 流石は僕たちの子供だと。

 流石は私たちの子供だと。

 そう言ってくれたのに。


「……先生? どうしました? 私、何か悪いことを聞きました?」


 マーヤの瞳を一瞥する。

 とても不安そうな瞳をしていた。

 マーヤがこんな顔でそんなことを言うのなら、昔を思い出したせいで僕の顔に悲しみが出てしまったのだろう。


「マーヤ、大丈夫だよ。優しかったころの両親を思い出しただけだから」


「……先生の魔宝石を売ってしまったっていうご両親ですか?」


「そう。もう親とは思ってないし、縁を切っているから赤の他人だけど」


「そっ、そうなんですか……」


 マーヤは動揺したように目を泳がせて俯いてしまった。

 なんていうか、その顔は泣きそうな感じだな。


「マーヤがそんな顔する必要はないよ。もう十三年も前のことだ」


「十三年……。あれ? ニファン先生ってエリックさんと同い年ですよね?」


「そうだけど?」


「じゃあ今は二十三歳で……。ってことは十歳からご両親と縁を切ってるんですか!?」


「そう。十歳から学園に通い始めて寮で暮らしてた。それから十七歳で卒業。十八歳から教師をしてるよ」


「ほえー。先生、凄いですね」


「まあ目的があったからね。そのために頑張ってる。……マーヤは何かやりたいこととかないのか?」


「私はやらなくちゃいけないことはあります。でもやりたいことは今のところ魔法ですね。使えるようになりたかったから王様にわがままを言ったんです」


「へえ。魔法はやはり素晴らしいよね。強く美しくそしてミステリアスだ。なによりも惹きつけられる。そういう魅力に溢れている」


「私はまだ興味があるだけなので魔法を好きになれるかどうかわかりません。先生……私も魔法を好きになれますかね?」


「なるだろう。魔法は知れば知るほどその魅力にハマってしまうから」


「ふふ。そうなんですね」


 和気藹々(わきあいあい)と話していると、あっという間に僕の家の前に着いた。

 マーヤの住む場所は城で、時間が来れば僕の家の前に馬車が来るそうだ。


「何時に迎えが来るんだ?」


「えーっと四時半くらいですかね?」


「もう過ぎてるね」


「ふえっ!? 過ぎてますか!?」


 マーヤがどうしようと慌てている。

 なんかお城まで走るか、とか聞こえたけどここから城までって結構距離あるよ?

 時間を過ぎてしまったのは教師である僕の責任でもあるだろうし、特別に送ってやるか。

 王族より立場が上らしいマーヤになら教えてもいいだろうさ。


「マーヤ、誰にも言わないのなら面白いものを見せてあげるよ」


「面白いもの?」


「まあ国王は知っていることだけどね」


「面白いもの見たいです! 誰にも言いません!」


「じゃあ僕についてきて」


 マーヤは素直に僕の後ろをついてくる。

 家に入って庭を通り、玄関から家に入る。


「お邪魔します……。先生、靴を脱がないで入っていいんですか?」


「はあ? 靴を脱ぐのは風呂か寝るときくらいなものだろう。常識も知らないのか?」


「わ、私の故郷では、家のなかにいるとき靴を脱いでいたんですよ!」


「へえ。面白い故郷だな」


 でも遠くの国にそんな文化があると聞いたことがある。

 マーヤはその辺の出身なのかも知れないな。


 マーヤを連れて二階の奥の部屋までやってきた。

 そこは厳重に魔法道具で閉ざされた部屋だ。

 その部屋のドアに刻まれた蔦の彫刻に指を当てる。

 蔦に沿って指を滑らせ呪文を唱えた。


「気高く振る舞う者の夢を神といえども邪魔は出来ぬと知れ。とある魔宝石の輝きは何者かの絶望の始まりだと知れ。世界の全ては偉大な竜でもその眩しさに見抜くことは難しいと知れ。それでも世界へ旅立つ入り口は、今開かれることだろう」


 唱え終えると扉が淡い青色に発光し始める。

 しばらくすると光は消え、ガチャリという音と共に扉が自動で横にスライドしていった。


「……先生、これも魔法ですか?」


「魔法だね。魔法道具を応用して防犯システムとしているんだ」


「ほえー」


 中に入るとそこは窓のない部屋だ。

 窓からの侵入を警戒して窓は埋めてしまった。

 他にも防犯の魔法陣が張り巡らされていて、それぞれ魔宝石を埋め込んで魔法道具としている。

 そして魔宝石への魔力注入も自動でやれるようになっているんだ。

 これも僕が開発したもので、まだ世界はこの技術を知らないだろう。


「この部屋はなんですか?」


 マーヤが言うので床をそのまま魔法道具にしたものを起動させながら説明する。


「ここは転移の魔法道具の部屋だ。登録した場所へ一瞬で移動できるという道具がこの部屋だ。こんなの作れるのは僕だけだろうね」


「転移! じゃあこれでお城まで送ってくれるんですか?」


「そう。こんな魔法道具があるなんて知られたら戦争の道具にされかねない。だから秘密にしてね」


「でも王様は知ってるんですよね?」


「知ってるけどこの道具を政治や戦争の道具にしようとしたら僕はその国の敵になるからね。敵になったらその国を滅ぼす。そんな恐ろしいことを言ったから利用されはしないだろう」


「先生ってそんな凄かったんですか?」


「この国の都が学園都市と言われるくらい平和なのは僕がいるからだよ。僕がいなかった頃も学園はあったけど」


「ニファン先生は凄いんですね」


「僕が凄いのは昔からさ」


 

次話は1月17日投稿予定です

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