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治癒魔法を専攻しています

 それからしばらくマーヤと話をしながら魔力操作を頑張ってもらっていた。

 まだコツさえ掴めていないけど、まあ気長に行こう。

 そうこうしているうちに昼休みのチャイムが鳴ったので、今から昼食だ。


「マーヤ、弁当は持ってきたか?」


「持って来てないです。持って来てたほうがよかったですか?」


「僕も持って来てないから問題ない。金はある?」


「あります」


「じゃあ食堂に行こうか」


「はい! この学園のご飯って美味しいんですよね? エリックさんが言ってましたよ!」


「確かに美味しいね。魔法の天才の僕が学生時代からお世話になってるくらいだし」


「……あれ? 先生ってこの学園の卒業生ですか?」


「そうだよ」


「へえ。エリックさんと仲が良いのも同じ学園に通っていたからなんですかね?」


「そう。学園の魔力測定の時に絡んで来たのがエリックだったんだよ。僕の魔力と天才的な頭脳、そして大らかな性格を見て嫉妬したのさ」


 あのときは少し驚いたね。

 国の王子がこんなに早く接触してくるとは思わなかったし。


「それ、威張り散らしてるニファン先生が癪に触っただけなのでは?」


「んー。まあ僕の天才さを知らなければそう見えるのかもしれないな」


「天才でもそう見えます」


 そんなことはないだろう。

 さてやマーヤも僕に嫉妬し始めたな?


「でもエリックさんもニファン先生も美味しいっていうここの食堂のご飯は、きっと凄く美味しいんでしょうね!」


 よだれを垂らしそうにしているマーヤがふにゃけた笑みを浮かべてご機嫌そうだ。


「あんまり期待してそれほどでもなかったとかいっても僕は知らないぞ」


「そうですね。期待もほどほどにしておきます」


 マーヤが急にシャキッとした態度になっていっている。

 その様子が可笑しくて僕は少し笑ってしまった。



 研究室がある四階から食堂がある一階まで階段で降りてきた。

 食堂の扉は開け放たれており、扉の向こうは授業を終えた学生でごった返している。

 僕はマーヤを連れてカウンターへと続く列の最後尾に並んだ。

 いくら教師や天才でも割り込みは行けないからね。


「あれ? マーヤ様?」


 僕たちの前に並ぶ淡い水色のふわふわした髪を生やしている女子生徒がマーヤを呼んだ。

 どうやら知り合いのようだ。


「スティナ? スティナが通ってる学校ってここだったの!?」


「はい。マーヤ様はどうしてこちらに?」


「魔法の使い方を学ぼうと思って」


「魔法? 魔法でしたら私が教えて差し上げますよ?」


「あー。うん。それはそうなんだけど……ほら! 攻撃とかあれじゃない?」


「あれって……ああ! そういうことですか! どの魔法使いに目をつけていらっしゃるのです?」


 よくわからない会話をする二人。

 僕を置いて盛り上がり、謎のあれという言葉で意思疎通している。

 口を挟めずにいると、二人の話題は天才魔法使いの僕に向けられた。


「スティナ。こちらニファン先生だよ」


「え……。かの有名な、ニファン・ヴィオラン・アスタール先生ですか?」


 スティナと呼ばれている生徒が少し震えた声で僕を呼ぶ。

 天才的で超優秀な魔法使いに会えたならその反応はとても正しい。

 マーヤが世間知らずすぎるんだ。


「……先生って結構有名なの?」


 マーヤがいう。

 やはり世間知らずだ。


「僕は天才魔法使いだからそれなりには有名だ。世界で五番目に凄い魔法使いなんだぞ。本当は一番なんだが」


「ただのナルシスト先生かと思ってました」


「マーヤはもう少し魔法使いについて調べるべきだな」


「で、でも大賢者のエドモンドさんは知ってますよ。確か魔法王とも呼ばれていて、世界で一番凄い魔法使いなんでしょう?」


「そんなの知っていて当たり前だ。というかあの人は魔力に優れているだけの凡人だぞ」


「生まれた時から魔力に優れているのなら、それこそ天性の才能、天才でしょう。先生は頑張って努力して五番目になれたんですよね?」


「……つまり努力した僕は天才じゃないといいたいのか?」


「そういうわけじゃないです。努力する才能は誰よりもありそうですもん」


 僕は深い深いため息を吐いた。

 ……僕にも魔力はあったんだけどなぁ。 

 それこそ、魔法王と同等以上の魔力が。

 今のマーヤほどの魔力が僕の中に宿っていたのに……。


「いつかわからせるさ。マーヤにも、魔法王にも、クソ野郎どもにも、この世界にも、僕が魔法において世界一だと。だから楽しみにしているといい」


「先生が天才なのはわかりましたから、そこまで言わなくても大丈夫ですよ?」


 マーヤが心配そうに、そして困ったような顔で言っている。

 マーヤは信じていないな?

