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18日目<???その2>

「…やはり、あんただったのか」

苦虫をかみつぶしたような苦渋の顔でそうつぶやいたリッグにジョニーは皮肉がてら

「よう、久しぶりだな…」と返してみせた。


実際は別れてから言うほどたってるわけでもないし、久しぶりというほどの面識があるわけでもない。

道を聞かれたから答えた、その程度の面識でしかないのだ。


その空気が伝わっているのかチェックも壁にもたれて寝るふりをしながらも片目でこちらを無言で伺っていた。


「村の周りの柵は俺が焚火してるのを見て思いついたのか?」

「………ああ、あんたの真似をしてみたんだがそもそも火がつかなくてな。乾かしながら

何かの役に立つかもと思って村を囲ってみたんだ…まあ試行錯誤している所だ」

まずは世間話をするふりをして会話を引き出す。

それに乗ってくるかどうかで相手の余裕の有無も見えてくる。


「だが…失敗だったよ。生きてる人間からすればあれは生存者がいるって目印になる。

おかげでここもそれなりに人が増えて困っている」

「だから生かして返さないようにしてるのか?」

そして攻める。


ジョニーの返答にピンと空気が張り詰める。

気のせいかチェックの方からつばを飲み込む音が聞こえた気がした。


「…誤解しないでほしいんだが、別に閉じ込めてるのは逃がさないためじゃないんだ」

そう前置きしてからリッグは言った。


人が増えたため規律が必要になった事。

ゾンビ化を防ぐためグループを作り接触を最小限にしている事。

新しい人間は必ず牢で過ごしてもらい、ゾンビにならない事を証明している事…などなど

皆に納得してもらうためには必要なことだとつらつらとよくしゃべって見せた。


最初のしゃべりづらさとは一転、流暢なものだった。

毎回の決まり事だと抑揚のない決まり切ったしゃべり方で感情ののっていない事務的な口調だ。


「そういう訳だから済まないがまだ出すわけにはいかない、申し訳ないがおとなしく待っててくれ

悪いようにはしない」


そうこれも常套句なんだろう言葉を残してリッグは牢を後にした。


「…それでどうだったんだ?」

リッグがいなくなったのを確認してから、チェックは口を開いた。

「だめだな、怪しすぎてパパラッチが24時間体制で張り付くレベルだ。

悪いようにはしないなんて吐くやつに悪くなかったことがあるか?」

ジョニーの台詞にチェックも同意するようにうなずく。


怪しいわ友好的ではないわとなれば長居する必要はない。

一刻も早く脱出する必要がある。


「何か使えるもんがありゃあな…っと」


そういいながらジョニーは右靴のかかとをひねり、パコっと外して見せた。


「…すごいな」

チェックから感嘆の声が上がる。

ジョニーの靴のかかとからは小指ほどのナイフや、針金。粘土やダクトテープを小さく丸めた物などがごく少量だが仕込まれていた。


「ゾンビに襲われた時、身の回りのものでなんとかするのは定番だからな。加工するにしても

最低限の工具類はほしいだろ?」

「これだけあれば俺でも何か武器が作れそうだ」

「期待してるよ」

そういって二人はにやりと笑う。


とはいえこの牢は元々、この村で使われていたものでシンプルゆえに頑丈なものだった。

錠前は存在せず、手の届かない場所まで伸びた扉の端が

重量のある閂で開かないように閉められている。

南京錠などなら鍵開けなどできただろうがそういった小細工がシンプルゆえに不可能なのだ。

いくら木製の檻とはいえ、小ぶりのナイフでは削り落とすだけで数か月かかってしまうだろう。


ジョニーはかかとの中から一つの小さい塊を取り出してみせる。


「それは…笛か?」

「ご名答」


そういって笛を吹いて見せるが音は出ない。

正確にはジョニーやチェックには聞こえなかった。


「こいつはピーターパンの笛さ。これが聞こえるのはネバーランドに行ける純真無垢な子供だけ。

こいつで一つ助けを呼んでみようじゃないか」

「いるのか?純真無垢な子供が」

「さてなぁ、だがまあ試してみるのは悪くない」


「子供はいつだって好奇心の塊だからな」

そういってジョニーは聞こえない笛にリズムをのせて吹き続けて見せた…



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