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4日目<オマコン>

ずいぶんかっこつけて飛び出してきたもんだと思ってる。

今思えばIpadの下りはいらなかったかななんて事を後悔しながらオマコンは避難通路から城に向けて走っていた。


自分の人生で後悔しなかったことはない。

何かをやらかしては後になってああすればよかったこうすればよかったと

関係ないタイミングで思い出してはもう過ぎたことだと自分を慰める。

だがそれが生かされたと感じたことはない。

自分の人生は後悔ばかりだった。


それでも1度は。せめて1度ぐらいは後悔したくない。

それがオマコンの今の心の原動力だった。


しばらく避難通路を走ると城の宝物庫に出た。

宝物庫に避難通路を作るというのはセキュリティ的にどうなんだろうと思うが

金ぴかで重量のあるお宝がひしめき合ってるため、ゾンビを食い止める最終防衛ラインとしては最適ではあった。


宝物庫の扉の前に立つ兵士にオマコンは声をかける。

「状況を教えてくれないか?」


「!…あなたは異世界の…

よくないです。すでに城の地上部分はゾンビで埋め尽くされています」

声をかけるまで気づかないほど緊張していた若輩の兵士はオマコンの顔を見て少し顔をやわらげた。

この緊急脱出はオマコンたちにかかっているといっていいので当然の反応だろう。


「地上まで…ならこの地下2Fまで来るのも時間の問題だな…」

オマコンは作戦前に確認した城の見取り図を思い出しつつ唸る。


元々ゾンビ相手に籠城は長くはもたない。

やつらはこちらの居場所を確実に察知して迫ってくるのだ。


そう、だが察知されたとしてそれがデメリットとは限らない。

兵士にオマコンは優しく「大丈夫だよ」と、声をかけてから続けてよく聞いてほしいと肩を掴みながら言った。


「いいかい?今ゾンビを食い止めているマックス…僕の仲間と兵士たちを全員この場所まで撤退させて

ここの入口を封鎖するんだ。

僕はこれからゾンビたちを別の通路に誘導する。ああ、ちなみに僕は姫騎士さんから別の抜け道を教えてもらってるから気にせず確実に扉を封鎖してね。

あと一応噛まれてる人やひっかき傷の有無は確認する事、いいね?」


子供に言い聞かせるように何度も声をかけると兵士は何度も咀嚼するように頷いた。

ひとまずは大丈夫だろう。

ここの封鎖さえしてしまえば避難通路になだれ込んでくる数は相当減るはずだ。

あとはどこまで誘導させられるかにかかっている。


「ああ、そうそう君の兜を少し借りるよ」

オマコンは返事を待たずに兵士の金属製の兜を手早く外して見せ、後ろを振り返らずに宝物庫から動き出した。


城の地上部に近づくにつれてすでにまかれたガソリンと延焼用にまいていった衣類などが散乱し

ビシャビシャといった濡れた足音がよく響くようになっていた。


自分の息遣いも感じられる。いつの間にか動悸が激しくなっているのか息が荒くなっていた。

ビチャ…

通路の奥から鈍い音が聞こえた。

背筋が底冷えするのを感じる。


ゾンビだ。


「こっちだ!ゾンビ共!」

姿を確認するまでもなく奥から聞こえてきた唸り声に向かってオマコンは叫び

手の持った兵士の兜を壁に打ち付けた。

鳴り響く金属音に飛び掛かるようにゾンビの群れがオマコンへ向けてなだれ込んでくる。


「ヒッ!?ッヒ…ッ」

わずかに気後れするオマコンだがすぐに身をひるがえし

最初にしたように壁に兜を打ち付けながら全力で後退する。


目指すは宝物庫とはまったく別の地下。そこは逃げ出すためではなく逃がさぬために作られた場所。

そう。誘導するのは犯罪者をとらえて離さないための誘導するのにうってつけの場所。


牢獄である。


「牢獄に誘導すればだいぶ避難通路から距離を稼げる!その上、多くのゾンビが誘導されればされるほど

こちらに釘付けにできる!」

泣きそうなというか実際泣きながら恐怖心を打ち消すために必死で考えながらオマコンは走った。


「がんばれ僕!負けるな僕っ!」


いつもつらい時、自分を励ましてくれたのは自分だった。

オマコンは心の中で必死に自分を鼓舞しつつ通路を走り抜ける。


ガソリンでぬかるんだ足元を全力疾走して息も絶え絶えになる頃に牢獄に着いたオマコンは

1番奥にある牢獄に逃げ込むように飛び込み、内側から鍵をかける。

あと1歩というところまで迫っていたゾンビたちは牢屋に阻まれ唸るだけになる。


最初は怯えていたオマコンだが、これから火をかけるのだという事を思い出すと

自然と心が落ち着いていった。


「秘密の抜け道か…牢獄にそんなものが…あるわけないのにね」

先ほど兵士をなだめすかすのに言った自分の発言を思い出しこんな状況ながら苦笑いが出た。

牢獄にそんなものがあればその牢獄はすでに1ダース単位で脱走者を量産している事だろう。


ジタンに向かっていった「死ぬつもりはない」もそうだ。

長年生きてきて上手くなったのは自分と他人を騙す嘘だけなんてのはとんだ皮肉だろうか。


それでも…最後だけでも…自分の納得がいけばそんな自分も許せる気がする…。

それもメディアによくある「負け続けのヒーローが1回の大逆転劇」にカタルシスを感じる

根っからのTV脳なんだなと、やはり自虐してしまう。


さて…あまりもたもたもしていられない。

ジタンに相談する前にここの下見を兼ねてガソリンはすでにまいてある。

密室空間である地下にはガソリンの匂いが充満していたが

実際にはガソリンは常温ではあまり気化せず、それなりに燃焼させて温度を上げてやる必要性がある。


そのためにもこの牢獄を起点として、城全体の温度を上げてやる必要性があった。

そうして温度を上げて気化したガソリンでなければ延焼はしづらいのだ。


またその時間差ゆえに避難通路側には、すぐ火が燃え広がらないとも考えた上での行動だった。


「さあ…自決用の銃もないのがつらいところだ…焼死って苦しいんだって聞くけど早くを火をつけないと…

火を…つけ……………っえ?」

脂汗がオマコンの全身から噴き出る。


火!マッチ!ライター!火をつける道具!


「え…?!嘘だろ…っ待てよ待てよ待てよ冗談じゃないぞ…そんな…」


火をつける道具が…ない。


「そんなバカな!!なんでこんな時に限って…っ!!」

いつもそうなのだ自分というやつは大事な時に限って忘れ物をする。

財布やチケット…まさかこの後に及んでまさかの火とは。


「嘘…だろ…」


じゃあ自分が行ったコレは一体なんなのか。

これじゃあ勝手に逃げ出して勝手に追い詰められて勝手に死ぬのと大差ないじゃないか。

頭が後悔の念で埋め尽くされていく中、何か何かないかと必死でポケットをまさぐるが

出てくるのはせいぜいゴミばかり。


「まさか…そんな…………神様…最後すら思い通りに決められないのか…僕はっ!!」


オマコンの悲痛な絞り出すような叫びはゾンビのうめき声でかき消されていった。


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