 まあいいさ。

 いつか全ての人々に認めさせればいい。

 そうすれば僕は何も気にせずに魔法の研究に没頭できる。

 そのためにやらなくちゃいけないことは犯罪でもやるべきだ。


「あ、あの、ニファン先生! 私はスティナ・ジュリーニ・ファイザーハレ。治癒魔法を専攻しています。どうぞお見知りおきを!」


 マーヤの友人に目を輝かせながら挨拶された。

 憧れの僕に会えたのが嬉しいのだろう。


「どうも、こんにちは」


 爽やかな笑顔で挨拶を返した。


「先生は魔法のことならなんでもご存知なんですよね?」


 スティナの言葉に首を横に振る。

 なんでもではない。

 なんでも知っていたら研究する必要がないからな。

 でも生徒の問いならほとんど答えることが出来るだろう。


「なんでもではないが、ある程度なら答えられる。なにか聞きたいことがあるのかな?」


「はい。その、魔法に神は関係していますかね?」


「僕は関係していないと考えている」


「ですよね。私、治癒魔法を専攻しているせいで周りの人たちが神がどうのとうるさいのです」


「気持ちはわかる。でも彼らを否定はできない。実際、神を信じる者たちが独自の技術で魔法を作っているし」


「そうなんですか……。あとこちらのほうが本題なのですが、治癒魔法の効果をただの水に付与する技術を開発途中なのです。でも上手くいかなくて……何か助言をくださいませんか?」


「助言ね。どんな感じで開発してるわけ?」


「武器に属性を付与するようにでしょうか?」


「なるほど」


「水に治癒魔法の効果を付与することには成功するのですが、すぐにただの水となるのです」


「それは水を入れている容器に問題があるかもね。水に魔力を込めるのは比較的簡単ではあるけどすぐに魔力が抜けてしまうんだ。それを防ぐには容器に工夫が必要。魔力を通さない壁の役割をする魔法陣か素材を使う必要があるし、密封しないと意味がない」


「容器……盲点でしたね」


「もしくは膨大な魔力にものをいわせて水に治癒の効果を付与しないとダメかな。あとは容器を魔法道具にしてしまって、治癒の効果を永続的に付与させ続けてもいいかもしれない。ほかにはそうだな。水そのものを魔法道具に変えてしまうのはどうだろう? 水の中に魔法石でも入れてやってみれば可能なはず。ふむ。これはなかなか面白いな。それなら――――」


「ニファン先生。ありがとうございます! もう大丈夫ですよ。せっかくの助言ですが途中から私には理解できませんでしたので……」


「それはすまない」


「……水を魔法道具にってなんなんです?」


「面白いだろう? 僕の考えが正しければ可能なはずだ。今度実験してみよう」


「その実験、私も見てみたいです」


「別にいいよ。見たければ見ればいい」


「アイディアを盗まれるとは思わないんですか?」


「……盗むなら盗まれる覚悟でもしておけ。僕のものを奪うのならそれ相応の覚悟が必要だよ」


「そ、そうなんですか」


 盗みを続けて五年のプロに挑むのなら当然じゃないか。


「まあここの生徒がそんなことするとは思えないけど。アイディアを使うとしてもその人に許可を取ったり、論文にその人の名前を記載したりするのなら僕は特になにも言わないさ」


 そうやって話していると、やっとカウンターの前までたどり着いた。

 それぞれ食べ物を注文して、お盆を受け取る。

 空いている席に座って食事を始めた。

 スティナも一緒で、魔法について質問を受けたり、考えを提示してみたりと有意義な会話をする。

 隣に座るマーヤはついてこれていないが、まあ気長にな。

 これから勉強していけばいい。


「流石五の魔法使いのニファン先生ですね。少しの会話のなかでも沢山の発見がありました」


 食事を終えてからスティナが嬉しそうに笑っていっている。


「僕もなかなか有意義な時間を過ごせたよ。僕は基本的に四階の研究室にいるから、暇なときに遊びに来るといい」


「はい。そのときはよろしくお願いします!」


 楽しいそうな顔のスティナと別れて僕とマーヤは研究室に戻るため階段を登り始めた。

皆さま、あけましておめでとうございます!

次話は1月10日投稿予定です。


この物語を今年もよろしくお願い致しますm(_ _)m

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