7日目<前半>
それは思ったよりも早く訪れた。
森近くにある水辺に向かって聞きなれたディーゼルエンジンの音がゆっくり近づいてくる。
ジョニーは目の前にある焚火に「生木」を放り込みながら、エンジン音のする方向へ顔を向けた。
「生木」…いわゆるまだ切り落としたばかりの枝などを燃やす場合
まだ切り落としたばかりのせいで水分が含まれており火が付きにくいとされている。
だが一度火がついてしまえば含まれている成分に油もあるため安定して燃え
そして煙が出る。
すなわち簡易的に狼煙を上げられるわけだ。
狼煙を見つけた人間は、誰かしらがその近くにいると考えるだろう。
道に迷った人間は、その狼煙を目印にしてジョニーの元にやってくる。
ゾンビから逃げた人間が人間のいそうな場所に逃げてくるか?と問われれば当然「YES」だ。
何故かといえば結局のところ、人間は安心感を求めているからである。
自分が逃げてきたこの場所が安全なのか。そもそもどこにいるのか。安全でないなら次どこに逃げるべきか。
すなわち安心感を得るための情報を求めて、人は人を求める。
それがジョニーのいうところの人の行動パターンなのである。
しばらく待つと車のディーゼル音がピタリと止まる。
現れたのは灰色の家族用ミニワゴンに乗った3人組だった。
その3人組を見た瞬間、ジョニーはため息をついた。
「おいおい…こりゃついてないぜ。家族連れかよ」
あからさまに残念がるジョニーを見て警戒心をにじませ、距離を保ちながら1人の男が車から出てくる。
「……すまないが、道を尋ねたいだけなんだ。必要な事さえ聞ければすぐこの場を去る」
そうジョニーに喋りかけてきた男はリッグと名乗った。
警察官の服に身を包んだ薄いひげにありありと見える参っている顔つき。
ゾンビ映画で言えば、家族のためと言い訳しつつ無駄に非情であろうと責任感に囚われて心を壊していくようなタイプだ。
こういうやつは最初はリーダーシップを発揮して頑張ってくれるが、自分の望まぬ結果に苦悩して
ヒステリックになる。
これならまだドーナツばっかり食ってるデブ警官の方がいい。
真っ先にゾンビに食われてくれるからな。
警戒心を解かず車から出てこない2人はおそらく妻と息子なんだろう。
水辺をはさんでジョニーとは対峙する形になっている。
おそらくこの警戒心を解くのは不可能だろう。
とはいえ女子供とヒステリックな警官相手でもジョニーにとっても大事な情報源だ。
「いいぜ…取引だ。ゾンビからしばらく身を隠せる場所を教えてやる。
代わりにお前らの車を見せてくれ」