冬の応接間2
「わからないわ。ヘンリーには、お母さんも、弟や妹もいるのに」
サラは、いつも率直に思ったことを口にする。
「生物学的に、血が繋がっているだけでは、家族とは、言わないんだよ」
ヘンリーは、ソファーには戻らず、暖炉の横に佇んで言った。
「家族として生まれてくるんじゃない。愛されて、育まれて家族の一員になるんだ。 親鳥がひなを羽で包んで大切に育てるようにね、餌といっしょに愛情をあげないと、ひなは死んでしまうよ」
ヘンリーは、サラの背後に回り、ソファー越しに、サラをぎゅっと抱きしめた。
「こんなふうにね」
腕を緩めると、いきなりその手で、サラの頬っぺたをぐいっと引っ張る。
「ちゃんと食べなさい!って、言わなきゃサラはすぐに食事を忘れるしね。親鳥は大変だ!」
ぱっと、両手を上げると、声をたてて笑った。
「ヘンリー!」
思いっきりつねられた頬をさすりながら、サラは顔をしかめた。
「ちゃんと食べているわ! たぶん……」
「休暇で帰ってくる度に、サラが小さくなっている。親鳥の愛情が足りないのかな?」
「ヘンリーが大きくなりすぎなの!」
また背が伸びたみたいだ。声も、ぐっと低くなっている。ヘンリーは、どんどん大人に近づいて、サラは自分だけが取り残されたような気になる。
ヘンリーは、ソファーに座り直して、自分のカップにお茶を注いだ。
「ひなが立派に育つように、親鳥は特別なクリスマスディナーを用意したんだよ」
そして、時計に目をやると慌ててお茶を飲み下した。
「もう、こんな時間か! 着替えてくる」
初めてのパブリックスクールの制服を着たままの帰宅だった。
黒の燕尾服にガウンを翻してタクシーから降りて来たヘンリーに、サラは驚いて言葉を失ってしまった。
「特別なディナーなら、そのままでいいんじゃない?」
「そう? じゃ、サラが正装してくれなきゃ」
「…………。着替えてきて」
「お願いしますは?」
「お願いします」
サラは、渋々呟いた。
「すぐもどるよ」
ヘンリーは、クスクス笑いながら部屋を後にした。




