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胡桃の中の蜃気楼  作者: 萩尾雅縁
第二章
110/805

よくわかる! アーニーとデイヴの株式講座 その1~空売り~

分かりにくい経済用語を解説しています。お暇なときにでも、どうぞ。

「ねぇ、アーニー、空売りって何? ヘンリーがさぁ、あのイタリア男とよく話しているんだけど」

「ウイキィみてごらんよ」

 アーネストは、手元の本から目を離さぬまま答えた。デヴィッドは早速パソコンの電源を入れる。


「投資対象である現物を所有せずに、対象物を(将来的に)売る契約を結ぶ行為である。商品先物や外国為替証拠金取引で……何、これ? ますます解んないんだけどぉ!」

「対象物の価格が下落していく局面でも取り引きで利益を得られる手法のひとつ。って、続きにあるだろう?」

「だからぁ?」


 デヴィッドの膨れっ面に、アーネストはため息をひとつつくと、膝の上にぱたんと本を伏せた。

「株式っていうのはね、買った値段より、株価が上がれば利益になる。十ポンドで買って、十二ポンドで売れば二ポンドの利益。空売りは、その反対。解った?」

 デヴィッドは唇を尖らせたままだ。

「お前、よくそれで法学部に進むとか言えたね……」


「だからね、空売りっていうのはね、十ポンドで売って、八ポンドで買い戻すと二ポンドの利益になるんだ」

「その売るっていうのが解らない。株は買うものでしょ?」

「株っていうのは、上がったり下がったりするだろ? いつもその企業の適正価格で売り買いされている訳ではないんだ。業績が良くても、買い手がいなければ株価は下がる。今回のアメリカ経済の減速とか、外部要因にも影響を受けて、企業価値以上に下がる時もある。でも、そうなると、株主は困るだろ? 価値のある会社の株は、持っておきたい。売りたくない。でも、株価が買った値段よりも下がれば損をする。そんな時に、リスクヘッジを掛けるんだ」

「リスクヘッジって?」

「十ポンドで買った株を持っているとするだろ? 配当もいいしずっと売らずに持っていたい。でも、株式市場全体の雰囲気がよくない、しばらくは下がりそうだ。そんな時に、その株を空売りするんだよ。株価が下がっても、空売りしてある分が利益が乗って損が相殺される」


「ん~、何となく解るんだけれど~。じゃあさぁ、ヘンリーは、マーレイ銀行やグラスフィールド社の株を持っていてぇ、リスクヘッジしているってこと?」

 デヴィッドの問いかけに、アーネストは一瞬きょとんとし、ついで腹を抱えて笑い出した。


「違う! 違う! そうじゃなくてね。その会社の株を持っていなくても、空売りっていうのはできるんだ。ヘンリーは、グラスフィールド社の不正を掴んでいたからね、株価下落を狙って、空売りを入れていたんだ。この会社の株価、不正発覚前は、一単元、二百ポンド前後だったんだ。発覚してから、以前の半値、いやもっと下がっている。膨大な利益だよ」

「利益?」

「言っただろ? 二百ポンドで空売りして、百ポンドで買い戻せば百ポンドの利益だよ。それだけじゃない。株価を暴落させれば、グラスフィールド社は、株式市場からの資金調達も難しくなるし、銀行も金を貸さなくなる。そのために、ロレンツォの協力が必要だったのさ。ルベリーニの資金で大量に空売りを入れて、暴落を加速させたんだ。そうすればこの会社、すぐに資金繰りに行き詰まるからね。ヘンリーは、グラスフィールド社を倒産まで追い込むつもりなのさ。解るかな? 株価っていうのはね、売れば売るほど下がるものなんだよ。みんなが売ろうとする株を欲しがって買う奴なんていないからね」


「マーレイ銀行は?」

「グラスフィールド社の大株主なんだよ。影響必須だよ。大量に保有している会社の株式が、半分以下になっているんだからね。それだけじゃない。ヘンリーのお姫様の出した試算によるとだね、これからのアメリカ経済の影響でだね、」

「ストップ! アーニー!」

 生き生きと語りだしたアーネストを、デヴィッドは神妙な顔をして伺いみた。


「アーニーも、空売りしているのぉ?」

「勿論」

「膨大な利益なんだよねぇ?」

「…………」

「欲しいパソコンがあるんだ。ヘンリーには内緒でぇ。ガン・エデン社の最新の奴。デジタルイラストの作成には、やっぱりガン・エデン社のがいいんだよねぇ。ヘンリーは嫌がるけどぉ……」

「デイヴ……」

「安いものだよね!」


 にこにこと嬉しそうに微笑む弟に、アーネストはまたひとつ、ため息を漏らした。


一単元……株を取引するための最低数量のこと

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