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絶対君主

科学技術の滅びた世界。

そこで生きる「サノイ」たちの常識。


そして、絶対的力を誇る「フロート」とは。

 私は、歴史を修正しようとしていた。


 ※


 時は西暦七一一八年。三〇世紀頃まで栄えていた科学は、核戦争により衰退し、世界が新たに生まれ変わると共に、「魔術」を扱える稀有な存在が生まれはじめるようになった。

 攻撃的な魔術を扱う「黒魔術士」。治癒などのサポート的魔術を扱う「白魔術士」。そして、黒と白双方の力を併せ持つ「神子」と、三種類の魔術士の存在が確認されている。


 レイアスとは、この「神子」のみによって編成された魔術士部隊なのだ。ゆえに、レイアスは絶対的な力を誇っているのだ。


 一般人が魔術士、それも神子に太刀打ちする術は皆無に等しい。何人もの住民が武器を持って束になって抗おうとも、神子がひと言「炎」と唱えれば、それで村人全員を火の海に陥れさせることができる。それゆえに、フロートの権勢は揺るがないのだ。誰も抵抗することができないからだ。たとえ、抵抗する意志を持ったとしても、その絶対的力を目の当たりにすれば、すぐに失意してしまう。それは、仕方のない姿である。


レイアスを強化しつつある近年、フロートの王政、圧政は、より確固たるものとなっていった。誰も、反旗を翻そうとはしなくなっていく。なぜならば、それが無駄なことだと悟ってしまっているからだ。フロートに盾つくということは、死を意味しているに等しいと、嫌でも教育されていく。認識が広まっていく。犠牲者の数は、それだけフロートの力の誇示へと繋がっていった。


 貧しい村や国で、神子が生まれることもある。


 そのような神子さえもレイアスに志願するのはなぜなのか。


 なぜ神子は皆、フロート側に就くのか。


 それは、常識では考えられないほどの膨大な俸禄を与えられるからだ。フロート側に就くだけで、稀に戦場にかり出されるだけで、地位も名誉も手に入れることができるのだ。何もかもが思いのまま。反乱を起こすべく立ち上がり、自らが王となるよりも、レイアスとしてその力を遺憾なく発揮したほうが、結果的に得られる儲けが多くなるよう仕組まれている。だからこそ、神子はフロートにつく。レイアスに志願するのだ。


 そして次に力を持つ黒魔術士。彼らは「悪魔」と罵られ、迫害され続けている。

 黒き髪、黒き瞳が不吉だと思われているのだろう。生まれたときからそういう徹底がフロートによって施されてきた。それゆえに、彼らは国から追われる身となっている。


 しかし、レイアスに対抗し得る力を持っている黒魔術士だ。味方にして戦おうとはしないものなのだろうかと考えたことがある。その結論はこうだ。黒魔術士を味方につけ国に盾つくよりも、黒魔術士を捕らえて国から報酬をもらう方が利口だと、おそらく国民は思っているのだ。


 一方。白魔術士だ。先にも述べたようにサポート系の力しか持ち合わせてはいない。ゆえに、国王からも「脅威」とは認識されておらず、何の束縛もされていない。そのため、各地に白魔術士は存在しており、たいていが医者として生きている。


 ゆえに、フロートの力は絶対的だった。フロートに逆らう国、村、人々は全て迫害され、滅ぼされていった。


 私の母国もその例外ではない。フロートに敵対する最大国であったのだが、幾度もの戦争を経て、とうとうフロートの支配下とされてしまった。

 フロートにはもはや敵なし。それをいいことに、フロート国王はレイアスとラバースを用いて、国中から穀物や財を巻き上げ続けていた。

 そのような圧政により、当然のことながら、国のいたるところで飢えるものが増えた。税を払えずに命を絶つものも、後を絶たない。それでもなお、国に対して抵抗するものは現れなかった。


 それだけ絶対的な力を持っていたのだ、フロートは……。


 だがしかし、そんな中で反旗を翻すものがとうとう現れたのだ。それも、自分の、フロートの手中からだ。灯台もと暗しとはこのことだ。


 魔力を持たない、武器勢力のラバースに属していた「ラナ」が、何をきっかけにしたのかは知らないが、唐突に隊長を辞し、そのままラバースさえも去ったのだ。ラナのことを心から慕っていた「リオ」もまた、そのとき同時にラバースを去った。そして間もなくふたりはレジスタンス「アース」を立ち上げた。レジスタンス、つまり反政府軍組織だ。

 そのことを聞きつけた私は、ラナに従う道を選んだ。ラナの立ち上げたレジスタンスに、私が参加しない理由はなかったからだ。


 私は十九のときから世界中を歩いて回っていた為、フロートの圧制により飢える民を数え切れないほど目の当たりにしてきた。そして、自分ひとりの力では何もできないことも思い知らされている。だからと  いって、このまま放っておきたくもなかったし、私の愛する祖国、クライアントもいつかこの手で取り戻したいと心の中では常に思っていた。そんな胸中の私に届いたラナの反抗は、私の闘志に火を灯した。


 こうして、ラナを隊長とするレジスタンス「アース」が結成されたわけなのだが、未だ人員はラナを入れて三人。金銭が乏しい私たちは毎日野宿を繰り返し、食糧難で山を駆け巡る。食べられそうな山菜を食べてみたり、川で魚を採ったりと、そのようなのんきな旅を続けているのだ。人員が少ないためか、ラナは王都に近寄ろうともしていない。王都フロートから遠く離れた山道を、延々と歩き続けていた。


 そうして今日の出来事。


 私はこの頃、本当にラナについていって良いものなのかと、疑問を抱くようになってきていた。



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