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everyday   作者: 佐倉井勝
3/4

姉妹の盃

「DNA鑑定の結果、永田麻衣さんと永田俊樹さんの遺伝子の一致が認められませんでした」

たまたま私の担当についた所員から、無感情に淡々と告げられた。

「……もう一度、言ってもらえますか?」

意味が受け止められなくて、思わず復唱してもらう。所員は顔色一つ変えず冷酷に言い放った。

「両者に世間でいう血の繋がりは認められませんでした」

同席してくれた春奈が両手で口を押さえた。所員が席を外した後も、長い沈黙が続く。

望んだ結果が現実になった。喜ばしき結果だ。

…なのに、足がすくんだ。二人で歩んできた日々が、一瞬にして砕け散る音を確かに聞いた。




あの事件の翌日、相変わらずうっさい目覚まし時計に起こされた時には、すでに兄の姿がなかった。早朝から生徒会の仕事でもあるのだろう。ご苦労様だ。

テーブルを見ると、サランラップに包まれたお皿にトーストと簡単なサラダ、そしてスクランブルエッグが並んである。その横に弁当も。早朝から大変だ。憎たらしい兄だが、優しさと苦労は理解してるつもりだ。素直に感謝しよう――とした時、弁当の下に隠されている小さなメモを見つける。

手に取ってメモを読むと「グッドモーニング!忘れ物すんなよバカなんだから。どんなに女の子たちが俺を帰してくれなくても、十一時までには帰るから!妹よ、愛してるゼ~!!!」とじつに愉快な内容だった。

「むか!」

穏やかな朝がたった一枚の紙切れのせいで、ストレス満点最悪の朝となった。一瞬でも感謝しようとした自分に腸が煮えくり返る。彼は妹の気分を害する天才だな。しかも自覚がないとは救いようがない。

こんな朝食、誰が食べてやるか!と断固たる意思を固める。が、タイミングを図っていたように空腹でぐぅと鳴る。空腹には勝てない。潔く負けを認めよう。

「いただきます!」

美味しいはずの朝食が、かなり不味く感じた。究極のストレスのせいで味覚までおかしくなっているようだ。

もはや栄養摂取のためでしかなくなった朝食を口に運びながら、珍しく考え込む。

どうしてこんな兄がいるのだろうと。こんなことなら離ればなれでいい、他人でいい。他人同士だとしたら、あんな話も聞かずにすむのに。もしも兄が他人だとして、それを今の私に知らされれば絶叫しちゃうね。歓喜だよ――なんてあり得ない妄想の刹那、ピーンと思いついたことがあった。

一度は追求を諦めたが、それでも兄妹ではないという疑いが浮上した今、それを証明する術があるではないか。科学技術の結晶"DNA鑑定"だ。「私って天才!」と沈んだ気分が少し晴れた。

十年ほど前では高価で時間もかかるし、申し込みも面倒だったDNA鑑定だが、その後の技術革新によって安価かつ即日に結果を知れるものとなっていた。金銭面でも私のお小遣いでどうにかできるし、時間もかからない。それに十二年前の災害で多数の行方不明者がでてしまったなか、生き別れた家族を求めてDNA鑑定を行う人も少なくない。だから気負いすることもなく、簡単にできるのだ。

名案だ!と確信した私は朝食を口にかき入れて、兄のベットに落ちていた髪の毛を袋に入れる。ひょっとしたら兄の髪ではないかもしれないが――まぁそんなことはないだろうと勝手に納得する。

放課後、そういった研究所を訪れることにした。部活は顧問に適当な理由を伝えてサボった。一人で行くつもりだったが、春奈が放課後の予定を執拗に問いつめてきたのでワケを説明した。そうしたら、なんと涙目になって「一緒に行く!」と懇願してきた。

