4日目<マックス>
何十体のゾンビの首を斬り飛ばしただろうか
そんなことを考えながらもマックスの腕は近づいてくるゾンビたちの首を着実に切り裂いていた。
だが度重なる襲撃にマックス愛用の包丁はべっとりと血塗られ
その切れ味は豚肩肉を切るのにすら手間取るほどにその切れ味を落としていた。
それでも肉の解体を生業としていたマックスの技と力でなんとかゾンビたちの進行をなんとか食い止めていた。
「こちらです!走りましょう!」
自分を呼びに来たという小柄の若い兵士がマックスに声をかける。
ゾンビが進みあぐねた隙を見てマックスも身をひるがえし引く。
追い付かれたら先頭のゾンビの首を飛ばしゾンビの集団にその体を蹴り飛ばす。
こういったヒットアンドアウェイを繰り返しなんとかマックスと数人の兵士たちは
地下にある宝物庫まで撤退する事が出来た。
宝物庫に逃げ込んだマックスたちはすかさず入り口の封鎖にかかる。
宝箱にぎっしり詰めた金貨を土台に金の鏡台や椅子を贅沢に立てかける。
入り口の封鎖が終わるまでそれなりの時間がかかったが
ゾンビが扉の前に来るまでに時間もあり、なんとか封鎖することができた。
「これだけ…重量があれば…しばらくは…」
若い兵士たち数人が息を切らしながら言うセリフに無言でうなずくマックス。
うず高く積まれた宝の山は今は扉をふさぐ重厚なバリケードへとなっていた。
贅沢をいえば扉を溶接できればよかったが、いくら宝物庫の扉とはいえ
木作りの扉に金具の縁がついてるような簡素なものだ。
たとえ溶接できたとしても現状大差はないかもしれない。
文字通り一息ついたマックスはすぐあたりを見回し退路を確認する。
宝物庫に隠されていた避難通路の隠し扉は隠しなだけあり表面が岩で偽装された頑丈そうなものだった。
いくら宝物庫の表の扉を封鎖してもいずれ突破される。
こちらの隠し通路こそが最後の手段…最後の砦なのだ。
それが突破された時こそ、この避難計画の失敗を意味する。
だからこそ、この宝物庫でなんとしてでもゾンビたちを食い止めたかった。
なんとか家族を守れるかもしれない…その安堵からだろう。
兵士たちは満足そうな笑顔を向けあっていた。
マックスとしてもジョニーたちのような…同じ苦難を乗り越えようとする若い同志たちに
なんとはない感涙を覚えていた。
まさか1人真っ暗なリビングでピザをほおばりながらゾンビ映画に熱狂していた自分が
こんな若い人間と混じって、まさかのゾンビ退治を行っているのだ。
言葉にできない不思議な気分だった。
そんな風に考えてるうちに若い兵士たちが一様にうずくまり吐き出した。
生の肉の腐臭をかぎ続けてきたのだ。無理もない…が様子がおかしい。
ヒッヒッとしゃっくりのような動作をしながら目がうつろになり焦点が合わなくなっている。
激しく震えながらも倒れるどころかゆっくり体を上部へそらしより激しく引くつく。
そんな…そんなことがあるわけがない。
若い兵士たちは自分の後ろで常に守ってきた。
かすり傷一つ…傷?いや待て…
そもそも「この世界のゾンビ」たちは傷や噛まれて感染する種類なのか?
たとえ別の感染経路があったとしてもこの若い兵士たちならそれを知っているはず…
…本当に知っていたのか?もし知っていたのなら何かしらの助言があったはず…
前提として突然プロフェッショナルだと名乗る見知らぬ人間が現れたのを
すんなり信じるものなのか…?
そうだ、姫騎士の娘さんがゾンビという単語を使っていた。
だから知っているはずだと自分は勘違いしていたのではないか?
「このゾンビの感染源」は?
ドクンッ
マックスは自分の中からまるで別の鼓動のような胎動と煮えるような熱さを感じた。
組織が急速に壊死しているであろうその胸を握りしめ脂汗を流しながらようやく理解した。
べっとりとした包丁。赤く染まった自分の体。兵士たちの口元にこびりついた飛び散ってついたであろう血。
このゾンビは血液で感染する。