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14

 

 走れ。

 走れ。

 走れ。

 

 その言葉が沢山、頭の中をぐるぐると縦横無尽に駆け回っていた。

 脳内はもうお祭り状態だ。てんやわんや。

 怪物の豪腕が風を切る音も。

 その腕が道に大穴を開け建物を粉砕する爆音も。

 周囲の人々が上げる怒号や悲鳴も。

 何も聞こえなかった。聞いている余裕などなかった。

 ナリアは必死に足を動かし怪物から逃げ続ける。

 汗でびっしょりと濡れた髪が頬に張り付いて気持ちが悪い。

 

 先程の謎の女が示した漆黒の宝石。


 その意志は禍々しい黒い光を放ったと思ったら、次の瞬間にはその光は一つに集まって巨大な怪物になった。

 信じられないけれどそれが現実だ。目の前で起こって見せられれば認めざるを得ない。

 怪物には目、というよりも頭部そのもの、がなかったため視線などは感じなかったが、重苦しい敵意が自分たちに向けられていることがはっきりと分かった。

 瞬間、ナリアはフレニーを抱きかかえて走りだした。

 考えたことは二つ。

 自分達の身を守ることと、イヤサム商店街からなるべく早く離れることだ。

 背中から轟音がナリアを追い抜いていく。怪物の振るった腕が地面を抉った音だ。

 ナリアは振り返らない。何が起こっているのかはもうよく分っているし、そもそもそんな暇もない。

「ひぅ!」

 両手で抱えたフレニーが衝撃と大きな音に身を固め短い悲鳴を漏らす。

「がんばれ! フレニー!」

 荒く息を吐きながらも、ナリアは声を張り上げてフレニーを励ました。

 フレニーからは返事はないけれど、自分にしがみついた小さな手にきゅっと力がこもるのがわかった。

 そのフレニーの存在にすがるようにしてナリアは勇気を振り絞る。

「もうちょっとの我慢だよ!」

 半分はフレニーに、もう半分は自分自身に対して発した台詞。

 そうだ、あと少し。もうちょっとのはずなんだ。

 響く爆音。吹き上がる土煙。逃げ回る住人達。

 イヤサム商店街は大変な騒ぎになっている。そして、復旧作業の現場からはここがよく見渡せた。

 だから、ここの状況をそれなりに把握しているはずだ。あの人も。

 ナリアの脳裏に、一人の男の子の姿が思い起こされた。

 怒ったような困ったようなそれでいてとても優しい――不思議な表情でこちらに手を差し伸べてくれている男の子。

 あの彼がここへ来ないはずがない。

 たった一度の失敗くらいで。いや、何度間違いを重ねようと、だ。

 彼はそんなに弱くないのだ。

 そのことをこの街の、いや、この世界の誰よりも自分がよく知っていた。

「諦めるもんか――絶対に諦めないぞ!」 

 ナリアは叫んだ。

 自分だって受け継いだのだ。あの優しくてかっこいいコー姉の生き方を。あいつと一緒に。

 そんな自分がこの程度のことで諦めてよいはずがない。

 そんなことで沢山のもののために戦おうとしている彼の隣に居ていいはずがない。


「あたしは! パル=リミットエンドの! 幼馴染だ!」


 想像を絶する恐怖と緊張感の中でフレニーを抱えて走り続け悲鳴を上げつつある肉体をその思いが突き動かす。

 しかし。

 二人を襲う怪物の方にはこれ以上は追いかけっこを続ける気はなかった。

 右の手のひらを突き出すとそれをナリアとフレニーに向け狙いを定める。

「グオオオ!」

 怪物が咆哮し同時にその手からどす黒い光が放たれる。黒光の奔流は瞬時にナリアたちに追いつきその至近に着弾した。

「うわっ?」

 突如襲ってきた爆風にナリアの体が宙に浮き前方へと吹き飛ばされる。

「この!」

 ナリアはとっさにフレニーを抱え込み空中で体勢を変え、自分の身体を下側に持ってくる。

 数瞬後そのまま地面へと叩きつけられた。

 息が止まるような衝撃がナリアを襲う。それだけでは風圧の勢いは消えず、しばらく地面を転がった後で止まる。

「ナ、ナリア! 大丈夫?」

 少ししてナリアの両腕の中からフレニーの不安げな声が聞こえた。

「だ、ダイジョブ、ダイジョブ!」 

 ナリアは無理やりに笑顔を作り出すとそれをフレニーに向けた。

 本当は体中痛くて泣き出したいところだったが、こうなったら意地でも笑い続けてやろうという気になっていた。

 難しいことではない。パルやコートニーからもらったものの一部をそのままフレニーに渡すだけのことだ。

「えっ?」

 ふと視界が暗くなるのを感じる。よく当たっていた日光が何かに遮られたようだ。

 ナリアは恐る恐る顔を上げ、そして凍り付く。

 気付けば怪物が目の前まで来ていたからだ。腕をゆっくりと振り上げている。

 ナリアは慌てて立ち上がろうとするが痛みと恐怖で体が動いてくれない。

 あれを自分たちに振り下ろすつもりだろうか。

 次に起こるであろう事態を理解したナリアは咄嗟にフレニーに覆いかぶさるりきつく目を瞑った。


 ――パルっ!

 

「ガアア!」

 次の瞬間。

 彼女に届いたのは豪腕の一撃ではなく、怪物の苦悶の雄叫び。

 それに気づいたナリアが再び怪物の方へと顔を向けると、怪物は丸太のような両腕を体の前で交差させ自分とよりも一回り小さな青い光の鳥を受け止めていた。

 自分を守ってくれる蒼光の輝き。その正体を瞬時に理解したナリアは怪物と反対側に頭を振る。

 その先にいる人物を認識した瞬間、不安や恐れが不思議なくらい跡形もなく吹き飛んだ。

 そして、湧き上がってくる様々な思いを込めその人物の名を叫ぶ。

「パルっ!」

 


