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「えっ!?」

「今のは? 爆発? ですよね?」

 パルとソラに緊張が走る。

 二人は周囲を見回した。

「うお!」

 パルは思わず息を飲んだ。

 街から幾筋もの黒煙が立ち上っているのが見えたからだ。

 あの方角にはイヤサム商店街がある。

「もしかしてまたあの化け物が?」

「そうかもしれないわね」

 パルの言葉にソラが頷く。

『詰所に重大な忘れ物をしてしまったぜ!』

 ナリアの声が思い起こされると、心臓を鷲掴みにされたような不安がパルを襲った。

「まさか、だよな、おい?」

 パルは無意識にそう呟くと慌てて走り出した。

「待って!」

 パルの足をソラの鋭い叫び声が押しとどめた。

「ソラさん?」

 振り返るとソラも立ち上がっていた。

「行ってどうするの?」

 そしてそうパルに問いかける。穏やかだが真剣な声だ。

 パルはしっかりとソラへと向き合い、それから答える。

「行って、戦います」

「力は使えるの? また、あの怪物を相手にするとして」

「わかりません。でも、たぶん大丈夫だと思います」

「大丈夫? どうして分るの?」

「それは。聞こえた気がするから」

「聞こえた? 何が?」

「俺の声です」

 ソラが少し目を見開く。

「貴方の声?」

「はい」

 パルが頷く。その仕草にはこれまでに感じられなかった力強さに満ちていた。

「ソラさんやフローラさんに言われて俺なりに色々考えました。姉さんを真似るだけじゃなくて、俺は本当は何をしたいのかって。そうしたら聞こえました」

 パルは自分の胸に手を添えた。

「ここが。今度こそは自分自身の声で。守らせてもらえ、って叫んでるのが」

「そう」

「ソラさんももう一度聞いてみたらどうですか? どうしたいかって。自分の心に」

「自分に?」

「俺、ソラさんはもう大丈夫だと思います。多分」

「えっ?」

「ソラさんは優しい人ですから。体を張って誰かのために戦うなんてことが当然にできて、俺みたいな奴を許してくれるくらいには」

 二人の視線が交錯する。

「それじゃ――行きます」

 パルは踵を返し今度こそイヤサム商店街に向けて走り出した。

 ソラはその後姿を見送ると。

「私……私は……」

 俯いて唇を噛む。

 きつく握りしめた手が細かく震えていた。


 ※※※


「はああっ!」

 フローラは高く跳躍し上段に構えた輝刃グラディウスをまっすぐに振り下ろす。 

 眩い粒子を煌めかせ光の刃が一閃されると、怪物が縦に真っ二つに切り裂かれた。

 二つに両断された怪物の肉体はそれぞれ黒い霧となって消滅する。

 北の市街地に出現したのは先日広場に現れたのとほとんど同じ外観の怪物だった。大きさも能力もである。

 一般の兵士を巻き込んだのでは不要な被害が出かねない。フローラは一般の兵には住民の避難や周辺の封鎖を頼み、怪物には自分一人で対処することにした。

 無論それは実力的に妥当な措置であり、実際、新手の怪物もフローラの前に大した抵抗もできずに敗れ去ったのだ。

 怪物が消えるのを確認しフローラが小さく息を吐く。

 これで一安心かと肩の力を抜いた刹那、遠方から轟音が響いてくるのを感じた。

「なに?」

 フローラは音のした方に目を向ける。

 どうやら南方の市街地のからのようだが、建物に囲まれたこの場所からでは詳しい様子はわからない。

「もしかして、三体目?」

 だとすればこちらは陽動なのか。前回のようにソラが狙われているのかもしれない。

 フローラは能力を解除すると急いでそちらに向かうことにする。

「くっ!?」

 刹那、研ぎ澄まされた殺気が彼女を襲った。

 半ば反射的に後方へと飛ぶと、先程まで彼女がいた地点に人間ほどの大きさもある火球が上空から襲来し地面を穿った。

 焼け付くような熱風が彼女の金髪を揺らす。

 フローラは鋭い目つきで、地面に着弾しなおも燃え盛っている炎を、いやその先にいる殺気の正体を見据える。

 すると一つの影が炎の中を通って現れた。

 轟々と燃える炎の中を金髪をなびかせ悠々と歩いてくるその姿に、その人物が炎を操る能力者であるとフローラは確信する。

「お初にお目にかかりますわ。フローラ=ホロウェイさん」

 真っ赤なローブと怪しい面とで身を固めたその人物は、放つ殺気とは正反対の態度で挨拶をした。

「どなた? この騒ぎの黒幕さんかしら?」

 フローラは警戒を最大まで高めながらそう質問した。

「ご名答ですわ。わたくしは後継者スケッソルの一人、イグニスと申します。以後、お見知りおきを」

「そのスケッソルさんが今日はどうしたのかしら? お姉さんこう見えて忙しいんだけどな」

 フローラはあくまで冷静に言葉を紡ぐ。

「そんな寂しいこと言わないでくださいな。わたくし、今日は本当に楽しみにしていたのですから」

 イグニスは親しげな調子を崩さずに話し続けている。

「わたくし、能力に目覚めたのは魔王が倒された後で。――まだ本気でこれを試したことがありませんの」

 そういうと小ぶりな杖を取り出した。先端には赤く光るオムニアが備え付けられている。

 子供がおもちゃを自慢するかのように大事そうに撫でる。そうしている動作には恍惚の色が浮かんでいた。

「かの高名なオプティムスともなれば。すぐに燃えカスになってしまう心配などしなくてよいのですよね?」

「そうね」

 フローラは焦りを押し隠して不敵に笑う。

 なるべく早くもう一つの現場に行かなければ。パルが何とかしてくれていると良いのだが。

「そのかわり、その軽そうな頭と重たそうな胴体と。永遠のお別れをする心配が必要よ」

 フローラは右手をゆっくりとかざす。

 そうしていく間に焦りや恐怖を抑え込み精神を戦闘に耐えうる状態に整えていく。

 その準備が整うに伴いフローラの全身から峻烈な闘気が発せられる。

「なるほど、わかりましたわ」

 イグニスは嬉しそうに答えた。フローラの放つ鋭い気をも楽しんでいるようにみえる。

「では、わたくしの花篝(フロース・ファクス)! 存分に味わってくださいまし!」

 杖の先端から豪炎が巻き起こり、フローラに向かって放たれた。



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