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馬鹿が真か?

ある部屋から、光がこぼれている。

誰かが居るのは、明白。

そこは、避けて通るべき。


しかし、ラナはその部屋に「食料」があると察知。

そんなラナが取った行動とは……?

 真相が掴めない。


 謎めく少年……それが、ラナという少年。


「なぁなぁ、いいにおいがする!」

暗がりの中、手探りで階段をゆっくりと下りると、大きな廊下にたどり着いた。いくつもの部屋があるようだったが、その中のある一室からは光が漏れていた。ドアが半開きになっているようだ。このいい香りはおそらくそこからだと思う。何やら料理の匂いのにおいがするところから考えると、そこは厨房のようだ。

「あそこ、いってみようぜ!」

私たちの意見を全く聞かずにひとり出て行こうとしたラナを、リオが後ろから服をひっぱり強行手段で止めた。動きを止められたラナは、足をばたつかせている。これではまるで、小さな子どもとその保護者だ。

 リオは、私のふたつ下。現在二十歳である。ラナとはたったの二歳違いということになるのだが、彼はその年の差以上に大人びたところがあった。ラナとリオは、傍から見ると年の離れた兄弟という感じがする。

「ラナ、どうみてもあそこには人がいますよ。やめましょう」

「どうして?」

ラナは、かわらしく首を傾げていた。もう十八歳だというのにこの男は、子ども、もしくは女のような容貌をしている。幼い容貌かつ小さな背丈であることは、本人が気にしていることなので、口に出しては言わないが……。本当に小さかった。それに加えてこの性格だ。女、子どもと間違えられても文句は言えまい。

「どうしてって……。僕たちが潜入していることがばれてしまうでしょう?」

もしかするとすでにばれているのかもしれないが、先ほどの警備兵に遭遇して以来、誰とも会わなかったし、この屋敷の中も静寂しきっているため、その可能性は低いと考えてもよかった。先ほど出くわした男は、依然としてのびているのだろう。

「バレてもいいさ。それはそれで、なんか楽しそうじゃん」

あっけらかんとそういいのけてしまうラナを前に、リオは嘆息しながら後を続けた。

「ラナ……僕たちは食べ物を盗みに来たわけではないでしょう?」

それを聞いて、ラナは口をとがらせた。

「そうだけどさぁ。腹減っちゃったよ、俺」

言葉と同時に、グ~……っと、情けない音が暗い廊下に響いた。だが、私も油断すればラナのように愚かな音を出してしまいそうで怖かった。仲間の前だとは言え、元皇子である私の自尊心がそれを許さなかった。その点ラナにはそういった厄介な自尊心は全くない。そこは羨ましい点であった。矜持高い私には、到底真似できない芸当である。

「誰かそこにいるのか!?」

予想以上に大きかったラナの腹の音で、部屋の中にいた誰かに私たちの存在がばれかけてしまった。私たちはすぐさま気配を消すと、一歩二歩と、静かに後退した。幸いなことに、廊下は闇。こうして大人しく後ずされば、私たちの姿はたちまち闇の中へと身を隠すことができた。

「まずいですね。早く先に行きましょう……って、ラナ!?」

リオが先を急ごうと私たちに話を持ちかけてきたというのに、何を思ったのか、ラナは涼しい顔をしてその厨房らしき部屋に近づいていってしまった。私とリオは咄嗟に顔を見合わせると、ラナをひきずり戻そうとした。しかしラナはすでに、部屋の中に入りかけてしまっていた。


 ようするに……間に合わなかったのだ。


「何者だ! 侵入者か!?」

部屋の中からは威勢のよい、警戒心丸出しの男の声が聞こえてきた。

「あのさ、俺腹減っちゃって……何か、食ってもいいか?」

ラナは、時々私たちの思考をはるかに凌駕する行動をとる。何を考えているのか、想像もつかない。

「だから、お前は誰だ!」

私とリオは部屋には入らずに、廊下で状況を見守っていた。もしも乱闘などというようなことになれば参戦するつもりが、それまでは侵入者はラナ一人という風に、相手に思わせておこうと思ったのだ。

 ラナは一見子どもだ。ラナだけならば、子どもが腹を空かせて屋敷に彷徨いこんできたということで始末をつけられるかもしれない。だが、私とリオはどう見ても大人。身体つきだってしっかりしている。私たち大人二人組みは、「迷子になった」では済まされまい。そのため、下手に姿を見せれば事を荒立てる可能性があった。

 ただ、単に面倒なことに巻き込まれるのはごめんだという意識が働いたことも、否定はできない。私とリオは、静かに部屋に面する壁に背中を這わせると、聞き耳を立てるべく、部屋から聞こえてくる声や物音に耳を傾けた。

「俺か? 俺はラナって言うんだ。ちょっとこの屋敷から金をもらいに来た」

私は、がっくりと肩を落とした。どこの世界に、堂々と盗みに来たと宣言する泥棒がいるんだ。リオも、さすがにこのことには苦笑していた。

「まぁ、サノ。ラナがすることにいちいち驚いていたら、身が持ちませんよ」

本当にその通りだった。この男とこのまま生活を共にするならば、これくらいのこと、軽く流せるくらいの心持を持たねばならないようであった。

「お前はバカか!?」

「いや、ラナだ」

はじめは苦笑していたリオも、ふたりのやりとりを聞いているうちに、顔の表情が和らいできた。そして、今は会話を聞きながら普通に笑っている。順応能力が高いというのかなんというか。私には、容易にできないことであった。

 ラナの馬鹿正直ともいえる泥棒宣言を、厨房の男たちは重々しく捉えてはいなかったらしい。子どもの茶番だとでも思ってくれたのだろう。

「お前のようなガキと、付き合ってる時間はないんだよ」

どうやらここは厨房で間違いないようだ。ジューっという鍋で何かを炒めている音、小麦と水を混ぜ合わせたようなものを叩きつけるような音が聞こえてくる。そして、パンを焼いているのだろう。香ばしい匂いが扉の隙間から伝わってくる。

 厨房の中に男は……今確認できる限りでは、三人居る。隙間から時折中の者にばれないよう、部屋の中を様子見しているのだが、ラナの相手をしている男は、忙しそうに手を動かしながらラナに怒声をあげていた。

「あのさ、俺腹減ったんだ」

男の話など、ラナはまるで聞いていない。彼は、どんなときでも自分のペースで話を進める男だった。

 私とラナが初めて会ったのが、三年前の例の戦場だったわけなのだが、その時もラナは自分ひとりで話を進めていた。戦い方も、自分中心的な男だ。とにかく、ひとりで突っ走る性分らしく、リオがいなければラナの暴走は永久に止められないのではと思う。

(保護者と子ども……。もしくは、飼い主と動物?)

とにかく、私の中ではラナという男の評価は微妙なものであった。どうしてこのような男に命を助けられたのか、最近では嘆きたくもなる。ラナがこのような人間であるとあの時見抜いていれば、私は彼に忠誠を誓ったりはしなかったかもしれない。


 はっきり言って、彼と私とでは、性格が正反対だった。



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