 パルはナリアの前方――怪物と逆方向――の少し離れたところに立っていた。

 右の手のひらを突き出し左手で支える、いつもと変わらぬ構えだ。

「うおおおおおおおらあああ!」

 パルはナリアの声に励まされるように意識をさらに集中させオムニアの出力を上げていく。

 右腕のオムニアが輝きを増すと怪物を襲う光のパワーも大きくなる。

 蒼い光が怪物をそのまま押し返していく。

 怪物は地面に二つの大きな轍を残しながら後退しナリア達から離れた。立ち上がったナリア達がヨタヨタと逃げていくのが見えた。

 パルはひと先ず安心し、怪物に集中する。

 気持ちとしてはこの一撃で吹き飛ばしてやるくらいのつもりだった。

 しかし、渾身の一撃も怪物の大きな両腕でしっかりと受け止められてしまった。

 どうやら純粋な力勝負ではこの辺が限界のようだ。

「んならぁ!」

 パルは素早く頭を切り替え、翳した手のひらを小さく鋭く左下に振る。

 その動きに呼応して怪物に襲い掛かっていた光の鳥も滑るようにその軌道を変えた。

 胴体の中心から右足へ。

 不意の変化にさすがに怪物は対応できず、蒼光が怪物の脚部を直撃する。 

「どうだ、この野郎!」

 眩い光が炸裂すると怪物の脚部の膝から先が消失する。怪物はバランスを崩してその場に倒れこんだ。

 その途方もない力と重量はただそれだけの動作でも地面に穴を穿ち強い風の流れを生む。破壊された石畳の破片が辺りに飛び散った。

 ナリアはフレニーに覆いかぶさるようにしてその突風をやり過ごす。

「ナリア! フレニー!」

 パルはその隙に二人の下に駆け寄り

「無事か、おい!」

 としゃがみ込んで声をかけた。

「パル!」

 ナリアに抱えられたフレニーがまずは顔を上げた。

「フレニーちゃん、怪我はない?」

「うん。ナリアが守ってくれたから」

「そうか、よかった。頑張ったね」

 そういうとパルはフレニーの頭はクシャっと撫でた。フレニーがくすぐったそうに目を瞑る。

 それから今度はナリアに視線を移す。

「大丈夫か?」

「うん。大丈夫」

 パルの問いにナリアはしっかりと応えた。

「わりいな、遅くなって」

 似合わないかな、と思いながらニヤリと笑ってみせる。

「パル……」

 感極まったのかナリアの目に涙が浮かんできたが、彼女は俯き乱暴にそれを拭った。

 次に顔を上げたときには、何時もの彼女の笑顔が戻っていた。

「ちょっと待ちくたびれた!」

「――ありがとうな。フレニーちゃんを守ってくれて。カッコよかった。姉さんみたいだった」

「へへっ」

 それを聞いたナリアは嬉しそうに笑った。

「それで悪いんだけど、もう一頑張りしてくれないか?」

「え?」

「フレニーちゃんを連れてここから離れてくれ」

 パルは手を貸して二人を立たせる。

「パルは? どうするの?」

「俺は、あいつをなんとかするわ」

