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5日目


不思議な一日だった。

気づけば一瞬だったような、それでいてとてつもなく長かったような…


そんな日の翌日。


全身が筋肉痛になったままジョニーはゆっくり目を開いた。

覗き込む姫騎士が涙を溜めながら何か叫んでるが、今一寝起きの頭では何を言ってるのか理解ができない。

でも何度も叫ぶように連呼してた「生きていた」という一言だけは理解できた。


そうか…ようやくあのクソったれなゾンビ共を始末して…

そのまま気が抜けて寝ちまってたわけか。


寝起きがゾンビの集団に囲まれたシーンでなくてよかったなと安堵しつつジョニーはゆっくり身を起こす。

どうやらジョニーは避難通路の先にあった山麓の森の中…避難民たちがひしめき合うキャンプのような場所に運ばれていたらしい。

日はすでに真上にまで上りきっており、すでに昼過ぎであることを伺わせた。


「よかった…命の恩人が一人も助けられなければどうしようかと…」


涙をボロボロ流す姫騎士はまるで小娘のようだった。

そこでようやくジョニーは口を開く。


「他の…オマコンやジタンやマックス…俺の仲間たちは…どうなった?」

どうした?ではなく、どうなった?とあえて聞いた。


だが想像していたような詳細な答えはなく、行方不明だということで詳しい事は分からなかった。


ジタンは避難通路で姫騎士と別れた後。

姫騎士と避難民たちが、戻ってくる頃には破壊された扉を残していなくなっていた。


オマコンとマックスも後続から追ってくることもなく。


まだ火のくすぶる城内では、探索もままならないらしく

結局最後にどこにいたのかすら分からないとのことだった。


それを聞いたジョニーはなんとなく全員死んだんだろうなと妙に納得していた。

薄情だとは思うなかれ。

ゾンビ映画でも基本的にトラブルが起きるたびに死者が出る。

死人を出しても、仲間がゾンビと化してもそれでも生存者は前に進まなくてはいけない。

あいつらは最後まで自分の責務を全うしたのだ。

悔いを残すようなことはきっとなかった…なんとなくだがそう感じていた。


「さぁて…じゃあ俺もそろそろ出発するかな…」


そう言いふらつきながら歩きだそうとするジョニーを姫騎士は驚きながら掴み止めた。


「こ、こんな体でどこに行く気だ?!」


涙を浮かべながら見放されそうな子猫のような顔を向けてくる姫騎士の頭をポンと叩いた後

ジョニーはゆっくり姫騎士を引き離す。


「そりゃあ…当然ゾンビを倒しにさ」

「バカなことを言うな!そんなフラフラの体で…っゾンビはあなたたちのおかげでもうこの周辺にはいない!」

「この周辺には…だろ?おかげでだいたい頭の出来が悪い俺にも分かってきた…このゾンビ劇の

本当の問題点ってやつがさ…」

人差し指を左右に振り…ゆっくり自分の頭の中を整理しながらジョニーは思考を紡ぎだす。


「姫騎士の嬢ちゃんはゾンビの事を知っていた…にも関わらずその対処の方法に詳しかったり

今回のような事態に陥った形跡はなかった…今回みたいなゾンビの大群に毎度襲われていたなら

とっくに全滅しているものな?」


「ああ…普通…ゾンビはダンジョンの奥地にしか現れないし、人間のゾンビしかいないはずで…

しかもゾンビ化が感染なんて聞いたこともなかった…」


そう。この世界のゾンビってのはゲームとかでいうモンスターの一種族のようなものなのだろう。

それが突然変異したかの如く、謎の大増殖をしてしまった。


そこでこの異世界に来る途中、オマコンたちと話した会話を思い出したのだ。

「僕たちが異世界に来たみたいに、ほかの人たちもこっちの世界に来てるかもしれないね」なんて

最初は一笑に付したもんだ。


だが。俺たちが初めてこの世界に来た異世界人ではなく…

いたのだ。おそらくはゾンビに襲われてしまった不運な人間が。


そして本当に不運だったのは、この異世界のルールにのっとり襲われて死ぬだけではなく…

俺たちの世界でのゾンビ映画のようなルールが適用されて感染してしまったのだ!


「バカげた話だが、そう考えると割とバカにはできなくてな…辻褄はあってくる」


仮にこれを『初感染ゾンビ』とでも呼ぼうか。

この『初感染ゾンビ』は俺たちの世界のゾンビと同じような行動をとるわけだ。

すなわち、生者を襲いゾンビを増やす。

基本的に俺たちの世界のゾンビは、人間を襲う。

同種を求めるからなのか、背丈などが近いため襲いやすいからなのか。

少なくとも俺たちの世界のゾンビ映画ではそうだった。


そしてここでも不幸が起こる。

『初感染ゾンビ』…またはそれに感染させられたゾンビ共は手近な人型のモンスター…

ゴブリンやオーク…しまいにはあんな超大型ゾンビまで襲いだし…感染は一気に拡大し

獲物を求めてあふれだしたのだ。

そう考えればこのバカ騒ぎに一本筋が通る。


鶏が先か、卵が先かなんて言葉があるがつまりは

ゾンビから武装バンで逃げた先が異世界だった…ではなく

異世界と繋がったからゾンビが発生して武装バンで逃げる羽目になった、だったのだ。


姫騎士はここまでのジョニーの話を聞いて絶句していた。


それはそうだろう。異世界だのといった話は、置いとくとしても

いつ俺たちの世界から何億という数のゾンビが溢れ攻めてくるかもしれないのだ。

その現実を突きつけられてしまったら、周囲にゾンビはいなくなったのでめでたしめでたしとは

いかないだろう。


それは女子供たちが絶望するに十分な情報だった。


「つまりはだ…根本的にどうやらゾンビってやつを絶滅させないといけないらしい…

こっちの世界でも。俺たちのあっちの世界でも…さ?」

指を左右に振りながら、姫騎士と自分を交互に指さす。


「だったらじっとなんてしてられねえ。チェーンソーも武装バンももう使えねえ、仲間もいねえとなれば

ゾンビを倒す準備をしないとな」

「だ、だったら!なおさらここに残ってもいいじゃないか…!あてもなく彷徨うより…私たちと一緒に…」

心細いのだろう。必死で声を絞り出す姫騎士はひどくか細く見えた。

だがここで抱きしめてやる役は、あいにくここにはいない。


「なあに…行く当てならある。次は…」

白い歯をニヤリと見せて俺は嘯いてやった。

「ハリウッドさ」ってね。


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