8日目<未明その2>
ジョニーとブルーズがゾンビから逃げ出したのと時を同じくして…
似たような洞窟の中を走る二人組がいた。
「だ~から言ったんだ!左に曲がるのは反対だって!」
「ナニいってるんダ!君も賛成したじゃないか!右手を壁につきながら歩けばいつかは出口に着けるって言ったのは君の方だろう!?」
「はっ!これだから記憶力の薄いチャイニーズは困るんだ!俺は!出口につけるかも知れないってのは
眉唾だ!って言ったんだよ!」
なんて言い争いながら、軽薄そうな口の回る黒人といやに人のよさそうな中国人の二人組は流ちょうに
英語で会話しながら暗がりを突っ走っていた。
「…ってちょちょちょマテ待てマテ待て!なんか前からも地響きっていうか走ってくる音が聞こえナイカ!?エフィー!」
エフィーと呼ばれた黒人もびっくりしながらも腰の拳銃を抜き、臨戦態勢をとる。
確かに言われたようにどんどんと足音のような物が大きくなってくる。
「はさまれちまったってのかぁ…ぁあぁ…何が悲しくて男2人でゾンビに食われるなんて目に合わなきゃだめなんだ。
これだから俺はロスから離れたくなかったんだ!」
そんな泣き言を言いながらも目線は前、気配は背後に気を配りながらもその時を待つ…
だが、暗闇から現れたのはジョニーとブルーズ。その2人だった。
『ちょちょちょタンマタンマタンマ!撃つな!人間だ!』
ジョニーと中国人の2人の制止する声が重なる。
ブルーズも持っていた拳銃で衝動的にエフィーに引き金を引きかけていた。
「なんだぁ…俺たちと同じ生存者かよ…脅かしやがってぇ…」
「ファーッ〇!驚いたのはこっちもだっつーんだよ!ここがロスなら豚箱に放り込んでや…って
お前ブルーズか?ブルーズ・マクラーレン?」
「って見た顔だと思ったらエフィーか。エフィー捜査官、こんなところで再会とはねぇ」
どうやら相手の黒人とブルーズは知人だったらしい、すぐお互いの誤解は解けたようだ。
「こんなところたぁおあいにくだね。お前さんもワイフに会いに行くって警察署長をぶん殴って
出てったって聞いたぜ。まだ会えてなかったのかい?」
「あぁ…まあ色々あってな。こっちはジョニー、詳しい経緯は省くがどうやらこの事態に詳しいらしい」
そういって紹介されたジョニーはどうもと軽く会釈した。
「挨拶してもらって早速だがゾンビに追われてるんだ、こっちは危険だぞ」
「それは本当カイ?ボクらの方も追われてるんだ、だいぶ引き離したつもりではあるんだが…」
そうジョニーに受け答えしてくれたのは誠実そうな中国人。名をチャッキーと名乗った。
「チャッキー。途中抜け道とかは?」
「…なかったネ。薄暗かったから自信はないけど」
「ブルーズ。追ってきてるゾンビの数は?」
「ああ…俺も詳しい数は分からねえが、せいぜい数体ってところだぁな…俺が見た限りじゃぁだが」
ジョニーは仕方なくため息をつく。
「しょうがない。ブルーズ、俺たちの方を強行突破するしかなさそうだ。俺が落ちてきた穴があっただろ?
あそこを数十メートル這い上がれば地上に出れる。そこまで押し込むしかない」
「オイオイオイ待てよ冗談じゃないぜ!?ゾンビを強行突破するだって?自慢じゃないが俺は
ホラー映画は大の苦手なんだ!それに強行突破するったって俺たちが逃げてきた方のゾンビはどうする?
いくら距離を稼いでたっていったってチンタラやってる間に追い付かれりゃ全員オダブツだぜ?
俺はゴメンだ!」
エフィーと呼ばれた黒人はよくもまあというほどペラペラしゃべる。
もしかしたらエフィーがしゃべってる間にゾンビが追い付いてくるんじゃないかとひやひやするほどだ。
だが確かに対策はしないといけない。
「ブルーズ、エフィー…それにチャッキー君たち3人で穴まで押し込んでくれ。俺はチャッキーたちが来た方のゾンビを食い止める仕掛けをしておく」
そういってジョニーが取り出したのは降りてきた時にも使っていたロープ。
そして杭だった。
その杭を、成人男性の腰あたりの高さにゴールテープのように張り、固定する。
「そんなもんでゾンビが食い止められるのかぁ?」
疑問を投げかけてきたブルーズに、ジョニーはロープを張りながら答える。
「少なくともこのゾンビ共は生きてる人間の振動に向けて脊髄反射で動いてるだけなんだ。
あいつらにロープをくぐってくるなんて知能はない。まあ高さを変えてもう何本か張っておこう。
だいぶ時間は稼げるはずだ」
「穴まで押し込むのは分かった。だがどこまで進めばいい?ボクらじゃその
降りた穴とやらがどこにあるのか見当がつかないゾ」
そういうチャッキーに自分が持ってる松明で地面に炭を擦り付けて見せた。
「こうやって落ちてきたところの地面に炭でバツ印を付けといた。かなり大きめに書いたから
注意深く見てもらえばわかるはずだ」
「さすが抜け目ないねえ」
そんなジョニーを茶化すようにブルーズが口笛を吹く。
「まあこんだけ人数いればなんとかなるさ…気楽にいこうぜ」
ただの偶然ではあるがこうして3人もの警官に会えたことは幸運だった。
なんとなくではあるがどうにかなるかもしれない…
妙な安心感をジョニーは感じつつ、また来た道をゆっくり戻っていった・・・




