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仲間意識

金庫の扉は鍵がなければ開かない。

鍵を探して走り出すレジスタンス一行。

途中、リーダーのラナンが突如倒れてしまい……?

 仲間と呼べる存在。


 それを私は、得たことがあったのだろうか。


 クライアントで皇子を務め、軍師として兵を率いていた。


 しかし、「仲間意識」は特別になかった。


「なぁなぁ。急にどうして行く気になったんだ? それに、俺の身長が何?」


 ラナは、とにかくしつこかった。私が相手にしないようにどんどん奥に向かって歩いていくので、歩幅の狭いラナは、軽くジョギングをするようなペースで私の横を並走していた。


「知らん」


 それ以上突っ込むな。私は、祈るような気持ちで歩いていった。そこへ、後ろからようやくリオが追いついてきた。


「サノ……ちょっとペースが速いんじゃないですか?」


 リオもまた、しつこかった。どうして私がラナを振り払おうと早足にしているのか分かっているくせに、わざとそのようなことを言ってくる。私の反応を見て、楽しんでいるのであろう。その証拠に、「ペースが速い」という割には、息ひとつ乱れておらず、汗さえかいていない。余裕がある証拠だ。私は、あからさまに溜息をついた。

 このふたりは、絶対に「最凶」コンビだと思った。このようなふたりがリーダーをしていたという、ラバースDクラスの者たちのことが、なんだか哀れに思えてくる。一体どんな日常を送っていたのだろうか。そして私は、どうしてこのような者たちに敗北を喫したのだろうか。


「サノ~……俺、疲れた」


バタッ……。


 ラナの言葉が途切れると同時に、ラナが視界から消え、さらにラナの足音までもが消えた。私は、どうしたのかと速度をゆるめ、後ろを振り向いた。すると、廊下に倒れているラナと、それをじっと眺めているリオの姿があった。


「ラナっ!?」


 私も慌ててラナのところまで戻った。まさか、倒れているとは思いもしなかった。


「大丈夫か!? ラナ、しっかりしろ!」


 いきなり倒れるものだから、脳の血管が切れたとか、心臓発作を起こしたのかなど、とにかく心配した。しかし、血相を変えてあたふたしている私の傍らで、リオはのんびりと構えている。ただ単に、眺めているだけで、何の対処もしようとはしていなかった。


「リオ……お前は心配じゃないのか!?」


 あまりにも冷たいリオの態度をみて、私はついにカッとなった。しかし、リオの態度は変わらない。それを見て私は、リオの胸座を右腕で掴み上げた。私とほとんど背丈の変わらない銀髪銀目のリオ。リオは、涼しい目で私を見据えている。


「心配? 別に……心配じゃないですよ」

「なっ……」


 私は思わず手をあげたくなるほどの怒りを感じた。仲間が倒れたというのに、何故そのようなことを平気で言える?

 ラナは確かに問題児だ。だが、私たちの大事な仲間ではないのか? 私は、リオの胸倉を掴む力を緩めると、リオから視線をはずした。

 そんな様子を見て、リオは嘆息していた。それで、さらに私の怒りのボルテージは上がっていった。


「リオ、どうしてラナを心配しない!?」

「だって…………寝ているだけですもの。ラナ」

「だから…………は?」


 リオの落ち着いた言葉は、私の中で処理しきれなかった。しばらく何も考えることができなくなり、私はリオの目をただじっと見ていた。


「サノ……あなた相当お腹が減って目がまわっているんじゃないですか? よく見てくださいよ。息も脈も正常です。これはただ、眠っているだけですよ」


 そう言われて私は、ラナの隣に屈みこんだ。注意深くラナを観察してみる。すると、確かに安定した呼吸をしていた。とりあえずほっとした私は、一気に力が抜けた。


「…………本当だ」


 リオは優しく笑うと、私の隣に屈んだ。そして、ラナの体をゆっくりと起こすと、私にラナをもたれさせた。体を動かしたというのに、まったく起きようとする気配はなかった。


「サノ、ラナを背負いますから手伝ってください」


 リオは背を私に向けて屈んでいたが、私は首をふった。


「いや、私が背負おう。リオ、その…………すまなかった」


 自分が恥ずかしい。仲間だと考えていた私のほうが、その仲間のことをちゃんと考えていなかったのだから。リオのことを、一方的に悪いと決め付けてしまった。


 それなのに、リオは少しも私を怒ろうとはしなかった。


「サノ。あなたが仲間になってくださって、本当によかったです。ラナのことを、こころから大事に思ってくださっていると、よくわかりました」


 リオは怒るどころか、ずっと優しい笑みを浮かべていた。


「あなたよりも、僕のほうがラナと長く月日を共にしているんです。ラナのことがサノよりもよく見えることは、当たり前ですよ」


 それでもやはり私は自分が許せなかった。その様子を悟ったリオは、困ったというような顔をしていた。


「大事だぞ~……ふたりとも」

「「えっ?」」


 ラナが突然声をあげた。起きていたのか? と思ったのだが……。


「パンには牛乳だぁ~…………むにゃ」


 私とリオは、顔を見合わせて笑っていた。なんだか、この男のことで本気で悩むことは、この世で何をすることよりも無駄なような気さえしてきた。けれど、そのおかげで私の気持ちも楽になった。


「リオ、私が背負う。手伝ってくれ」


 くすくすと笑いながら、リオはラナを再び持ち上げた。


「わかりました。では、お願いしますね」


 そして、リーダーが居眠りという異常事態発生にもかかわらず、私たちは金庫の鍵を見つけるために、歩き出した。



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