笑みの裏には
警備兵をやっつけたレジスタンス一行。
しかし、またもやリーダーであるラナンが問題を起こした?
なにやら嫌な予感がし、急ぐサノイとリオス。
そこで、目にした光景は……。
ラナの目には、この世界はどう映っているのだろうか。
誰もしようとは思わなかった、フロートに対抗するチームを作り上げたラナの目には。
「リオ、行こう」
「そうですね。何やら、また問題が発生したようですから」
奥の方から、激しい物音が聞こえた。ガシャン……という、何かが落ちる音だった。そしてその物音の後には、銃声が響いた。
「……今のは、銃声か?」
銃とは、それほど量産されていない代物であった。それがここにあるということは、やはりかなりの資本家であるのだろう……と、そんなのんきなことを言っている場合でもないのかもしれない。
「急ごう、リオ」
私とリオは、銃声の響いた部屋の方に向かって走り出した。
「いきなり発砲するか!?ぜってぇありえねぇ!反則だ!卑怯だ!」
ラナは、大きな箱やらはしごやらの下敷きになりながら、ひとりの男に向かって叫んでいた。あれだけ元気な様子を見ると、銃弾を受けたわけではないようであった。しかし、状況が悪いことに変わりはない。
「「ラナ!!」」
私とリオは、慌てて部屋の中に入った。するとラナはまた、子どもみたくにぱっと笑った。
「サノ~リオ~。やられちゃったぁ」
私とリオは、肩をがっくりと落とした。先ほど無茶はするなと言ったばかりなのに、この少年は。成長が見られないというか、なんというか。もしかすると、犬より世話がかかるかもしれない。
どうしたらよいものか。やはり、ラナと同じような生き方をしてはいけないと自分の心のあり方を改める。
「そんなことは、見ればわかりますよ」
そしてリオは、男の方を睨んだ。おそらく、先ほど発砲した男だ。手には拳銃が収められている。
「あの……そこのちっちゃい子を引き取りたいのですが」
しかし、リオの口元はにっこりと微笑んでいた。俗に言う営業スマイルというものだろうか。人当たりのよい笑顔で男と対峙していた。
「お前はバカか。侵入者をおめおめと返すものか」
おそらく、バカという単語にカチンときたのであろう。完全とも言えるリオの営業スマイルに、ひびが入った。私は、少しばかり空気が凍るような感覚を抱いた。
「バカ……ですか」
リオは、カツカツと靴が床を蹴る音を立てながら、と男の方へ歩み寄った。今のリオは、いつもとはまるで様子が違っていて、何をしでかすのかわからなかった。
そこで私は、リオを止めるべきかと悩んだ。しかし、今のリオを止める自信が、残念ながら持てなかった。
「それって、もしかして僕のことですか?」
どこか棘のある営業スマイルを続けるリオは、ついに男と目と鼻の先ほどの位置まで歩み寄ってしまった。あの至近距離で銃を使われたら、間違いなく体に穴を開けることになってしまう。それくらいのこと、普段のリオならば難なく理解できるはずだ。それなのに、どうしたんだ。それほど、バカという単語に苛立っているのだろうか。彼はためらいなく男に近づいていく。だが逆に、その大胆行動が幸いして、男は発砲する機会を逃したのかもしれない。
「あなたは、僕を侮辱するのですか? なんの権利があって? あなたに、それほどの権利があるのですか? あなたは、それほどの価値を持った人間なのですか?」
(怖い……)
はっきりと、そう思った。そして、今後何があろうとも、リオだけは怒らせないようにしようと人知れず心に誓った。
「なんだ、お前は。自分の立場がわかっていないのか!?」
男はついに、リオに銃口を向けた。私はひとり緊張していた。なんとかして銃弾からリオを守らなければならない。その流れ弾が、自分やラナに当たることも予想して、回避しなければならない。まったく、リオまでもが暴走してしまったら、結構私は厳しい状況におかれるのだということをはじめて実感した。
この小さなチームは、穴だらけだ。
「自分の立場? それってもしかして……今あなたは、僕よりも優位な立場に立っているとでも、思っているのですか?」
いや、男だけではなく、私もリオの方が形勢は悪いと思うのだが。やはり、それを口にすることはできない。自分にまで、火の粉が飛んできそうなほどの勢いだったからだ。
「リオの方が、立場悪くねぇ?」
そんな空気を読めないラナは、思ったことを素直に口に出した。私は内心、「なんてことを……」と呟きながら頭を抱えたくなった。
どうしてラナは、こうもあっさり場の空気を無視したことを言えるのだろうか。頭を使うということや、気を遣うということを、少しは出来ないものなのだろうか。
「ラナ……」
リオの声は、普段とはまったく違い、威厳のある低音ボイスと化していた。その目はおそらく、かなりの光を放っているのであろう。この位置からはそれが見えないので、私は正直助かったと思った。声色だけでも恐ろしいと思うのに、その眼光を目にしようものならば……考えるだけでも背筋が凍る思いがした。
「あなたにだけは、言われたくありませんね。あの男に寝返って、あなたを踏みつけてもいいんですよ?」
ラナに忠誠を誓ったとかなんとか、以前言っていたような気がするのだが……分からない。このふたり、どちらもともにある意味恐ろしい。私はひと言も言葉を発することができず、また、一歩たりとも動くことができなかった。
そのとき、男が銃の引き金に指をかけた。
まずい……そう思ったが、時はすでに遅かった。
銃は、発砲された。
「あの、誰が動いていいだなんて言いました? 困りますね。勝手な行動をされては。万一僕が反応できなかったら、どうするおつもりだったんですか?」
しかし、リオは銃弾を受けた形跡はなかった。なんてことはない。撃たれなかったのだから。
リオは、男が引き金に指をかけた瞬間に、男の腕をがっしりと掴み上げ、銃口を天井にと上げさせたのだった。そして、男がそのまま天井を撃つと、しばらく男と揉み合いながらも、込められていた銃弾全てを、男が使うのを待っていた。そして、使い切ったことを確かめると、一気に蹴倒したのだった。リオの蹴りはなかなか強かった。銃口を向けられていても、まるでひるまなかったことにも頷ける。
「リオ、すげぇ!」
ラナは、まったくの観客人となっていた。何か素晴らしい試合でも見ているかのような感じで、目をキラキラさせてふたりを見ていた。
「とりあえず、この銃はもらいましょうか。物騒ですからねぇ」
そして、リオは銃を奪った。しばらく男ににらみを利かせていたが、男から戦意が完全に消えたことを確認すると、すたすたと歩き出した。しかし、ラナの前まで来ると、再び凍りのようなオーラを発した。
「それで……誰がバカですって? どちらの立場が悪かったのですか?」
「バカは、お前たちだ!」
私はハっとした。戦意を失っていたと思われた男は急に立ち上がり、隠し持っていた銃を持ち出していたのだった。リオは男に背を向けている。今発砲されては、さすがのリオでも対処できまい。私はすぐさま魔術を放った。今は躊躇しているときではない。風を起こし、男を吹き飛ばした。
するとリオは、ふっ……と、余裕だといわんばかりの笑みをこぼした。