私の心は簡単に折れて、春奈と行くことにした。

こうして、私と兄が本当の家族ではないと告げられたのだ。




所員の話には、まだ続きがあった。

「失礼ながら、お兄さんのお名前は《永田俊樹》さんですか?」

「え……はい」

すでに兄ではない――。その事実が視界を曇らせた。小さな間をおいて、かすれた声で返事をすることがやっとだった。

しかし、所員はそんな私の情緒を一切配慮することもなく、不安定な理性に追い打ちをかける事実を伝える。

「そんな氏名の方は実在しません」

「……は?意味がわかりませんけど」

言葉通り、本当に全く所員の話の意味を解さなかった。いつのまにか強くなっていく語尾に私は気づいていない。行き場のない悲しみが、少しずつ怒りに形を変えつつあった。

「どういうことですか?」

「永田俊樹さんという方は存在しません。あなたの住民票を拝謁する限り、永田麻衣さんと同じ住居に登録されている方は《辻村俊樹》さんです」

――《辻村俊樹》さん……だれ?

そんな名前の人、兄じゃない。だって今まで二人で生きてきて――あぁ、そうか…。

心のなかに暗闇が侵入してくるどろどろした感覚。止まらない負の連鎖が心臓を鷲掴みにする。

最初から、兄なんていなかったんだ…。最初から家族なんていなかったんだ。嘘つかれ続けて、騙され続けていきてきたんだ!偽りの日々を歩んで、それを大切にしてた私を兄は笑いながら眺めてたんだ!

「…お兄ちゃんに……裏切られたんだ…」

その言葉を聞いて春奈が激しく泣き始める。さすがの無神経な所員も「以上です」と席を外した。

いつまでも心に絡みつくようで、底が見えなほど深い憎悪が、確かに心に芽生えた。




研究所を後にしたのはよかったが、完全に路頭に迷ってしまった。迷ってしまったとは言っても、もちろんここが何処なのかは理解してるし、帰る場所もないことはない。だが――帰る場所がなくなったことは、変えられない事実だった。

二年間暮らしたあの家は、家族だと信じきっていた兄と暮らしたあの家は、私のいてもいいところじゃない。それが今日判明した。

正気はある。頭も真っ白になってないし、思考も働く。ただ、憎悪の念がじわじわと増えていった。きっと今の私は他人を寄せ付けないそんな相貌とオーラを放っているだろう。

どんなに怒りで顔が歪んでいようが、はっきり言って知ったことではない。誰にも関わりたくない。誰も信用できない。誰とも話したくない。

こうして目的もなく歩き続けた末路は、幼い頃によく遊んだ馴染みのある公園にたどり着いた。夕日が凰上山脈の影にかくれようとしているなか、公園には人影は一つとしてない。誰もいない公園は、無性に私の居場所だと思った。こうして一人でいることが一番だ。一人ぼっちならば、誰にも裏切られることはない。

公園でたった一つ、寂しく佇んでいるベンチに親近感を覚えた。君も一人なのか…同じだね…と古ぼけた木製のベンチに腰かけた。

虚ろに目蓋を開けて、ただ公園を眺める。ブランコ、滑り台、ジャングルジム。どれもよく見かけるものばかりだ。

でもその遊具一つ一つには、家族として暮らしてきた兄との思いでがいっぱい詰まっていた。

兄と二人乗りしたブランコ。振り落とされそうなほど怖かったが、むちゃくちゃにはしゃいでた記憶を覚えている。

兄がゴールで迎えてくれた滑り台。いつまでも飽きずに滑ってた私を、兄は母親さながらの優しい瞳で見守ってくれた。

このベンチにだって、まだ真新しいときから兄と二人で座ってきた。まだ料理に未熟の兄が作った美味しくない弁当も、必ずこのベンチに座っていろいろからかいながら楽しく食べた。兄と一緒の食事は、どんな味でも、どんな時でも美味しかった。楽しいと弾んだ気分がそう感じさせてくれたのだと思う。

「……あれ…おかしいなぁ…」

不意に双眸から熱いものが込み上げてきた。

「私は怒ってるんだよ…。なのにぃ…どうして泣けてくるのぉ!?」

我慢なんてできるはずがない。顔が歪むほどの憎悪が、いつの間にか私の心に抱えきれない悲しみに変貌していた。ただ悲しい。悲しい!耐え難い悲しみが涙として流れ落ちてくれたら、どんなに幸せだろう。胸を締め付ける痛みは消えることがなく、いつまでも嗚咽を漏らした。

「うああぁぁぁぁぁぁ!!」

こんな泣きぶりは何年ぶりだろうか。幾度となく兄には泣かされたが、人目を気にせず、悲鳴のような声を上げて号泣することは初めてだ。

――考えてみれば、望んだ未来が訪れたはずだ。大嫌いな兄との繋がりが消える。絶叫しちゃうねと豪語してたじゃない。そうだ、私は歓喜するんだ!

