Vol 18 決断と恩
『切札・・・・・・か』
この切札とはおそらくクレアのDOLLのことだろう
しかしただのDOLLではこの状況を打開することはできない
基地からここまでかなりの距離があるし
来たところでどうにかなるとも思い難い
『この状況をどうにか出来るというのなら、呼ぶがいい』
クレアは大きく深呼吸をした
『No-005 ヴィレイン・トゥルー』
その時基地では超常現象とも言えることが起こっていた
「第5シェルターが・・・・・」
「浮いてる!!!」
基地上空には巨大な鉄の塊が浮いていた
全長は400mほど
そして徐々に鉄の塊が剥がれ落ちていく
しかし鉄の塊の中には何かがあった
今まで鉄に包まれて保管されていたのか
中から出てきたのは・・・・
戦艦!!
白銀の機体色
あらゆるところに設置されている砲門
後部の巨大なスラスター
そのどれもが戦艦と呼べるものだった
それが今HEAVEN基地内から急浮上してきたのだ
その様子を比嘉はモニターで見ていた
『何だ・・・・コレは・・・』
その表情は先ほどまでとは打って変わって焦りの表情に変わっている
「なるほど・・・・これは」
『切札だな』
桐生が基地からの映像を見て希望の箱舟を見つめる
ココまでくれば後は崩れるのが速いか、ヴィレインがつくのが速いか
『ヴィレインはもうこっちに移動してきてる、ガレキに潰されないように注意して』
クレアが皆に注意を促す
しかし比嘉の怒りは収まらない
『貴様ら・・・逃げ切れると思っているのか・・・今や世界大国と呼ばれるほどの日本相手に』
『思ってるからやってんだよバーカ』
桐生が余計な一言を比嘉に浴びせる
クレアは頭を抱えた
比嘉は総理としての人格は申し分ない
しかし一般人としての人格は考えられないものだった
一年ほど前、比嘉は諸外国との条約締結のため会談を行っていた
「I agree with your opinion. This opinion is very good!!」
(私もその意見に賛成です、その意見はすばらしい!)
「Thanks you.In this environmental pollution is resolution」
(ありがとう、これで環境汚染は解決しますね)
比嘉が出した環境問題について案が評価され
その方針で決まろうとしていたとき
「I did not think that such an opinion came out from the monkey. 」
(まさか猿からこんな意見が出るとはな)
「・・・・・・what?」
(何?)
相手国の外交官が比嘉を『猿』と言った
それを発端に比嘉は外交官に殴りかかった
本来ならガマンして耐える所だが、比嘉にはその能力が欠如していた
結果、会談は失敗
相手の外交官は全治7ヶ月の重症
しかし驚くべきはその後
日本に帰国後、比嘉を辞任させようと言う者が1人もいなかった
それもそのはず
今の日本は比嘉ありきで動いているのだ
『清次君、君だけでもこっちにこないか・・・・・?』
突然の比嘉からの一言
何を馬鹿な
そう思ったが別におかしいことではなかった
清次は元々過去からの来訪者
この反乱、もとい命令違反をクレアらと共に行う義理は無いのだ
比嘉はさらに言葉を続ける
『こちら側のDOLLの能力を駆使すれば・・・・君を元居た時代に帰すことができる』
その言葉に清次の心は揺れる
「・・・・・帰れる・・・・・・?」
亜美の顔が浮かんできた
長い間忘れかけていた元の時代
いっそあちら側に行こうかと思ったとき
ゴゴォォォォン ガラガラガラ
横の壁から銀色の物体が突っ込んできた
『清次君、私達と来るのならヴィレインに飛び乗りなさい』
クレアはそれだけ言うと通信を切った
グレイヴとヴァインは颯爽とヴィレインに飛び乗り
ガルバレンを見下ろしている
『どうするんだい?清次君』
比嘉が清次を急かす
しかし清次の答えはもう決まっていた
「まだ恩返しが終わってないんだ」
そう言って清次は回線を閉じ
ガルバレンはヴィレインに飛び乗った
『清次ぃ!!』
『清次さん!!』
『清次君!!』
3人の歓喜の声が飛び交う
『うんうん、お前を落下から救ったのは俺だよな』
「その恩じゃねぇよ」
『来てくれると思ってたよ』
クレアの能天気な声
「恩は返すって言ったろ」
清次達は笑い声に包まれながら
船体左右2つずつある格納庫兼射出ハッチにDOLLを格納した
「炎璽ぃ~!!」
「凍璽ぃ~!!」
炎璽と凍璽は出合った瞬間に抱き合っていた
まるで長い間会えなかった恋人同士のようだ
「何だお前ら、ブラコンだったのか」
清次は抱き合っている2人をよそ目に始めてみる通路を歩いていく
輝かしい機械的な通路
清次にとってはレッドカーペットの上を歩くよりも楽しかった
まるで秘密基地のよう・・・・まぁ秘密基地な訳だが
「何で子供みたいにスキップしてるの?」
その言葉に清次は我に帰った
「スキップ・・・・・してた?」
いつのまにやらスキップまでするほど浮かれていた
日本相手にケンカを売り、宣戦布告までしたと言うのに
だが、不思議と不安は無かった
「これからどうするんだよ」
桐生は浮かれ気分×3を無視してクレアに問いかける
「まずは・・・清次君を帰さないとね」
「どうやって?」
桐生の連続の問いにクレアは反応を鈍らせる
そして強化ガラスに手をかざし、小さな声で言った
「日本を・・・・いや、比嘉を潰す」