4日目<昼>
「これは厳しいな…」
ジタンは女子供を城の中最下層にある避難通路に集合させながら誰ともなくつぶやいた。
分かってはいたことだが。
…避難するための時間が足りないのだ。
ジョニーたちのせいではなく、もうそもそもとして陥落まじかだった城にはもう手段がなかった。
ジョニーたちがひっそりと城に侵入し、姫騎士と丁寧な自己紹介とコミュニケーションをとっていれば
間違いなくその間にゾンビの大群に城は陥落していたであろうことは明白だったであろう。
それほどに事態は切迫していたといえる。
ジョニーが武装バンで城外に飛び出てすでに数時間…
ぶち壊された城門からゾンビは少しづつ進入してきていた。
が、最後尾を守るマックスと城内警備兵の活躍でなんとか城の狭い場所に誘導して個別に対処する事が出来ていた。
だが最下層にあった避難通路の狭さ。
そしてけが人、老人を優先して避難させているため避難状況の進行度合いは現状見積もって2割がいいところだと
ジタンは分析していた。
「このままじゃ間に合わない…かい?」
神妙な顔をしていたジタンにオマコンがその心中を察して声をかける。
女子供を不安にさせないように聞こえない程度の声量で。
「…もし避難する女子供たちの最後尾が追い付かれたら連鎖的にパンデミックが起きて全滅する…と思う」
「僕も同じ意見さ、そして今のままでは高い確率でそれが起こってしまう…だろ?」
ジタンに同意しつつオマコンは続ける。
「マックスや兵士たちががんばってくれてるがもうあと数十分と持たないかもしれない。
…だがゾンビたちを避難民とは離れた場所に誘導して火をかければ今進入してきているゾンビを先に
燃やして時間が稼げる…………かもしれない…」
オマコンの発言にジタンはわずかだが声を荒げる。
「正気かオマコン…ここと離れた場所に誘導するってことは逃げられないってことだ。そんなことは誰にもさせられない。ぼくもマックスも…君にもまだ役割があるだろう?」
「正気も正気さ。君は避難させる役割、マックスはそれを護衛する役割、僕には巻いたガソリンに火をまく役割がある。…僕にやらせてくれ、頼むよジタン」
「オマコン…」
「実はいうとね…みんなすごいなって思うんだ。パンデミックが起きた時のために…
マックスは武装バンが作れるぐらいの技術を身に着けてるしジョニーもバンの操作やチェーンソーの扱いもピカイチ。ジタンも一通り格闘技を収めてる上に医療の心得がある…いつゾンビ映画みたいな事が起きてもいいように気構えができていた…でも僕は違う」
太陽光パネルを張り付けたIpadを自虐的に見つめながらオマコンは続ける。
「これさ、実はほとんど充電できないんだ…パネルの大きさが小さすぎてね。でもこんなことをするだけで僕はまるでゾンビ映画に備えて準備していた気になってたんだ…笑えるだろ?
結局自分はゾンビに詳しいだけのゾンビマニアなのさ。その気になっていい気になって…
画面上のヒーローにあこがれるだけの子供だった…そんな僕も含めてジョニーは僕らを
ゾンビのエキスパートだと言ってくれたんだ。うれしかったよ…本当に…うれしかったんだ」
「僕は本当のエキスパートになりたいんだ。画面上のヒーローじゃない本物のプロフェッショナルに。
頼むよジタン…今だってこんなこと言いながら足がガクガクなんだ…僕の背中を押してくれ…」
涙を蓄えながら震えるオマコンをジタン無言で抱きしめる。
「わかったよオマコン…だが死ぬなんて気では、いかないでほしい」
「はは…君は優しいねジタン。わかってるさ、僕だって死ぬ気はないさ。
最後に姫騎士に感謝されながら抱きつかれるってイベントが残ってるからね」
肝心の姫騎士は避難民たちの先頭に立って進んでいるためすでにここにはいない…。
それを承知のカラ元気だ。
それだけを横目で確認しながら寂しそうな顔でオマコンは避難通路から城へと戻っていった。