「バカァ…兄貴ぃぃ!!!」

私はなんと愚かなことをしてしまったこだろう。知ってしまった後には取り返しのつかないこと、知らない方が幸せなこともあること――その大切さは自分の歩みで学習してきたじゃないか。なのに、私はそんなタブーを犯した。

今まで通り、何も知ろうとせずにのうのうと生きてあればよかったんだ。後悔は絶えない。

偽りの日々を作り、私を裏切った張本人は許せない。真実を隠す何らかの理由があったのかも知れない――そんなこと知るか。でも、それ以上にこの現実を望んでいた自分がもっと許せなかった。

兄のことは大嫌いだった。でも、大好きだった。この気持ちをうまく言葉にできるなら私はバカじゃない。気持ちを上手く言葉に出来ないからバカなのだ。

きっと心の何処かで、私が大好きだった兄に戻ってくれることを信じてたんだと思う。そうでなければ二年間も大嫌いな人と一緒に暮らせない。

……ちょっと違う気がする。そもそも私たちは片方が嫌いになっただけで別れられるような、薄っぺらい関係だったのか。そうじゃないはず。私たちは家族としての硬い絆が存在していたはずだ――と自分の気持ちを認識してから、理性が完全に崩壊した。

頭を抱えて、目を限界まで見開く。罪悪感に肺を圧迫されて息ができない。声にならない呻きを吐露して、ベンチから崩れ落ちた。地面を指先でがりがりと削る。指先に激痛が走る。そうでもして罪悪感に苛まれる自分を傷つけておかないと、本当に気が狂いそうだった。

