3日目<朝>
翌朝
怯え切って何も話せない姉妹を仕方なく集落においてジョニーたちは
別の集落に出発していた。
オマコンや意外にもう1人の東洋系の小柄な男。ジタンがそれに反対した。
曰く集落のゾンビは排除しても近隣にまだ潜んでいるかもしれない。危険だという。
ごもっともな意見だ。女子供を見殺しにするような真似なんて俺だって心が痛むさ。
「じゃあ武装バンに乗せるとして座席に乗せるともうパンパンだがお前ら2人は
トランクとボンネットどちらに詰め込まれたい?」
結果として家屋の地下ならば安全であった事。集落の無事だった食糧品をあらかた置いていく事で
しぶしぶ姉妹を置いていくことに了承した。
オマコンは下心がありありだったのだがこのジタンという男は遠い目を座席後方に向け
姉妹の身を案じているようだった。
「ずいぶんとご執心だな。死に別れた恋人にでも似てたのか?」
俺は気晴らしがてらジタンに話しかけてやることにしたわけさ。
「いえ…教え子に似ていました」
目を後方に向けながらジタンはポツリとつぶやくように答えた。
「へえ…ずいぶん筋肉質な体してるんで東洋の武術家だと思ってたが教師でもやってたのかい?」
「武術はかじっていますが…教師ではなく医者です。本職はね
ですが器具も薬もないこの状況で医者の無力さを散々味わいましたよ。
今の私にできることはちょっとした手当程度のものです」
そうつぶやくジタンの目からは確かに自信というものが消え失せてるようにも見えた。だが、だ。
「はっ!関係ないね!今この状況が異常なんだ今までの常識が通用しなくて当たり前だろう?」
身振り手振りで大げさに手を広げ、やれやれといったポーズをとる。
「ゾンビに襲われ、異世界に迷い混み、今や何がどうなってるのかさっぱりさ!
そうなりゃ今までがどうだかなんて関係ねえ!今!やれることをやるだけさ!そうだろ先生?」
と自慢の歯茎をさらけ出してニヤリと笑ってやったわけさ。
それにつられてか、合わせてくれたのか。ジタンも苦笑いを浮かべてくれた。
そうさ、この狭いバンの中で重苦しい雰囲気なんて何の足しにもなりゃしない。
目指すは先。前なのさ。
「もうすぐ見えてくるよ。この周辺で1番大きいと思われる集落が!」
オマコンが後部座席から顔を覗かせながら指さしたその先には、でかい山々大きな湖がある
巨大な盆地だ。
「ヒュウッ!見ろよ、さすが異世界だな」
その盆地には…中世ヨーロッパを思わせる巨大な城がそびえたってやがった。
まさに幻想の世界。…のはずなんだが様子がおかしい。
「戦争…でもしてやがるのか?」
かなりでかい崖の上から盆地をよく見渡すとまるで蟻の行列みたいな黒い粒粒が城の周りを
取り囲んでいた。
「おいおいおいおいおいマジかよクソったれが!見てみろよあいつらゾンビだぜ!」
群がっているのは…そうゾンビだった。それも人間のゾンビだけではない。
体がでかいオークのようなゾンビ。小柄で動きが素早そうなゴブリンのようなゾンビ。
他にも4足歩行の犬のようなゾンビなど多種多様に見えた。
それらゾンビが城の外堀を自分たちの体で埋め城壁を這いあがり…
それを必死に城内の人間が上から落としてなんとか侵入を防いでいたが時間の問題だった。
「お前らどうするよ?」
そう聞いたジョニーに男たちは無言でうなずいた。
「いい加減逃げ続けるのも飽き飽きだろ。そろそろあいつらクソったれな腐れゾンビ共に
人間様の偉大さってのを思い知らせてやろうぜ?」
そういってジョニーはニヤリと白い歯茎をむき出しにして見せた。