2日目
「なんてことだ…まさかこんな所にまでゾンビがいるなんて」
集落をIpadの地図から地形を推察し探し出したオマコンは絶句していた。
オマコンだけじゃない。俺もマックスも、もう一人の男もだ。
ようやく逃げ延びて異世界まで来たってのに見つけた集落はゾンビにまみれていた。
「クソのオンパレードだぜこいつはよ、運命の女神ってやつはよっぽど俺たちが嫌いらしい」
空気を和らげるためのアメリカンジョークも冴えが悪い。
何せ状況は振り出しにもどっちまったんだからな。
「それで…集落は見つけたわけだがこれからどうするんだ?オマコン」
「…僕たちには物資が必要だ。あの集落から調達せざる得ない。
他の集落が無事な補償なんてないんだ…」
と緊張した面持ちでオマコンはつぶやいた。
道中で聞いた話だと見つけた集落でものすごく親切な女の子にこの世界のことをいろいろ教わるのが
セオリーでぜひお近づきになりたいと喜んでいたオマコンだが
今はとても臭い腐臭漂うゾンビマダムを見て心底ガッカリしているらしい。
それは俺も同じだが。
「ゾンビ臭にまみれたゾンビフードで最後の晩餐ってか?冗談じゃねえが…あいつらを何とかしないと
安心して散歩もできねえってことにだけは賛成だ」
やれやれといった口調でオマコンの言うことに同調する。
こういうことは意思統一が大事だからな。
集落といった規模なのでゾンビの頭数も多くはない。
俺のチェーンソーのバッテリーもいくらか分からないがなんとか持つだろう。
そう思って1歩前に進むジョニーをマックスが腕で遮った。
「あのぐらいなら俺に任せてくれ。牛をひねるより楽な仕事だ」
そう。このマックスは板金工のバイトもやっていたが今は現役の精肉加工業を営むこの男。
肉を見るとそれをまず解体できるかどうかでしか物事を判断できないと語ったマックスに
人もか?と聞いた時のあの微笑は忘れることはできない。
マックスは無言で腰に差していた肉切り包丁を右手で構え…目の前のゾンビマダムの首を一刀の元で
消し飛ばした。
「URYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」
嬌声を上げながらマックスは次々と鮮やかな手口で集落のゾンビの首を跳ね飛ばしていく。
ひとまず言える事は、あの包丁で切った肉は食いたくないってことだけだ。
ともかく仲間が頼れるのはありがてえ話さ。
口笛吹きながらマックスに着いていくだけでゾンビミートの山の出来上がり。
周囲を調べ、安全を確保した俺たちはようやくせまっ苦しい武装バンの中で
4人で他人の股間を枕にしながら四角形に寝る必要もなくなったってわけさ。
あいにく食糧関連はめぼしいものはなかったが1つだけ収穫があった。
集落の中で倉庫に使われていたんだろうな。一番頑丈でゾンビが群がっていた家に地下があり…
いたわけだ。「異世界にありがちの親切な女の子」ってやつが。
おそらくは姉妹で隠れていたであろうこの2人が本当に親切にこの世界のことを教えてくれるかどうかは
俺の後ろで血だらけで微笑むマックスを見られた時点であきらめたんだがな。