9日目<早朝>
翌朝、疲れ果てて泥のように眠ったジョニーたちだったが、重い体を無理やり動かし崖路を下った。
崖を中腹ぐらいまで下ったあたりだろうか。
明らかな異変を視界に収めた一行はその歩みを止めることになる。
「おいおい…まじかよまるでゾンビのバーゲンセールだな」
「なるホドね…ここに来るまでゾンビに会わなかった理由がようやくワカッタヨ」
「ハッハー!ざまあねえな!下を覗いてみろよひき肉の山だぜ」
思い思いの感想を述べる3人を横目にジョニーは無言で上下を見返しなるほどね、と頷いた。
それはジョニーたちの歩いてきた崖のちょうど反対側…切り立った崖の側面に突き出した岩肌にぽっかり空いた
巨大な洞窟…いや裂け目というべきか。
その洞窟を始点に上向きに雷が通った後のような亀裂ができた場所…
そこには行き場を失った無数のゾンビが落ちるか落ちないかぎりぎりの場所で小さなうめき声をあげていた。
何かの拍子でか、何分かごとにゾンビが何体か落ちては、はるか下の崖の下に無数の赤い点を作っていた。
なるほど確かにひき肉の山だ。
ゾンビ肉をひき肉に例えるのがまたパンチが効いている。
「つまり…リッグたちは洞窟からこっちの道に向けて決死のジャンプ…いや飛び降りを車でしたわけか」
そうなのだ。
明らかにあの洞窟にはこちらに車がこれるような…というか人が通れそうな道は続いていない。
こちらからでは道もなくまたその洞窟のそばにいけそうなとっかかりもない。
となると車を全速力で突っ走ってこちら側にジャンプしたとしか考えられない。
そんな大冒険があったとは…言ってはいなかったが
もしかしたら暗がりの中、必死で逃げてる最中に偶然飛び降りる羽目になったのかもしれない。
でなければあの慎重そうな男が妻子を乗せた車で、一か八かの賭けをすることはないだろう。
「だがまぁ…この状態じゃぁあそこに入るのは無理じゃあねえのかぁ?」
ブルーズがもっともなことを言う。
ゾンビにみっちり覆われた入り口。
おそらくはその奥にも見えないだけで無数のゾンビがうごめいているだろう。
たとえここで入り口のゾンビを排除できたとしても途端にゾンビにまみれ調査どころではなくなる。
「そうだネ…それこそ奥にいるゾンビごと一気に排除しないとアブナッカシクて入れそうにない!」
「あぁ、土台無理だったのさ。ロスに帰るなんて夢物語だったんだ!あぁ神様…っ」
まじめに考えているであろうチャッキーとどうみても本気で神に祈ってるようには見えないエフィーをしり目に
ジョニーは少し考えがあった。
「みんなにちょっと意見を聞きたいんだが…あ~…崖の向こう側から落ちてるもんが見えるかい?」
「ゾンビならとっくに…」
「ああ違う違う…聞き方が悪かったな。あのちょろちょろ流れてる水の方だよ」
そういい指をさすジョニーの先には確かに小川でもあるのだろう。ちょろちょろとわずかながら流れる水が崖の上から
下に向けて流れ落ちているのが見えた。
「あの水をあの崖の亀裂まで引き込めないだろうか?」
「おいおいおい、ま~た素っ頓狂な事言い出しやがって。よく見ろよ、あんな量の水じゃがんばって引き込んだところで
おもちゃの小舟一隻押し流すのが精いっぱいだぞ?」
ジョニーの言いたいことを水でゾンビを押し流すことだと思ったのだろう。
先手を打ってエフィーはジョニーのいうことを代弁してみせたつもりだった。
だが、意図は違うものの的は得ていたらしい。
「そうさ。おもちゃの小舟を流してやろうぜ?」
いや正確にはおもちゃの小舟でなくともいい。
「それこそ赤ちゃんをあやすガラガラでもいい。それをいくつか吊るして水や風を利用して常に音を鳴らさせる」
「ナルホド!ゾンビはその音に引き寄せラレル…」
「そうだ。それをあの亀裂を利用して何か所にも設置する。奥にいるゾンビにもよぉく聞こえるようにな」
「作っちまえばいいのさ。全自動ゾンビ引き寄せ装置をよ」
そうと決まればもたもたしてられない。
ジョニーは勢いよく元来た道を引き返し、水の流れる場所へダッシュしていった。
それを呆然と眺めてる3人はこういった。
「ゾンビを殺す話になったとたん急に元気になりやがった…ゾンビマニアってのは皆ああなのか?イカれてるぜ」
エフィーは心底理解できないといった面持ちで、大きくため息をついて見せたのだった。




