町を回りましょう
本編に戻ります。
「ルーチェさん、起きてください」
「……え? もう朝……?」
部屋のベッドで寝ていたらジルに起こされた。もう朝かな……?
……でも、外は相変わらず日の光が無いから、いつ朝が来たのか全く分からないよ……。
「もう朝ですよ。……恐らくですが」
「恐らくって……。夜だったらどうするの?」
「もう一度寝ましょうか。せっかくですしマディスさんとグリ……ルシファーさんも誘って全員一緒のベッドで寝てみます?」
「無理だよ! 大きさが足りないじゃない!」
一人用のベッドに四人も寝れるわけないじゃない!
「……気にするのはそっちですか? まあいいです。マディスさんとルシファーさんの部屋に行ってみましょうか」
「起きてるかな?」
「さっき外でマディスさんと会いましたし、起きてましたよ」
「……じゃあ、行こうか」
次にどこに行くのかを話し合わないとね。
「ふあ……おはよう、ルーチェ、ジル……」
「マディスさん、随分眠そうですね」
「だって、朝日が上ってこないからね~……。起きても朝だという感覚が湧いてこないよ」
朝日が昇ってこないのって、地味に辛いよね。
時間の間隔がおかしくなっちゃうよ。
「今が朝なのか夜なのか分からないな……」
「ルシファー……大分眠そうだけど大丈夫?」
「……まあ、戦い以外なら大丈夫だ」
ベッドに座っていたルシファーも、かなり眠そう……。
ほんと、いつまで経っても朝日が昇ってこないって……。
「俺が眠いのはそれだけじゃないんだけどな……」
「へ?」
「布団に包まってベッドで寝られるなんて随分久々だったからな。むしろそっちが主な原因だ」
「ルーチェもジルも知らないと思うけど、グリーダーの時はベッドでは寝れなかったからずっと床で寝てたよ。しかも布団は身体の大きさに全く合っていないからはみ出てしまってたし」
……なんだろ、別の意味で悲しくなってくるよ……。
まあ、あんな大きい人に対応したベッドや布団なんてあるわけないよね……。
「……そんな大きなベッドは無いですよね。それに、無理やりベッドで寝ても寝返りをうったら……」
「実際に何度か落ちた。だから、ベッドで寝るのも随分新鮮な感覚なんだよ」
……大きすぎるのも考え物だよね。
「……大きな身体がここまで不便だとは思わなかった」
「私達も話すときは首を思いっきり上げないといけなかったからね……」
グリーダーは見下ろす形に、私たちは見上げる形になるもん。
「首を動かさずに話せるのも随分新鮮だな」
「普通はそれが当たり前だよ?」
まあ、結構身長差があったら軽く見上げないといけなかったりするかもしれないけど。
でも、さすがに思いっきり首を上に向けなくても良いよね。
「……それで、今日はどうします? 鍛冶屋でも見つけますか?」
「そうだね……ミスリルがあれだけあるんだし、なるべく早く強力な防具を作ってもらった方がいいよね」
ジルが話題を切り出し、マディスもそれに同調する。
悪くない考えだと思うけど、そんな腕のいい鍛冶屋が居るのかどうかって問題があるよ。
「……自分たちで作れればいいんだが……無理だな。俺には鍛冶など出来ない」
「だよね。僕も薬なら作れるけど、さすがに武器や防具は作れないよ」
……私たち全員鍛冶は出来ないから、今日の目標は鍛冶屋探しかな?
上手く見つけられれば、ミスリル製の防具を作ってもらえるかもしれないけど……。
「ただ、見つけたところですぐに作ってもらえるわけではないんですよね。さすがに一日二日で出来るはずありませんし」
「出来るまで滞在……するわけにもいかないか」
「そうなんだよね……」
一応ここの調査目的で来てるんだし、あんまり長引いたらそれこそ依頼の報酬の横取りをされかねないよね。
……一旦外に戻って報告だけする?
「……外に戻るなら、少なくとも変装用に服だけは買っておいた方がいいだろ」
ルシファーが服を買う事を提案した。
……変装用の服……。
「そうですね。相手が相手ですし、私とルーチェさんは一見しただけでは女と分からないような格好にしても良いかもしれません」
「……ジル、要するに、男装するって事?」
でもまあ、外に戻るって事はバグリャの町に入ることになるからね……。
そこでバグリャの勇者と出くわさないわけないだろうし……。
「ええ。例えば……全身赤色の衣装で固めていた人のような格好はどうでしょうか? それに加えて髪を隠し、色のついた眼鏡をかければ大丈夫でしょう」
「……というか、マディスの薬で化けるのは駄目なの?」
良く考えたら、教皇の所で一度薬で変身してたよね。
「ん~……変装と違うから、同じ姿にはなれないよ? だから、怪しまれると思う」
「じゃあ、やっぱり服を買っておくしかないか……」
今日行かないといけないのは、服屋か鍛冶屋……かな。
「そうなりますね。探しに行きましょう」
「うん」
……変装用の服……どんなの買えばいいのかな?
