初恋
全身の神経が震えあがるほどの衝撃が走った。後ろを振り返ると美少女がいたからだ。
俺は、部活の先輩の岡田さんとコンピューター室に来た。岡田先輩の研究論文作成に興味があったからだ。なにせ、自分も二年後には研究論文を作成しなければならない。有能な先輩の論文は未来への財産となる。
「うわ!先輩麺の色を変える研究やってるんすね。流石すよ!」
別に俺は本気で褒めているわけではない。ぶっちゃけ、何が流石なのかもわからないレベル。ごり押しして、先輩をいい気分にさせようっていう小賢しい魂胆だ。
「まあね~。でもぶっちゃけるとこれ簡単な研究だよー。面倒くさい研究やると遊ぶ時間なくなっちゃうもん」
先輩は顔をパソコンに向けタイピングしながら言った。
岡田先輩はかなりチャランポランした人物だ。勉強よりも女の子とイチャイチャしたり、ゲームで遊んだりすろことを優先する。
だけど俺はそんな先輩が好きだ。話やすいし、俺と仲良くしてくれるし、なによりも女の子にもてるからだ。
俺はこの先輩から学ぶことが星の数ほどある。女性が星の数ほどいるだけに。
先輩が話しているときの表情、声質、仕草を目でみて感じ取り、自分の技術にしていきたいと思う。なぜなら、思春期真っ盛りでナイスガイを目指しているからだ。
「ですよねー。学生は遊んでこそなんぼすよ!」
俺は先輩の言葉にそう返した。遊びは大事だ。特に女の子とイチャイチャすることはね!しかし、俺には彼女どころか女友達だってロクなのがいない。
いや止めよう、こんなこと考えると虚しくなって笑っていられなくなる。
「あっ!岡田君じゃん。何やってんの?」
後ろか先輩を呼ぶ女の子の声がした。思わず俺も反応してしまう。だって女の子だもん。気になるじゃん!
美少女は、日頃から笑ってばかりいるんだろうなってくらい自然で素敵な笑顔だ。
髪型は眉毛に前髪がちょっとかかる位の長さで、後ろ髪は肩にちょっとあたる位の女子にしてはやや短い長さだ。
小顔で、唇は艶やかでフレッシュだ。若さっていいね!って思わず言いたくなっちゃうよー。
俺的にこの美少女の何にキタかというと、目だよ目!パッチリとしていてキラキラしていてさ、小動物系の目って形容していいかな、思わず引き込まれてしまう。
とても素晴らしい人に出会った。感動すら覚える。だってさ、今までこの高校でみてきた女子って類人猿と言ってもいいくらいに惨憺たるものだったんだぜ!
こんな美少女みたら頭の中に天使とか女神とかマンドナとかそんなワードがよぎっちゃうよ
「おう!宮林さんじゃん。今ね、論文かいてんだー。マジだるい」
岡田先輩は声は明るいけど、顔は渋い表情をさせている。
「あー。論文かー。ダルいヨネー」
美少女こと宮林さんは岡田先輩に調子をあわせて返答した。
「宮林さんも論文書いてるの?」
「ううん。私は委員会の資料を作成しているんだよ。ねえねえ、岡田君の隣にいる子って誰?」
宮林さんは俺のほうを見て言った。うおーー!目があったよーーー!ドキドキだよ。心臓飛び出しちゃうんじゃないの!
岡田先輩は、俺を指差して自分の顔をニッコリとさせた。
「コイツは俺の部活の後輩だよ。変な奴なんだぜー」
な……なんてことを口走るんだ。よりにもよって宮林さんの前で!
俺は動揺した。もうー、脇汗どっぷりものだよー。
「アハハハハハ。えーそうなんだ。ねえ、岡田君、また今度部室に遊びに行ってもいいかな?」
またってことは、以前にも遊びに来たことがあるということか……。俺の記憶にはない。ということは俺が部に入る前か、たまたま部室に行っていないときか……。
しかし、岡田先輩も色々な女の子と仲良くなるよな。地味な子だったり、明るい子だったり、クリーチャーみたいな子だったり、宮林さんのような天使のような娘だったり……。
「うん。いいよー。いつでも来てよ!話相手になるからさ」
正直、部外者にいつでも部室に来てもいいと言うのはどうかと思うが、まあいっか!だって岡田先輩や俺の所属してる部活ってフリーダムだもんな。
「ありがと!」
しかし、宮林さんも面白い人だな。あんな男ばかりのムサい場所に進んで来たがるんだもん。
俺が宮林さんの立場だったら正直萎縮しちゃうよ。
だって周り全員女の子だろ!ライトノベルの主人公かよ!まあ俺はライトノベルの主人公みたくコミュ力もないし、主人公補正もないからハーレムなんてものは実現できないね。
「うん。じゃあ宮林さん、俺達はもう用事終わったからここでるね」
岡田先輩は、わざわざ宮林さんに伝えた。
「うん。じゃあまたねー」
宮林さんは終始笑顔を絶やさなかった。あの笑顔があれば世界平和も夢じゃないと思う。
今俺、凄く心が穏やかなんだ。彼女の笑顔にはそれだけ力があるってことさ。
俺と岡田先輩はコンピューター室をでた。部屋を出ると廊下がある。右側は窓が一直線に並んでいて、そこから外を観望できる。廊下を渡り終え、階段を下りるときに俺は岡田先輩に伝える。
先ほど抱いた思いを……。この情熱を……。
「先輩、さっきの宮林さんっていう人とても可愛い人ですね。あんな素晴らしい人この高校で初めて見ましたよ」
俺は興奮気味に言ったが、先輩は打って変わって冷めた口調で反応した。
「え……?そうかー?よくわかんねーけど宮林にあんま気持つなよ!アイツビッチだから」
え……?そうなの?若干ショックを受けた。ビッチとは股をすぐ開く女の子のことをいう。俺の大好きな清純とは真逆だ。生きるダッチワイフといっていい。
クラスで男の話題ばかりで花を咲かせる女子たちをみて嫌悪感を抱いた。不細工のことをこれでもかってくらい貶すんだぜ!マジ容赦ねえから。
確かに宮林さんは可愛い。ビッチの素養は充分あると思う。
でも、信じたくねーよ。俺、彼女に一目惚れしたからさ……。
彼女の声とか表情がとても心地よくて、なんだか芸術性を感じてしまったんだ。
季節は秋。枯れた葉が落ちる時期だ。俺の心、この恋心があの葉っぱ達のように枯れ果てて風化してしまわないことを俺は願った。