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天然なのか馬鹿なのか

鉄砲を持った兵士たちに捕らえられていたラナン。

しかし、魔術を持ったサノイの敵ではなかった。

金庫を前に、ラナンはとんちんかんなことを口にする。

呆れるサノイとリオスは……?

 私は末っ子だった。


 クライアント王国の第三皇子。


 今はその地位も国も存在していない。


 それ故に、自分よりも年下の「ラナ」という存在に、たまについていけなくなっていた。


「まだ分かっていなかったようですね。本当にバカなお人だ。僕たちは三人グループですよ? 僕の後ろを取ったところで、あなたに勝ち目はありません」


 そして、リオは私の方を向いた。


「サノ、あなたは本当に頼りになりますね」


 私は、なんとなくだが今の言葉にも棘を感じた。おそらくは、ラナに対する嫌味ではないだろうかと思う。


「なぁなぁ、リオ。これどけてくれ~。すごく重い……」


 リオは、しばらく粗大ゴミの下敷きとなっているラナを、観察していた。


「先ほどといい、ラナって下敷きになることが好きなのでしょうかね? サノ」


 そして、くすくすと笑っていた。リオは怒ると、とことんいじわるになるらしい。ここまでくると、いっそ爽やかだと言えるほどの、悪魔的な笑みを浮かべていた。


「どうしてこういうことになったんですか? ラナ」

「いや~……金庫どこかなぁ~とか思ってうろついてたら、いきなり後ろから発砲されちまってさ。慌てて交わしたらここに積んであった箱にぶつかっちまって。気がついたらこんな状態」


 銃弾を交わしても、その次にこのような状態になってしまっては、意味が無いように思えるのだが……。この状態でもう一度撃たれたら、どうするつもりだったのだろうか。ラナは、それでも避けたのだろうか。それが、できる男なのだろうか。私は、少なからず興味を覚えた。

 そう、興味を覚えただけであったと思ったのだが……少しでも疑問に感じたことは、その結果を知るまで調べつくすというのが私の性格であって……。

 要するに、私はラナに向かって、無意識のうちに魔術を放ってしまったのだった。


「うわっ……!?」


 それは、ラナの顔面に直撃した……。


「サ、サノ……っ!?」


 リオは、かなり驚いた顔をしていたが、それよりも私自身が驚いていた。


「いっ……痛ぇっ! 何すんだよ~っ!」

「あっ……」


 何がどうなったのか、いまひとつ分からなかった私は、手の感触と、ちょっとした疲労感。そして、ラナの顔面の傷を見て、私が魔術を放ったのだと推測したのだった。


「すまない……」

「すまないで済ませるな~っ!」


 顔面から血を流しながら、ラナは叫んでいた。どうやら、魔術の力は相当抑えてあったらしく、傷そのものは、たいしたことはないようであった。内心ほっとする。満腹では頭が働かないというが、空腹になりすぎても思考回路はショートするらしい。


「泣かないでくださいよ、ラナ。今そこから出してあげますからね。サノ、手伝ってください」

「泣かねぇよ、ちきしょう……」


 しかし、ラナの目は少し潤んでいた。今にも泣き出しそうだ。そんなラナを見て、私は激しく罪悪感に襲われた。

 私とリオは、ひとつずつラナの上にのっかっている物をどかしていった。そして、その三分の二ほどをどけると、ラナの腕を二人で持ち、外に向かって力づくで引っ張った。すると、ラナの体はずるずるとその中から姿を現した。


「うぅ……」


 ラナの顔面は、火傷を負っていた。炎の魔術あたりでも出してしまったのであろう……。私は、癒しの魔術をすぐさまラナに施した。


「本当にすまなかった……ラナ」

「あのさぁ……サノ? 俺のこと、そんなに嫌いか?」


 傷の癒えた顔をさすりながら、ラナは私に聞いてきた。別に悪気だとか嫌味はこめられていない。ただ単純に、言葉をぽろりとこぼした感じである。


「いや、その……なんとなく、興味がわいて」

「興味?」


 聞き返してきたのは、リオの方だった。


「あの状態からでも、敵の攻撃を避けることができたのかどうか……」

「いや、あれでは無理でしょう」

「なんとなくの興味で、俺を殺す気かよ」


 私は、反論できずに黙り込んでしまった。


「まぁ、もとはと言えばラナ、あなたが悪いんですよ。勝手な行動はしないでくださいと言ったじゃないですか。それを聞かずにひとりで突っ込むから、こういうことになるんですよ」


 ラナは、頭をかしかしとかきながら笑っていた。私とリオは、ラナが撃たれるのではないかとそれなりに緊迫していたのだが、本人はあまりそういった心境ではなかったように思える。よく言えば、大物というのであろうか。


「悪い悪い。でもさ、無事だっただろ?」

「僕たちが来なかったらどうするつもりだったんですか?」

「いや、来ると思ってたから」


 それを言われては、リオも反論できなくなってしまった。確かに、ラナひとりで行かせておくことはないし、何かよくない物音が聞こえれば、慌てて私たちが駆け込むのも当然の流れである。

 信頼されている……そういうことなのだろうか。しかしそれ自体はよいことなのだが、どうもすっきりしない気持ちでもあった。


「まったく……ずるいですねぇ、サノ?」

「そうだな」

「何が?」


 けろっとしながらラナは、ごそごそと動き出した。金庫を探し当てたらしい。


「それが金庫ですか?」

「あぁ、たぶんそうだぜ? でも、鍵がかかってるな」


 金庫なのだから、鍵がかかっていて当然だと思う。鍵のかかっていない金庫など、これまで聞いたことがない……というよりも、それでは金庫の意味を成さないではないか。

ラナはこつこつと金庫を叩いていた。


「どうして鍵をかけるんかな? 金を取り出すのが面倒になるじゃないか。いちいち開けないといけないだろ? ここの主ってさ、結構マメな奴なんだな」


 そういう問題なのであろうか。ラナは、金庫の使い方をいまひとつ、理解していないように思えた。


「ラナ。金庫というものは、僕たちのような泥棒などの不貞な輩から、金を守るために使うものですよ? ですから、鍵がかかっているのは当然です。鍵をかけなければ、簡単に盗られてしまうでしょう?」

「おぉ~……そうだったのかぁ。俺はてっきり、大きな財布かと思ってたぞ」


 大きな財布。合っているのか、間違っているのか……少し微妙なところか。とりあえず、金庫には鍵がしてあることが常識であるということを、理解したらしい。


「……ってことは、金庫持ってる奴はみんな、マメなんだな」


 ……やはりどこか、ずれているような気がした。


 理解していないラナを見て、リオは諦めた顔をしていたので、私ももう、気にすることはやめた。



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