とりあえず外に出て、町を歩き回ってみようか。
「……ありませんね。服屋」
「見つからないね……」
バグッタの町を歩き回ってみたけど、あったのは屋台や昨日訪れたドームだけで、それらしきものは見つからない。
……この町には服屋なんてないのかな?
「いや、それは無いだろ……。だが、本当に見つからないな」
「……行き詰ったかな? ……昨日訪ねた酒場かドームに行って聞いてみよう」
というか、最初から聞き込みをするべきだったよね。
「じゃあ、ドームに行きますか?」
「うん」
このまま迷っていてもたどり着けないだろうし、あんな個性的な服を持ってるならあの場所で聞くのが一番だよね。
ああいう服を自作しているとは思えないし。
「分かった。じゃあドームに向かうぞ」
ルシファーが歩き出したのでついて行く。
……それにしても、どこであんな服作ってるのかな?
「着てみたいですか? ルーチェさん」
「あくまで、変装用だけど……」
ああいう格好はさすがに旅には向かないと思うし……。
「そうか? 案外、ああいう格好の方がその辺の服より使い勝手がよかったりするぞ?」
「……ルシファー、変わった見た目だけど、全部ただの服だよ?」
だから、どれも特に違いなんか無さそうだけど……。
「いえ、ルーチェさん。そんなことはないですよ。騎士の服なんかは、鎧の部分に本当に鉄の板を使っていたりしますから」
「それもう服の領域を超えてるような……」
鉄の服……って、どう考えても鎧だよね?
「鉄の服……。ねえ、ミスリルで服を作ってもらうのってどうかな?」
「ミスリルで服……?」
……全身緑色の輝きを放つ服……さすがに目立ちすぎるよね。
それに、ミスリルは金属だからかなり動きづらそうだし……。
「……ルーチェ、いくらなんでもそんな不格好な服は作らないと思うぞ?」
「だ、だよね……」
そんな服じゃ駄目だよね。
ミスリル一色の服なんて見た目からしてアレだし。
……いくら頑丈でも、ちょっと着るのはためらうかも……。
「……マディスさんのアイデア自体は悪くないですが……どんなものが理想かも決まっていない以上どうしようもないですね」
「それに、これってそもそも鍛冶屋が居ないとどうにもならないもんね。見た目なんて後で考えればいいんだし」
「そう言う事だ。だから、さっさとドームに入って服屋と鍛冶屋の場所を聞くぞ」
「そうしましょう」
……まあ、何よりも先に鍛冶屋と服屋の場所を分かっておかないと駄目だよね。
さ、中に入って話を聞こう。
「ああ……昨日の人達ですか。何かご用でしょうか?」
ドームに入ると受付の人が出迎えてくれた。
「はい。鍛冶屋と服屋の場所を教えてほしいんです」
「鍛冶屋と……服屋? なぜです?」
ジルの質問に若干驚いたような表情を浮かべる受付。
……まあ、鍛冶屋と服屋ってどう考えても結びつかないよね。
「昨日頂いたような衣装を旅でも使いたい……と思ったのですが、危険な旅に普通の衣装では通用しないと思いまして……」
「……まあ、確かにただの布製の衣装ですしね。……まさか、その衣装でも問題なく戦えるように加工するために、鍛冶屋と服屋を両方使うつもりですか?」
「はい。……鍛冶屋と服屋の場所、教えていただけないでしょうか?」
ジル……? まさか、普段からああいった恰好で戦うつもりなの?
さすがにそれは……。
「……なるほど。……ただ、服屋も鍛冶屋も、少し厄介な場所にありますよ。バグッタの郊外に地面に生えた緑色の土管があるんですが、その中にあるダンジョンを突破した先にあります」
「ダンジョン? ……と言う事は、魔物が出るんですか?」
……この場所にダンジョンがあるんだ……。
まあ、あってもおかしくはないけど……。
「ええ。……まあ、強さ自体は大したことはないんですが、少々厄介でして……」
「厄介?」
「はい。あの魔物は、何度でも蘇りますから。駆除しても駆除してもどこからともなく湧いてくるんです」
駆除しても湧いてくるって……。
まあ、魔物の根絶は難しいよね、多分。
「鍛冶屋と服屋があるのはそのダンジョンを抜けた先です。ダンジョンを抜けた先だと、良い素材が取れるとか……。なので、こちら側に武具や衣装を扱う店が出てくることはないですね」
「……行くしかないですね」
……そうだね。防具の新調は絶対に必要だし、変装用の衣装も……。
「……郊外って言いましたけど、目印は何かありますか?」
「目印……そうですね。あの近くには、真実の泉という観光名所がありますよ。泉のある場所を裏に回ると、地面に土管が生えています」
……真実の泉ってグリーダーがルシファーに変わった場所だよね?
あそこの裏?
「なるほど。ありがとうございました」
「いえ。……くれぐれも、お気をつけて」
ジルと受付の話が終わり、私たちはドームを後にした。
……あの泉の裏手にあるなら、今すぐに向かう?