 パルは怪物が倒れている方向を親指で指さす。

「今度はナリアが見ててくれ。俺が姉さんみたいに戦えるかどうか」 

 ナリアとパルの視線が交錯する。

「うん、わかった。頑張れ、パル」

「もちろんだ」

 ナリアは立ち上がると、フレニーときつく手を繋いだ。

「ごめんね、フレニー。腕が痛くてもう抱えてあげられないの。――走れるかな?」

「――走れる!」

 ナリアの問いにフレニーが力強く頷いて返した。

「オッケー。じゃ、行こうフレニー!」

「うん!」

 二人は手を取り合って走り出した。

 フレニーは少しだけ心残りの様子でパルの方を見ていたがナリアに手を引かれて前を向いた。

 パルはその後姿を穏やかな表情で見送っている。

 背後からか怪物の地鳴りのような叫び声が聞こえると、パルはそれに呼応して怪物の方へと向き直った。

 その表情は先程までとは打って変わった雄々しいものとなっていた。

「間に合ったけど。我ながら信じられん位のタイミングだな」

 おかしな爆音を聞き商店街の方で土煙が昇っているのを見て。

 ソラと少しの会話をしてここへ全速力で駆け付けた。

 そして目に入ってきたのが怪物がナリアとフレニーを巨大な手で叩き潰そうとしていたあの致命的な瞬間だ。

 あれを見た時は肝が冷えるどころの騒ぎではなかった。間一髪だったが間に合ってよかったと心底思う。

「俺なんかでも、必死でやれば何とかなるもんだ」

 パルは不敵に笑い

「これじゃあ、手を抜く訳にはいかないよな」

 怪物の方を睨み付けた。



 イヤサム商店街のとある建物の屋根の上。

 黒ローブと仮面の女――アーテルは怪物が暴れ回る様子を見下ろしていた。

「来ましたか」 

 仮面で表情を窺うことはできないが、声には確かな喜びの色が宿っている。

 あの黒い石――思い出(メモリア)の人間への適合実験。

 そして戦闘力の確認。

 一つ一つ、段階を踏み、確かめまた次の段階へ。その営みはやはり彼女の心を昂らせる。

 溜結晶るけっしょう

 人の意志と作用しあって様々な力を発揮する。人間にとってまだまだ未知といってもよい素材。

 オムニアもメモリアもこの溜結晶に一定の加工を加えて作り出されたものだ。

 嘗てはその輝きに魅入られたかのように夢中になって研究したその溜結晶を、またこのような形で扱うことになるとは。

 今度は一人で。

 一瞬、懐かしい面影が彼女の脳裏を過った。その残像は刃物のように彼女の心を切り付け耐えがたい苦痛を生じさせる。

 彼女は軽く頭を振ってそれを追い払い怪物の行動へと注意を向ける。

 あの怪物はナリア=トムソンをわき目も振らずに追い詰めようとしていた。

 怪物の素体となった男は拘束された際に彼女のことを見ている。彼はその際に彼女にもある程度の怒りを感じていたのだろう。目の前で呼び出してやると、以後はナリアだけを狙うようになった。

