インターリュード
柔らかなクリーム色の壁に挟まれた、ピンクの薔薇の柄の入ったカーテンが、開け放たれた窓辺で揺れている。差しこむ夏の西日はきつく、そこに立つ人の影をオリーブグリーンの絨毯の上に長く刻む。
ヴァイオリンを奏でるヘンリーの手からは、とりどりの珠玉がこぼれ落ちる。落ちては跳ね返り、リズミカルに舞い散り乱舞する。ヘンリーの奏でる音は、サラを宇宙に放り込み、優しく、柔らかく、穏やかに包み込むのだ。
ヘンリーが腕を怪我して帰ってきた時、サラは心配で心配で卒倒しそうだった。
「ぜんぜん大した怪我じゃないんだよ、ほら」
彼はそう言って、ヴァイオリンを奏でてくれた。
以前は大きな波のうねりのようだったのに、今は小さな宝石の粒のダンスだ。ヘンリーは、以前よりもずっと楽しそうに見える。
ヘンリーは学校に戻らなかった。
辞めてきたんだ。新学期から別の学校に行く。
そう言って笑った。
今回の夏期休暇は、いつもよりちょっと長く一緒にいられるね。
そう言っていつもよりたくさん、ヴァイオリンを弾いてくれた。
ただ、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を弾いている時だけ、彼は少し懐かしそうで、淋しそうで――。
自分の心を細かく砕いて光の粒にして、サラにではない誰かに、もっとずっと遠くにいる誰かに、放射しているようだった。
僕は、一度だけ、きみの見ている世界を垣間見ることができたよ。
友人に、薬物を盛られたんだ。ひどいだろ?
でも、そのおかげで、分かったんだ。
きみの住んでいる世界は、美しすぎて僕は怖かった。
そして僕の今いる世界は汚すぎて、いつかきっときみを傷つける。
だから、きみと同じ世界に住むよりも、この世界からきみを守ることが、僕にとっての正しい選択だ。
きみを傷つけるもの、きみを侮辱するもの、きみを貶めるもの、辱めるものすべて、僕は絶対に許さない。
曲が終わり、空間を満たしていた宝石たちが蒸発するかのように消えていく。
サラは、ヘンリーをぎゅっと抱きしめた。
「この一瞬が永遠ならいいのに」
ヘンリーは、サラの髪を優しく撫でてやりながら呟いた。
「Elle est retrouvée, (見つけたよ)
Quoi? ―L’Éternité. (何をさ? -永遠)
C’est la mer allée (海と交わる太陽だ)
Avec le soleil」
窓の外では、太陽が遠くに霞む緑の地平線に沈もうとしていた。
作中のフランス語詩は、アルチュール・ランボーの「永遠」の冒頭です