そんな狂気に支配されつつあった私の肩に、誰かの手が添えられた。

涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。そこには親友の春奈がいた。

「…あれ?…いたの…」

「ずっと一緒にいたよ…」

「あはは…そっか、いたのか…」

ありがとうとは言わない。今すぐにもここから去ってほしい。一人にしてほしい。なのに――

私の心情とは裏腹に、春奈はなかなか離れてくれなかった。そればかりか背中から首に腕を絡ませてくる。二人の顔が急接近した。

離して!ともがくが、春奈はどうやっても離れてくれない。今はそんな気分じゃない!と、一人にして!と叫んだ。春奈はそれを無視した。

「もうワケわかんない!春奈も!お兄ちゃんも!どうして…、どうしてこんな…うわぁぁぁぁ!!!」

春奈の腕の中で泣いた。もうがむしゃらに。積もりに積もった感情が一気に表に出た。

春奈の腕を噛んだ。引っ掻いた。それでも春奈は声一つ上げずに、私を包んでくれていた。

親友の腕は、胸は、慈しみの心は止めどなく涙を溢れさせた。春奈の鼓動が伝わる。温もりが、優しさが私の冷えきった心を溶かしていった。

いつの間にか日が暮れている。涙が枯れるまで泣き続けて、ほんのちょっとだけ気持ちが軽くなったような気がした。そんな私をいつまでも彼女は抱き締めてくれた。

「……春奈、ありがとうね。もう大丈夫…」

大丈夫なはずはない。まだ立ち直ってないけど、こんなにも愛しい親友にこれ以上のものを求めてはいけない。それにもう自分の弱い姿を見せたくなかった。

「本当に?春奈お姉さんはまだいいよ?」

どうしてこんなに優しいのか。その優しさが、その強さが、私にもあれば…。

「ありがとうね…」

「どういたしまして」

ニッと笑って、腕を引いていく。その腕に――

「あっ!」

電灯の弱い光に照らされて、春奈の両腕が露になる。その腕には、たくさんのアザや擦り傷ができていた。きっと私が暴れたときにできたものだろう。

「ごめん…ごめんね…」

涙は枯れた。でも嗚咽が止まらない。

あぁ…情けない。自分の暴走で親友まで傷つけてしまうなんて。人として…私は――

「大丈夫よ。私は、大丈夫だから…」

再開しかけた負の連鎖を、春奈が断ち切ってくれた。

「うぅ…春奈ぁ…」

離れようとする腕にしがみつく。こうやって親友はいつも私を慰めてくれた。私は、なんと素晴らしい友を持ったのだろう。

「隣…いい?」

「うん、いいよ――」

刹那、私の隣に笑顔で座る兄の姿が見えた。幻想だ。しかし、私に笑いかける兄の姿が確かに見えたのだ。その兄の残像が、春奈にかき消されてしまう――

「ダメッ!!」

「キャア!?」

激しく尻餅をつく春奈。ハッと我に帰った時には、大切な親友を突き飛ばしていた。な…なんてことを…。

「ごめん…ごめん!ごめんごめんごめん!私、どうして春奈に…」

完全にパニック状態に陥ってしまった。過呼吸になって手足が震える。もう春奈を見れない。

「もぅ…いやぁ…」

「まーい!もう泣かないの!」

隣がダメならと、正面から抱き締めてくれた。この胸が、私の混乱なんてすぐに落ち着かせてくれた。

「どうじでぇ…わだじをみずでないのぉ~」

「ぷっ!ドラえもんみたいな声!モノマネ上手くなったね」

「そんなつもりじゃないよぉ~!」

「やっぱり天然だね」

「むか!」

「なによ!慰めてあげたのに!」

「そんなことお願いしてないよ!」

始まる口喧嘩。睨む私たち。堪えきれない笑み。いつものパターン。

いつの間にか、笑ってる私に自身が驚く。もはや魔性だな、春奈の力は…。

「麻衣、立って」

「どうして?」

「いいから」

立たされた私は茫然と春奈の行動を観察すると、なんと私が座ってた席に春奈が座った。

「横取り!?まさかの横取り!?」

「まぁまぁ落ち着いて。麻衣ちゃん、おいで」

自分の膝をポンポンと叩く春奈の意思を私は読み取った。膝に座れと言うのか!この年で!

「イヤだ!いくら私がちっこい三つ編みちんちくりんだからっていってもイヤだ!」

「文句言ってないでさっさと座りなさいよ!」

「イヤーッ!」

簡単に座らされてしまう私って…弱い…。

「麻衣軽~い」

「おい友よ、それは私にちっこいってイッテんのか」

「えぇ~?ちっこいって言ってるんだよ~」

「むか!」

私より一回り大きい――というか春奈は年相応の身長で、私がチビすぎるからなのだが、完全に母親の膝に座る娘のようになっていた。…背中に膨よかな感触が…。

「…春奈、また胸大きくなった?」

「あれ、分かる?麻衣のぶんももらっちゃってるのかなぁ~」

「むか!どういう意味!?」

暴れようにも春奈の腕にがっちり拘束されているので、ただ子供がじたばたともがいているようにしか思えない。チビな私にはおとなしく春奈の膝にちょこんと座っておくことしかできないのだ。

春奈は、まるでわたしの正反対の女の子だ。チビで童顔で幼児体型の私と違って、背は高い方だし、大和撫子の象徴たる美人だし、胸も大きくて同世代の憧れとなる包容力のある体型だし。この包容力に救われてきた私だが、それでも妬まずにはいられない。艶やかな長い黒髪からもいいニオイがする…。

「ねぇ…麻衣?」

「ふぇ!?」

背中の感触と鼻孔をくすぐるいいニオイにうっとりしていた私は、体をビクッと跳ねさせる。

「ちょっと、…話してもいい?」

さらに体を密着させ、私の首筋に顔を埋める春奈。熱い吐息が首筋に伝ってくる。ちょっとだけ荒れた息が。

「…お兄ちゃん…のことだよね?」

「……うん…」

重い沈黙が訪れる。どうやって話を切り出せばいいのか、お互い躊躇していた。そうそう簡単に口にできる話ではない。そんな静寂を断ちきったのは春奈だった。

「どうするの?これから…」

「…そんなの…わかんないよ…」

結論なんて出てない。

「今までお兄ちゃんが私の支えで…、どんなに嫌っていてもお兄ちゃんは大切だった。なのに私達が血の繋がってない他人だったなんて、どうやってお兄ちゃんに話せばいいのか分かんないよ…」