 予想通り怪物の行動は素体となった人間の遺志にある程度は従うようだ。

 素体の生命力だけ飽き足らず、その精神をも食らい尽くすというわけだ。

「面白いですね」

 仮面の下で、恍惚がその色を強くする。

 そしてやはり、ナリアはパル=リミットエンドを誘い出すための最上の餌となった。

 怪物の戦闘力がどの程度のものか、後はパルが教えてくれるだろう。

 そのためにイグニスにフローラの足止めを依頼してある。

 あとはこのまま高みの見物をしていればよい。

「しかし……やはり醜いものなのですね。人の思い出などというものは」

 そうつぶやいたアーテルの声はゾッとするような冷たいものだった。



 怪物は右足を失い未だに体勢を立て直すことができないでいる。

 この機を逃すことはできない。

飛燕シュヴァルべ!」

 鋭く叫ぶとオムニアが青い光の粒子を放出する。

 今度は鳥というよりは横に長い三日月のような形に集束した。

 パルが右手を水平に大きく振ると、それらの光が怪物に向かって飛翔していきその周囲を旋回する。

「くらえ!」

 今度は右手を頭の上から振り下ろす。それを合図に光のブーメランが一斉に怪物に襲い掛かった。

 回転しながら怪物の体を切り付け、いったん離れてはまた方向を変えてぶつかっていく。

 あらゆる方向から同時に多数の斬撃を加えられ怪物が苦痛の呻きを漏らす。

 百鳥フリューゲル

 それが彼の能力名である。コルに種々の形質を与えて放出させる。

 飛燕シュヴァルべならば刃のような切れ味を。群雀シュペルリングは光による威嚇用。

 先程ナリアを助けるために使ったのはコルをひたすら強く固く集めてぶつける荒鷹ファルケである。パルの能力の中でも威力は最大級だ。

 これらの鳥の動きや威力はパルがある程度制御することができる。

 威力は他の能力者と比べても秀でているわけではないが、長所はその柔軟性・汎用性にある。題材が鳥なのはパルのイメージのしやすさが原因である。

 怪物は両腕を体の前で交差させ防御の体勢をとり飛燕シュヴァルべの攻撃に耐えている。

 しかし、それだけで四方から襲い掛かる燕の群れを防ぎきることはできない。身体中にみるみる切り傷がはしり、その傷から黒い光が湯気のように立ち上り始めた。

 怪物の体を構成しているであろうコルが漏れ始めている。

 このまま攻撃を続ければ一撃必殺とはいかなくてもやがて怪物を無力化できるはずだ。

「よし!」

 パルは飛燕シュヴァルべの制御に集中する。

 一匹一匹の出力は大したものではなくとも、複数の光の鳥を同時に制御するのは難しい。

 今回は敵の図体が巨大なため有効な攻撃となっているようだが、本来のパルの制御の精密さはまだまだ未熟の部類に入る。

「グオオオオオオ!」 

 怪物が一際大きな声で絶叫した。

 怪物の胴体の真ん中、人間でいう鳩尾の辺りを中心に黒く光るコルが放射状に解き放たれる。

 黒色のコルは怪物の周囲を飛行していたパルの飛燕シュヴァルべ達を容易に掻き消し、辺りに転がった瓦礫や木片を吹き飛ばす。

「うわっ!」

 衝撃波が少し離れているパルのところまで届いた。

 パルは両腕で頭をかばい足を踏ん張って何とかこらえる。細かな破片がいくつもパルの体を打った。

 衝撃をやり過ごすとパルは怪物の方を見て目を見張った。

 失われた筈の怪物の右足がすっかり治っていたのである。身体中に刻み付けたはずの無数の切り傷も回復していた。

 怪物がゆっくりと立ち上がる。戦意満々といった様子である。

