16日目<未明その3>
「いやっほうぅぅぅぅ!!ご機嫌だなぁ!やっぱ車は最高だぜ!お前もそう思うだろ?あぁ~…文明の利器の素晴らしき事かな!贅沢を言えばキャデラックなら文句なしの満点だったんだがなぁ」
「ゼイタク言うなヨ!それなら僕は三菱のFTOカナ?あのフォルムがサイコウなんだ」
「ミツビシ?あのミツビシ?!かぁ~これだからわかっちゃいねえってんだよなぁ道理で普段からセンスのない服着てるわけだぜ」
「ナンだヨ!」
「やるかぁ?!」
「あ~~~~~~ッ!隣で言い争うなよ!うっとうしい!」
ほっとけばいつまでも続きそうなエフィーとチャッキーの口論に耐えかねたブルーズが吠える。
まあ狭い。ジョニーたちが調達した武装バン…正確には武装ジープというべきか。
それは大の男4人をすし詰めにしてなお隙間が足りない。そんな代物だった。
ジープ特有の悪路走行に適した車高の高い足回りと、それに反比例したような車内の狭さ。
実際、座席は2名分しか存在せずあとは簡易的な荷台が座席後ろにあるのみ。
おそらく前の持ち主たちは2人組ぐらいだったのだろう。
あとは食料やら必需品を詰め込むだけでパンパンだ。
そして荷物類も残されていなかった事からジープを乗り捨ててどこかに脱出したのだろう。
ジープがあった場所には何台もの車に阻まれまともに走行できない状況になっていた。
ジョニーたちが車を動かす際も、ほかの車を動かしたりと若干の手間があったぐらいだ。
そしてあのゾンビの数だ。どうなったかは想像に難くない。
「まあ…それでもやはり足があるのはありがたいこった」
いきり立つ三人を諫めるようにジョニーは後部で言い争う2人に声をかけた。
左ハンドルの運転席にジョニー。助手席にブルーズ。荷台にすし詰めのエフィーとチャッキー。
そして時速40kmほどで走行する武装バンもとい武装ジープの両サイドを
モトクロスのチェックと相方の女という鉄壁な布陣だ。
実際この速度でも引っ掛けるゾンビは簡単にバラバラになり何の障害にもなってはいない。
ガソリンも付近の車から手間はかかったものの抜き出しており、幾分かの余裕がある。
順調だった。いや、今思えば順調すぎたのかもしれない。
何十km走ったかわからないぐらい…相当な距離を走行しているうちに周りの岩壁に明らかな変化がでてきた。
大理石のように磨かれた垂直の壁に、ギリシャ神殿にたっているような柱が信じられないような精度で均等な距離で立ち並ぶ。
自然と走行速度を落とすと壁面には何やらの絵画が彫られており文明レベルの高さを伺わせた。
「すごいな…」「…ああ」
自然とこぼれたチェックの一言にジョニーは反応しながら、ん?と感じて聞き返す。
「この道を通ってきたんじゃなかったのか?」
「たぶんこの道を通ってきたがなんせゾンビと一緒だったからな…こんなに落ち着いて周りを見る余裕はなかったよ」
と少し頼りない返事が返ってきた。
「しかし…ますます謎が深まるな。こんな一直線で長い通路…それもこれほどの建造物は現代でもそうそうお目にかかれないぜ」
「万里ノ長城…あるいはピラミッドを連想させるネ。人知の外の領分にすらカンジル」
万里の長城か…さすがに山奥で木こりをやってたジョニーも聞いたことはある。
あれは異民族からの進行を防ぐための防壁だったか…ピラミッドは王墓と両方用途は似ても似つかないが
その時代、その世界で必要に迫られて建設したに違いない。
「避難…避難させる事を目的としたなら何から逃げるためだ…」
長いドライブの中、うすぼんやりとしてきたジョニーの思考に食い込む疑問。
おそらく何十年とかけて作られたこれらはきっとゾンビから逃げるためのものではなかったはずだ。
はるか昔の異世界人が、必要に迫られて『どこか』へ逃げなければいけない必要性に迫られた…
それはきっと世界崩壊とかそれぐらいの規模の話のはずだ。
そう。それであればこの世界からジョニーたちの世界に逃げ出すために作られたとしたら納得がいくのだ。
「まあ…進めばわかるか」
一旦思考を打ち切る。
考えても仕方ないことは考えない。思考の袋小路は、精神を病む。
ジョニーの考えが正しくても、まったく的外れでももうすぐ元の世界に帰れるのだ。
だがゾンビ映画でもこういった瞬間がまずいのだと。
一瞬ジョニーがはっとした瞬間、左右の壁が爆音とともに崩壊した。
「チェック!!」
左右にいたモトクロスの2人がもろに岩の崩壊に巻き込まれる。
チェックはなんとか体勢を立て直し抜け出したものの、相方の女の姿が見えなくなっていた。
そして数瞬ののち、壁から現れたのは大小無数の…そう。姫騎士の城を襲っていたのと同じであろう
モンスターゾンビ集団であった。
「くそったれがぁぁぁ!」
ジョニーは吠えながらもアクセルを踏み込む。
やはり早々、安心などできないのだ。
猛烈な後悔と反省がジョニーの心を覆った。




