冬の応接間7
夜中に、夢うつつで、とんでもない事を口走った気がする。
ヘンリーは、遅い朝食を食べながら、思い返して、顔から火が出そうに恥ずかしかった。
目の前に座るサラは、いつもと何も変わらない様子でスコーンにジャムを塗っている。
サラが夕べのことに触れないでくれているのが、せめてもの救いだ。
すべてが夢だったような、平穏な朝だった。
「坊ちゃん、スミスさんがみえられました」
ヘンリーは軽く頷いて承諾する。
スミスさんに、もっとちゃんとサラのことを聞かなくては。今までは、サラのプライバシーを暴くようなマネをするのが嫌で、触れずにいた。だが、インドでの過去が今でもサラを苦しめているのなら、話は別だ。逃げる訳にはいかない。
「サラ、スミスさんと話があるんだ。しばらくかかるだろうから、その間……」
「平気よ、ヘンリー。私もすることがあるの」
「部屋にいる?」
サラが頷くと、
「じゃ、用事が終わったら、一緒に雪だるまを作ろう。呼びに行くから」
ヘンリーは立ち上がり、サラの頭をさらりと撫でて席を後にした。
サラは自室に戻ると、自分のパソコンを立ち上げた。
今のままでは駄目だ。
いずれ、約束を守れなくなる……。
私に、必要なものは何?
サラは開発中のソフトを開く。
“サラスバッティ”
「ハロー、サラスバッティ。これから、あなたの名前は、サラスバッティよ。私は、サラ。あなたは、私。私は、あなたよ」
サラは、キーボード―を叩きながら呟いた。
自らプログラムするプログラム、自ら考えるプログラムに、私自身の思考を、感情を、思い出を踏襲させる。そうすれば、私だけでは見つけ出せない答えを、サラスバッティは、世界中を駆け巡って見つけてきてくれるはずだ。一般論ではない、私が選ぶであろう、答えを見つけて欲しいの。私よりも速く。
難しいことじゃない。優先順位は決まっている。
私の一番は、ヘンリー。
ヘンリーを守ること。ヘンリーの願いを叶えること。
その為には、どうしたらいい?




