あいつ
もしお前に愛する人がいたら、そいつが発する言葉、行動が全て本当のものだと思わないでくれ。
彼氏の前では、私わブスだよぉ、かわぃくなりたい…とか言ってても、内心自分が1番だと思ってたり、すれ違った俺の顔を見るなり「はんっ」とバカにした薄ら笑いをする奴がいるもんだ。これは俺の妹だ。俺はフツメンなんだが、あっちが美意識高い、なんとかteenとかいうファッション雑誌を読む、イマドキ女子なので…まあご察しください。
学校では爽やかで、女子からキャーキャー言われるイケメン優等生も、放課後は路地裏でイカツイ野郎とたわむれて、不良のリーダーやってたりするから気をつけろ。それは俺の弟だ。つい最近、「にいちゃん不器用だし硬派だから、顔の使い分けできなさそうだよねー」とにまにましながらに言われた。なんだよ顔って。人間、顔はひとつしかもってねぇよ。何個もあったら化物じゃねーか。
いつも笑顔で、ぶあいそな俺にも話しかけてくれた人懐こくて、誰とでも仲良くなれる奴。たくさんの人に愛されてるから幸せそうに生きてるように見える奴も、辛い過去を、幼少期を送ってて俺らが気づかないだけで死にたいって思ってたりするんだ。
それは俺の愛する人だ。
薄い色素のサラサラした肩に届きそうな金髪も、俺の分厚い手で倒したら壊れてしまいそうな細い身体も、耐えることなく笑い声が漏れる小さくて薄い形のいい唇も、紅いインクを落としたくなるような透き通る白肌も、俺に向けられる色んな表情した眼差しも、全てが愛しい。独り占めしたいが人気者が故に叶わぬことだ。