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4日目<ジタン>

オマコンが駆け出していく背中をしばし見送った後、ジタンは避難通路の先の先頭集団に向けて走った。


「私だけサボるわけにもいかないからね…」


誰ともなくジタンは独り言のようにつぶやく。あるいは決意だったかもしれない。


避難通路は城の地下2階宝物庫からゆったりとした細い下坂のような通路だった。

位置的に城の後方にあった湖のすぐ横を掘って作ったのだろう。

よく浸水せずに通路の体を保っているなと感心する。


地下のためかジメっとした湿度が水滴となり地面を流れている。

ジタンが今走り抜けているのはそういった水を排水する横の溝のような部分だった。


パシャパシャと音をたてながらも先頭集団に追い付くにはさほど時間はかからなかった。


何故なら…先頭が道の半ば半分で止まってしまっていたせいだ。

「これは…何があったんだい?」


先頭集団にいたはずの先導する兵士の他、比較的元気のある女子供たちが一様にうずくまり泣いている。

驚きながらも先頭で震えている女子供に極力優しく声をかける。


「道が…水で…」


そうつぶやく女性の目の先には確かに通路が水で浸されていた。

目の前ではせいぜい靴が濡れるぐらいの水たまりだが問題はその先…通路の先が水で浸水している事だ。

「これは…まさか湖の水がこちらに漏れてきているのか…?」

ジタンの背筋にゾワっとした悪寒が走る。

もし湖とどこかでつながっていたとしたら…そこからゾンビがこちらに1体でも紛れ込んでくれば…


城からのゾンビに追い付かれるまでもなく避難民たちは全滅する。


おそらく同じことを考えたのだろう。

先頭にいるはずの姫騎士の姿がない。


「姫騎士様は…皆が止めるのも聞かずに先へ…」


確かめに行ったのだ。この先が安全かどうか。単独で。

「仕方のないお姫様だ…!」

それを聞くや否やシタンも水がたまった通路の先に飛び込んだ。


水の深さ自体はせいぜいジタンの腰ぐらいの深さまでだったのは不幸中の幸いといえる。

これなら避難民たちも渡れなくはない。

ただ、薄暗い地下通路にあって薄汚れたその水質は足元が黒く濁っていた。

水温も低く、避難に時間をかければ体力が削られる。

恐怖におびえた人々にここを素早くわたれというのは酷だろうし、何よりも

この足元にゾンビが潜んでいない保証はない。


足早く急ぐジタンの先にようやく姫騎士の姿を見つける。

見た感じはゾンビになってるわけでも怪我をしているわけでもなさそうで安心したが

その顔は悲壮感にあふれていた…

「…何があったんだい?」

避難民の先頭集団にも問いかけたのとほぼ同じトーンで姫騎士に問いかけたジタンだがその先に見つけたものでようやく理解ができた。


扉が水没しているのだ。


通路は緩やかな下り斜面になっていた…扉はそのためか半分以上が水没してしまっていた。


「この…扉が開けば…開かないと…皆が…逃げられなくて…それで…っ」

息も絶え絶えにそうしゃべる姫騎士の声を聴きながらジタンは頭を回転させていた。


脱出するための扉が下付き…ということは、水を逃がすことができるかもしれない。

しかし大量にたまった水の圧により扉を開けることは困難だ。


あわよくば扉をあけられたとしても大量の水が流れ込む勢いですぐに閉じてしまうだろう。

後方に人手を集めに戻っても時間のロスと、そもそも避難民の女子供の力で扉を開ける事ができるだろうか?


顎に手を当て思案していたジタンだが覚悟を決めたように無言でうなずいた後、姫騎士にこう言った。


「…ぼくがなんとかこの扉をこじ開ける…君にはその手伝いをしてほしい」

並々ならぬジタンの迫力に気おされながら姫騎士は力強く頷いて見せた…


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