「いえ、それは不味いでしょう。ルシファーさん、戦えますか?」
「……明らかに格下の魔物が相手なら大丈夫だとは思うが、正直不安しかない」
……さすがに格下が出ると決まっているわけじゃないもんね。
万全の状態で行かないと駄目か。
「……とはいっても装備は整えられないし……じゃあ、今日はこの後一日訓練する?」
「そうだな……そうする。ジル、相手頼む」
「分かりました。じゃあ、宿に戻りましょうか」
今日はこの後一日訓練に費やすことになった。
……私も訓練しようかな?
「せめてホーリー・カノンの無詠唱くらいは出来るようにならないとね、ルーチェ」
「マディス、無茶言わないでよ! ……でも、少しでも詠唱が早くなるように練習した方がいいかな?」
とはいっても、普通に詠唱無しでやっちゃうと威力がかなり低くなるから難しいんだけど……。
私は使ったこと自体無いけど、やっぱり杖で補った方がいいのかな?
ーーーー
「準備良いですか、ルシファーさん」
「ああ。……さて、どれだけ動けるかな」
誰も来なさそうな空き地で、ジルとルシファーが互いに武器を構えた。
ジルの方は相変わらず身の丈ほどあるテーブルナイフと魔術を防ぐフォークを持っている。
ルシファーが持っているのは……グリーダーが放っていたようなオーラを放っている……真っ赤な刀身の剣?
いきなり空中に出てきたような気がするけど、どこから出したんだろ?
「ルシファーさん、何ですかその剣?」
「昨日俺が話した前の世界に伝わっていた「元」聖剣、デュランダルだ。俺でも使えるようにした結果、こんなオーラを放つようになった」
ジルにそう返しつつルシファーは剣の感触を確かめるように剣を二、三度振る。
……剣の刀身からどす黒いオーラが噴き出してる時点で、もうそれは聖剣じゃないよね。
一体どんなことをしたら聖剣を魔剣に変えられるんだろ。
「いかにも魔剣ですね。そのどす黒いオーラ。グリーダーさんを思い出しますよ」
「この剣が無ければグリーダーのオーラは出なかっただろうな。まあ、身体の外に出てしまえばもうオーラは纏えないだろうが」
そう呟くルシファーの台詞通り、ルシファーが持っている魔剣のオーラはルシファーには全く纏わりついていない。
これではあのどす黒いオーラをグリーダーみたいにルシファーが纏うことなど出来ないと思う。
……グリーダーは文字通り人の皮を外側に張り付けたような物だったから、グリーダーの皮とルシファーの間に鞘に入れた状態で挟んでいたのかな?
「さて、始めるか」
「いつでもいいですよ、ルシファーさん」
「……と言っても、本調子とは程遠いけどな」
そんな会話をした直後、ルシファーが剣を構え、ジル目がけて突進する。
……確かに、グリーダーの時より遅いかも。というか歩幅が小さくなってるだけ?
どっちにしろ、今のルシファーの足なら私でも何とか追いつけそう。
そんなことを考えていたら、ルシファーの剣がジルの構えているテーブルナイフに振り下ろされた。
あたりに金属がぶつかり合う音が響く。
「…………」
「確かに、ずいぶん軽いですね。斧と剣の違いもあるでしょうけど、それ以前に」
「俺の動きの方が原因……だよな」
……単にグリーダーとルシファーの体格の違いのような……。
「……踏み込みの感覚もずれてるな。できるところから直していかないとな」
「直るまで付き合いますよ」
「頼む」
短い言葉を交わしたのち、再び離れて向き合う二人。
……前衛として武器を持って戦ったことがない私には分からないけど、やっぱり感覚の違いが深刻なのかな?
「深刻だろうね~。ルシファーの足をよく見ればわかるけど、距離の調整が若干不安定だよ」
「そう……なの?」
言われても私には全く分からな……あれ?
剣を放つときの足の動き、なんか違和感が……。
「歩幅がずれてるな……」
「ずれてますね。剣を振り下ろす時に距離を修正しようと無意識に急停止しています」
「どうしても半歩ほどずれるな……何とかしないと」
……まだ身体の感覚は「グリーダー」のままなのかな?
足の歩幅から体格まで全然違うから、感覚がだいぶ違うだろうけど……。
「悪いな。しばらく付き合ってくれ」
「早く感覚を修正しないと不味いですからね。直るまで付き合いますよ」
感覚を直すのって大変なんだろうな……。
「じゃ、ルーチェ。僕たちも訓練しようか」
「え?」
と言っても、マディスは薬しか使わないような……。
私は、魔術の練習ができるけど……。
「いろいろ素材も集まったし、試したい薬があったりするからね。効果を確かめるためのサンプルになってよ、ルーチェ」
「それは訓練でもなんでもないよね!? ただの実験台だよ!」
若干遅れてしまいました。
用事が重なっていたりするので、次話も微妙に遅れるかもしれません。




