開かない金庫
警備兵を倒したレジスタンス三人組。
しかし、金庫の鍵が見つからない。
無謀にも、殴って壊そうとするラナンを見て、サノイとリオスは……?
末っ子。
私も、末っ子だったはずだ。
そして、私にもラナと同じ年だった時期が当然あって今がある。
私とラナの年の差は四つ。
私もそれだけ、幼稚だったのだろうか。
「なぁなぁ。金庫、全然開かねぇんだけど……」
そう言いながら、ラナはごつんごつんと金庫を殴っていた。そういえば、金庫を叩く音が少しずつ大きくなっているが、もしかして、このまま殴って開けようとしているのか? これで本当に開くと思っているのであろうか……。
「ラナ……手が腫れてしまいますよ。その辺にしておきなさい」
「でも、早く中身見たい」
どうやら、本当にこれで開くと思っていたようだった。
「そんな硬いものを、いくら殴ったところで壊すことはできませんよ。鍵を見つけるほかはないでしょうね。もしくは、魔術で…………なんとかなりませんか?」
リオは私に意見を求めてきた。この中で魔術の使える人間は、私だけなのだから当然なのだが。私は、自分の使える魔術をひとつひとつ思い出してみた。何かいい方法はあるだろうかと。
しかし、これだというものはなかった。
「すまない。役立てそうにない」
それを聞いたラナは、なぜか瞳をいっそう輝かせていた。
「じゃあ、やっぱ殴って……」
「「無駄」」
ふたりそろって一言でラナの発言を言い捨てると、ラナはしょぼん……とした。少し可哀相な気もしたが、あのままやらせ続けるのもまた、哀れな気がした。これでいい。手を痛める前に、止めるのが年上の役目だとも思う。
ラナは、金庫をしばらくぼんやり眺めながら、いじけていた。
「魔術が駄目なら……やはり鍵を探すしかないですね」
ここの鍵は、ラナのヘアピンピッキング術でもどうにもならないようだ。確かに、ヘアピンなんかで開けられる金庫など、あってもまるで役には立たないだろう。
「でも、鍵なんかどこにあるんだ?」
この屋敷の主の部屋というのが、一番可能性が高い。だが、その部屋がどこにあるのかも私たちは分からないのだ。
どうやら、今さらながらではあるが、ここの金庫は諦めた方がよい気がしてきた。先ほどの騒ぎを、フロートに通報されているかもしれない。ここは、フロートの財源でもあるのだから、警備兵ではなく、本当のフロートの兵士が飛んできてもおかしくはない。
おそらくは、リオも同じことを考えているのであろう。私は、リオに視線を向けた。すると、リオは案の定、私に向かって頷いた。
「そうですね。ここは退いた方がいいですよ。ラナ、帰りましょう?」
「やだ」
「「ラナ」」
駄々をこねるラナを、これまでなだめた経験は皆無に等しかった。私もリオも、頑固な方だが、ラナは私たちとは比にならないくらい頑固であった。一番の年下ということもあって、わがままの言いたい放題といった感じだ。それでいて甘えん坊で……。本当に、手がかかる末っ子だ。
「せっかくここまで来たんだから、あきらめずに探そうぜ!?」
(探そうぜ…………か)
確かにここまで苦労をして潜り込んだのにもかかわらず、何も手にすることができずに帰るとなると、疲れをいっそう強く感じてしまいそうなのは確かにそうだ。だが、フロートに通報され、捕らわれてしまうよりは随分とマシだと思う。
だいたい、私たちの旅の目的はこのような泥棒行為ではなく、別のところにあるはずだ。それなのに、それをやり遂げずにこのような行為の為に捕まるなどという醜態を犯すことだけは、絶対にしたくはない。私のプライドが許さない。私は、鍵を探すために更に奥に潜入することを簡単には納得できなかった。
「サノ~……何悩んでんだよ。早く行こうぜ? 俺、さっさと終わらせて寝てぇ」
だったら、今すぐに帰って寝てくれ……そう思った。ラナは、人一倍よく寝る子だった。それなのに、どうして背がのびないのであろうか。昔から、寝る子は育つと言うが……ラナの親が小柄だったのであろうか。ラナ自身も親のことは知らないらしいので、聞くこともできないのだが。
ラナは、十五歳になるまで孤児院で暮らしていたのだ。
「……牛乳か?」
「「は?」」
思わずに声に出してしまった。会話になんの関係も持たない牛乳という単語を聞いて、ラナとリオは動きが止まった。ラナとリオが声をハモらせて疑問の声をあげるものだから、思わず私も、あっ……と思い、動きが止まってしまった。
「サノ……飲みたいんか? さっきの厨房にあったぞ? もらいにいくか?」
なぜか嬉しそうにラナは話していた。また、あそこでパンをねだろうとしているのであろうか。リオはというと、ラナにばれないようにクスクスと笑っていた。おそらく、私が何を考えていて牛乳という単語を口に出したのかを悟ったのであろう。
「ラナ、サノは飲みたいんじゃなくて、ラナの身長っ……」
私は慌ててリオの口をふさいだ。まさかラナにばらすとは思わなかった。
「何をするんですか? サノ」
慌てている私の様子がおかしいらしく、リオは更に笑い出した。私は嫌な予感を感じつつ、リオの口から手を離した。そして、注意深くリオの動きに目をやった。どうも、遊ばれるような気がしてならなかった。
「ラナ。サノがですねぇ……」
「~~~~~っ……リオっ!」
私はたまらずに声をあげた。どうしてここまで、ラナの身長のことについて考えていたということをばれないようにしているのかというと、それは以前、ある事件が起こっていたからだった。
ラナのことを小さいとバカにした兵士がいたのだが、それはもう……悲惨な目にあわされていた。とにかくラナは兵士に向かって噛み付きひっかき……。まだ剣で襲い掛かってこられた方が対処できていいと思えるような幼稚な攻撃の嵐だった。はっきり言って、あのような攻撃は一生受けたくない。
それを共に見ていたリオと、ラナの前では身長のことは口にしないよう心に誓い合ったのだが……リオめ。私は少し、ムカついてきた……。
「サ、サノ!?」
私はすたすたと部屋を後にした。その途中でなんだか、むぎゅ……っという、変な感触を途中で味わったが、この際気にしないことにした。私は部屋を出ると、適当に奥に進みだしたのだった。もう、ヤケだ。ラナに噛み付かれたり、ひっかかれたりするよりは、フロート兵に見つかって争った方がマシだと考え直した。
「サノ~……待ってくれよ~っ」
ラナはバタバタと私の後をすぐに追いかけてきた。しかし、しばらく経ってもリオが来なかった理由を、私は知らない。
「……あぁ~あ、サノったら。兵士をひとり、踏みつけて行っちゃいましたね」
リオの呟きは、私には届いていなかった。