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あたま数の変動

警備兵と対峙することになった、サノイたち。

しかし、実際にはより多くの兵が隠れていた。


そこで、ラナンが取った行動とは?

サノイが取った行動とは?

 無鉄砲イコール馬鹿なのか。


 天才と馬鹿は、本当に紙一重なのか。


 あるいは、天才とは馬鹿で無鉄砲で……得体が知れないものなのか。


「ラナ、ちょっと暴れすぎじゃないですか?」

「どうせなら、いっきに片付けようと思ってさ」

ラナは、ひとりでどんどん奥へと入っていった。すると、次々に自分の持ち場を警備していた兵士たちが顔を出してきた。一体何人出てきたのであろうか。とにかく、結構な数であった。これでは、はじめに出した個人の受け持ち人数も大きく変動する。ラナのそれは、そのことを理解しての行動なのだろうか。

 あくまでもここは、「城」ではない。単なる個人の屋敷だ。それにも関わらずこれだけの兵が居るとは。ここの家主はかなりの金持ちのようだ。屋敷の広さからも伺い知れたが、人を雇うにはまた、それなりの資金が必要となってくる。それをまかなうことがここでは可能なのだ。

(至るところで、飢えるものが増えているという御時勢なのに)

私は内心で毒づいた。この家主がいくらか貧しい者たちに寄付でもすれば、どれだけの民が救われるであろうか。

「ラ、ラナっ……」

リオの動きが、一瞬止まったのが見えた。何事かと思って、私は兵士と剣を交えつつ、一歩、また一歩と後退し、ラナの動きが見える位置まで下がった。すると、にこにこしながら、奥からこちらへと戻ってくるラナの姿を捉えることができた。そして、ラナのすぐ後ろには、かなりの兵士が後を追ってやって来ている。もはや、人数を数えることも出来ないほどだ。

「連れてきたぞ」

「いや、見ればわかりますけど……」

リオと私は、苦笑していた。あまりにも数が多すぎるのだ。たったの三人で、五十は軽く超すほど居る兵士たちを、捌けるかどうか。

 私は稀有な存在のひとり、魔術士だから、やろうと思えば一瞬で片をつけられるが、難儀を持ち込んできた張本人でもあり、私たちのリーダーでもあるラナが魔術をあまり好まない手前、それはできるだけ避けたい。魔術はあくまでも最終手段だ。今はまだ、そこまでの窮地には立たされていないと私は判断した。

 ひとり、ひとり分の働きをするのではなく、何十人分もの働きをすればよいのだ。

「ラナ、いくらなんでも多すぎませんか?」

リオはため息交じりの笑みを浮かべながらも、少しずつすでに兵士を切り捨てていた。致命傷には至らない傷を負わせていく。相手を決して殺してはならないというのは、ラナがもっとも口をすっぱくして言い続けているこだわりだ。ラナに出会うまで、敵ならばためらいなく斬り捨ててきた私だが、彼と旅をはじめてからは、誰ひとりとして命を奪ってはいない。

 私たちはこのように襲い掛かられることが多い。今回のように、自らが事を荒げて騒ぎにしたことはそうないが、私たちはレジスタンス。フロート国王から排除を命令された兵士が、至るところから攻撃をしかけてくるのだ。

 相手は本気で私たちの命を狙っている。だが、それでもラナは相手の命を奪うなと言う。たとえ自分が殺されるようなことになろうとも、ひとの命だけは奪ってはならないと。

「そんなことないって。平気だよ」

今回だって例外ではない。ひとを殺してはならない状況下で私たちは動かなければならない。ラナに忠誠を誓った身、ラナの指示に従う義務がある。

 ひとりも死なせずにこの場を鎮める方法を、私は考えた。

「ラナ……」

私が呼びかけると、ラナは私の方を向いた。

「頭数は、これでいくらになった? 六人ではすまないであろう?」

「えっ!? え~~~っと……」

ラナは走る足をいきなり止めて、後ろを振り返ろうとした。彼を追って現れた兵士の数を、生真面目にも数えようとしたのだろう。その瞬間。ラナまであと少しと迫っていた兵士の多くが、ラナの動きに対応できず、ラナにそのままぶつかった。


 追突事故勃発だ。


「おわっ!?」

そして、ラナを含めて十数人が倒れた。ラナは兵士の山の下敷きだ。運動神経が鈍いものであったならば、間違いなく今ので圧死していたであろう。その点ラナは、運動神経が抜群だ。何とかして圧死は免れるに違いない。計算どおりだ。

「これで、二十は兵の数が減ったな。よし、やる気が出てきた」

たったの一瞬で数を減らした私は、満足げに笑みを浮かべていた。

「サノ……」

リオは依然として苦笑していたが、あえて気にしないことにした。

このような事態にしたラナに、少しぐらい責任をとらせても罰は当たらないと思ったのだ。それに、ラナはかなりの小柄だが、これくらいで傷を負うようなヘマをしないことぐらいは、分かっている。ラナの運動神経、反射神経は私よりもリオよりも、数段優れている。

「さて、ひとり二十人ほどで足りるかな」

私とリオは、背中合わせに立った。そして、あたりを一望する。ラナのいる方の通路は、ラナにぶつかって転倒した兵士の山のおかげで、敵の侵入を食い止められている。通路がふさがっている合間に、いっきにこの別方向から来る兵士を、片付けようと思った。

 リオは剣を改めて握りなおした。やる気をこめているのだろう。私もまた、柄を握る手に力をこめた。

「では、行きますか」

「そうだな」


 視界の端で、兵士の山を背負いながらうごめくラナの姿が見えた。



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