?日目
はあ…はあ…なんだってんだちくしょうめ…
男はわけも分からず息を切らせながら、それでも前に歩き続けていた。
男の名はブルーズという。
はげた頭にニヒルな笑顔が似合うナイス中年だ。
元々はロスの一角にある警察署のしがない警官だったが
むかつくことがあり上司をぶん殴ったら、警察手帳を取り上げられてしばらく謹慎してろと言い渡された。
それならばと別居中の奥さんと子供のいるシカゴにでも顔を出しに行こうと空港に向かう途中
ゾンビの大群に襲われた。
そこは警官ゆえにか何とかやり過ごし必死の思いである小さい商業ビルの中に逃げ込んだのだが
ブルーズからすれば厄日には違いなかった。
「たくよぉ~…なんだって俺はこんなについてないんだぁ…神様ってやつは自分のワイフに会いに行くのにすらケチつけるのかよぉ~…」
ぼやきつつも周囲の警戒は怠らずにいた。
落ち着いたのもつかの間。
ビルの奥から迫ってきたゾンビから逃げ出し、ビル外にある螺旋階段をおり別のビルに逃げ込もうと考えた瞬間。
目の前が真っ暗になった。
一瞬ゾンビに食われたのかと思い「ひぃぇぇっ!」なんて情けない声を上げてしまったが
周りにゾンビの気配はなく、肌に伝わるひんやりとした石の冷たさが伝わって気を取り直した。
「な、なんだってんだ…浮浪者がこっそり掘ってた洞穴にでもはまっちまったってのかぁ?」
懐からライターを取り出したブルーズは絶句した。
周り中がデコボコとした石でできた洞窟だったからだ。
広さは車一台がなんとか通れるぐらいだろうか。
息苦しさはなく、ブルーズが落ちてきたであろう天井の穴のようなものも見当たらない。
「まいったぜぇ…ついには幻覚でも見ちまってんのかおれぁ…どうせなら水着の美女とか気の利いた
もんでもみてえもんだぜ」
ゲンナリしつつも周囲を軽く散策するが、前にも先にも真っ暗な洞窟が続くばかり。
ただ一方から、ふわりと微かな風が吹きライターの炎を軽く揺らした。
「まあ…こんなところでのんびりもしてられねえ…早くシカゴに行かなきゃまたワイフにどやされちまうぜ」
と、こんな思いでただただ風の向かう方へ向かって必死で歩き続けていたわけなのだが…
1時間歩こうと2時間歩こうと出口にたどり着く気配はなく。
ライターの炎が徐々に小さくなってきても一向に変化が見えず。
むしろ洞窟が狭くなってきているかのような気分だ。
「たくよぉ~俺みてえなしがない警官になんてことさせるんだ…どこのどいつか誰でもいいから
ぶん殴ってやりてえ気分だ…」
およそ警官の言うことではないが、ゾンビに襲われた挙句よくわからないうちに遭難していたらそんな気分にもなるのだろう。
「だぁれか~!いねえか~!!」
鬱屈した気分を晴らそうととにかく叫んでみるも声は洞窟を反響するばかり。
返事など帰ってこようはずもなく。
それでもゾンビに襲われるよりはましだと割り切りブルーズはただただ先へ歩き続けた。