 目の当たりにしたあまりの光景にパルの動きが一瞬止まる。

 その隙をついたつもりか、怪物が右の掌からパルめがけて黒い光を放った。インクを圧縮して放出したような黒光の奔流が一直線にパルに向かって奔る。

 能力での迎撃が間に合わない。やむを得ずパルは横っ飛びしてその攻撃をかわす。

 数瞬も遅れずにそれまでパルにいた場所に大きな穴が穿たれた。

 それによって巻き起こされた爆風の直撃を受けパルの体が吹き飛ばされる。

 それまでがおそらくは怪物の計算であった。

 怪物は今度は左手をかざしパルの着地点を狙って間髪を入れずにもう一度同じ攻撃を放った。

 何とか立ち上がり顔を上げたパルが見たのはすでに眼前に迫っていた黒い光の塊であった。

「うわぁ!」

 パルは反射的に右手の腕輪を光に向けてかざし意識を集中した。

 特性も形態も考慮に入れずひたすらにコルを放出する。緊急避難用の盾とするためである。

 直後、ガラスが割れるような甲高い音を立てて、二つの光がぶつかり合った。

直撃こそ免れたが黒光の有する圧力そのものは防げない。

 その勢いを受けきれずパルはそのまま吹き飛ばされると後方の建物に窓を割って飛び込んだ。

「い、痛ててて」

 土煙が舞い細かい木片が落ちてくる中、パルは何とか立ち上がった。

 頭を振り手を持ち上げ拳を握ってみる。身体中に痛みこそあるが深刻なダメージを受けてはないことを確認する。

「しかし、いくらなんでも、卑怯じゃないか?」

 外界からコルを取り込んでいるのだろうか。

 足が無くなってもすぐ生えてくるわ、あんな攻撃を連射できるわ、頭もそこそこいいわ。

 パルは言いながら壊した窓から外へ出る。

 しかし、この強大な相手を目の前にしても、戦う意志は全く挫かれていない。

 尽きることのない闘志が体と心に充満してくるのが分かる。

「でも、ま。勝負はこれからだ」

 そう言い放つとまたオムニアへ意識を集中する。

 パルの意志の強さに呼応するようにオムニアの光が輝きを増す。

 大丈夫だ、まだ使える。――戦える!

 オムニアの反応にパルは確信していた。

 自分が一段階前に進んだことをである。


『その言葉は……どこから来たの?』

 

 フローラの言葉。

 その問いの意味とそれに対する自分なりの答えが見えた気がしていた。

 誰かを笑顔に。

 それは姉・コートニーの口癖だった。

 それは信念などというほど大仰ではなく、主義というほど小難しいものでもない。

 ただシンプルに、『そうしたかったからそうしていた』という、それだけのものだ。しかし、彼女がそれに反する行動に出たところをパルは見たことがなかった。

 その姉が死んでパルが戦い始めたとき彼はそんな彼女の遺志を受け継ごうと思った。

 だが自分はわかっていなかったのだ。実感をしていなかった。裏付けがなかった。

 姉が守ろうとしてたものの真の姿を。

 ソラが。

 ナリアやフローラが。

 そしてフレニーやその面倒を見る老夫婦。ともに復旧作業に汗を流した多くの人々。イヤサム商店街ご近所さん達。

 多くの人たちがそれを見せてくれている気がした。


 そうだ。大丈夫。

 自分の後ろにはあの人たちの笑顔が。

 あんなにも大切な、大切なものがあるのだ。


 ―― 一歩でも退くなんてできるもんか!


 パルは心中でそう叫び、その決心ごと怪物に突き付けるように右手を突き出した。



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