「今まで通りにはできないの?」

――どうしてそんな残酷なことを聞けるの?、と聞き返そうとした。兄に対する憎む気持ち、裏切られた悲しみ。一度芽生えてしまった念は今でも湧いてくる。今まで通りなんてできるはずがない。

でも、聞き返せなかった。密着する春奈の体が僅かに震えていたからだ。親友は私の気持ちを理解してくれている。それを承知で質問したのだ。

「……ねぇ、春奈?」

「ん?」

だから、試しに聞いてみることにした。残酷だと分かっていても、親友に甘えたかった。答えなんて求めていない。春奈も答えられないだろう。

「私は、これからどうしたらいいと思う?」

「――姉妹の盃を交わすのよっ!!」

突然の大声に体が跳ねた。てゆーか即答!?

「姉妹の…サカズキ?」

完全に気負いしてしまった私は、聞き慣れない言葉にカタコトで聞き返す。振り返って目撃した親友の瞳はキラキラと輝いていた。…なぜ?

「さぁ!やるよ!」

有無を言う暇を与えず、私を隣の席に座らせ、春奈は駆けていった。ポカーンと口を開けて春奈を眺める。

春奈は学生カバンから空になったメロン型のアイスの容器を取り出したと思うと、水場の蛇口を捻って水を入れる。その水の入ったアイスの容器を持ってきた。

「はい」

「え?なにが?」

アイスの容器を差し出す春奈。

「まさか…」

「飲んで!」

「飲んでって…これ水道水だよね…」

「いいからっ!」

水道水を飲んだらダメなことくらい、バカな私でも知ってる。理由も教えずに、これを飲めと言うのか。

さすがの私でも否定しようとした。しかし、少女漫画に劣らないキラキラ目線に否定しようにも罪悪感が生まれた。

おそるおそる…お腹を壊す未来を想像しながら、小さく一口飲んだ。

水道水独特の鉄の混じった味。もうお腹が痛くなってきた…。

「じゃあ、今度は私ね!」と容器を取り上げられたと思うと、なんと春奈は一気に飲み干した。

「ダメだよ!汚いよ!」

「これで、私たちの契りは固まった!」

話を聞いてない…。

「どうゆうこと?」

「盃に入った水を二人で飲み交わすと、永遠に解消できない契りが二人の間に結ばれるの!」

「………へ?」

意味を理解できなくて首を傾げる。そんな私を見て春奈は眉を寄せた。

「と、とにかく!私たちは姉妹になったの!」

「えぇ!?」

「素晴らしいリアクションをありがとう」

「――って、そんなわけないじゃん!」

「そんなわけないことない!ドラマで見たんだよ!極道ドラマっ!」

ドラマって…フィクションなんだよ…。

ぷく~と拗ねる春奈を見て、なぜか笑えてきた。そんな私につられて春奈も笑う。

私を励まそうと必死にふざけてくれる春奈が嬉しかった。

「盃の契りはね、血の繋がりよりもつよいんだよっ!」

「アイスのカップ片手に言う言葉じゃないよね~」

「いいのっ!それよりも分かった!?私たちは今日から姉妹なんだよ!」

「そうだね、姉妹だね」なんて笑ってたけど、心の中では感動して泣いてた。気づかない間に感動が表に出てしまって、笑いながら泣いた。

「春奈、それ…ちょうだい」

「アイスのカップ?」

「うん。欲しい」

「よし!くれてやろう!」

「そのセリフ、ドラマの見過ぎだよ!」

ほら、と手渡されたメロン型のアイスのカップ。不思議と掌に浸透するような熱を感じた。この瞬間から、私の宝物となった。

「ありがとう、大切にするね」

「私たちは姉妹だぞっ!礼など無用だ!」

「ふふ…そうだね。じゃあ、もらってあげるね」

「それはそれで腹立つ!」

「えぇ~なにそれ!」

姉妹となった親友と、親友と私を繋いでくれたアイスのカップに励まされ、私は自分の家に帰ることにした。

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